「私どもは、企業などで秘密裏の潜入警備をすることもありますので、名前が広く知られることは警護対象者へのリスクを高めたり、業務に支障をきたす場合があるんですね。ですから取材には協力しますが、顔と名前を出すことはしないでいただきたい」
そう話すのは、取材に応えてくれた身辺警護を専門とする民間警備会社のベテラン警護員。国内外の要人や著名人、芸能人を護った実績、警護ドラマ制作にも携わった経験を持つ会社だ。プロ中のプロが、ドラマ『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)で木村拓哉が演じる“身辺警護人”を解説する。
身辺警護は護る仕事
「簡単に言いますと人の身体、生命、財産を護る仕事です。警護対象者が抱える内情を聞きとり、不審者を接近させないなど、迫る危機への対応、あらゆるリスクや状況を想定し、警護策を相談、提案、実践するサービスです」
SPと民間との違い
「SP(セキュリティーポリス)は警視庁警備部に属する警察組織の1つで、つまりは警察官です。SPは国内外の国賓クラスを担当することが多いのですが、ただプライベートでの観光や視察など公費で賄えない公務以外は、外務省の管轄となり民間のほうに警護依頼がおりてきます」
VIPの来日時には警護担当らが本国から同行するが、日本国内の事情、社会状況や地理の把握などの点から、民間が重宝されるという。
一般の依頼も受ける
クライアントは富裕層のイメージが強いが、近年はストーカー被害、身内や子どもが不審者に狙われている、DVや虐待といった家庭内トラブルなど、事件が凶悪化し多様な社会問題が浮き彫りに。そんな今だからこそ、一般を対象にしたサービスに取り組む警備会社が増えている。
警護料金はランク別
各社の基準や査定ランクによって変動はあるが、特に差し迫った危険がない場合の予備的な警備や、用心のために警備をつけたいなど、リスクが低い場合は、1時間で1名3000円~4000円ほど。
常にリスクがつきまとう社会的地位が高い職業、そして一般家庭においても実際に外部から被害を受けている、脅迫状を送られているなど危険な状況にある場合は、よりランクの高い警護となる。1時間1名8000円~9000円が相場。また依頼は4時間、6時間、8時間以上、と時間制が敷かれることが多い。
警護人材をスカウト
必要資格はないが、そもそも警備員になるには警備業法において、新任の場合には基本教育15時間、業務別教育15時間の30時間以上、現任であれば8時間以上の法定研修が必要で、教育を受けなければ現場に出ることはできない。身辺警護員にはさらに、各組織で護身術や対刃物などの対人訓練などが行われる。
「警護業界は大きく分けて、警察OB、空手経験者や元格闘家、そしてプロテクションスクールなどの専門学校出身者で成り立っています。未経験者が身辺警護につくことは難しく、弊社では一般募集することはまずない。ネットワークを通じて武道経験者や有段者らに“いい人材はいないか”と、スカウトに出向き適性を判断します」
適した制服はスーツ
「黒や紺、チャコールグレーなど目立たない色のダーク系のスーツを着用します。ですが、例えば現場がプライベートなゴルフ場など、威圧的な警備が向かない場合は警護員も私服で同行します。とはいえドレスコードのあるパーティー会場なども多いため、スーツがいちばん溶け込みやすいということです」
丸腰である必要なし
届け出をすれば、警備員は警備業法に基づいた特殊警棒を所持、携帯できる。ただ警護員は格闘技や護身術などの“見えない武器”を所持しているため、警棒の使用不使用は各社の方針による。というのも、警棒所持はこんな弊害を引き起こすことも。
「裁判所や空港の金属探知機に警棒が引っかかって時間がかかることもあるのです。あらかじめ現場に届け出を出すこともできますが、クライアントに煩わしさを感じさせないことを第一としています」
身代わりの盾になる
「未然に危険を防ぐことが一番ですが、クライアントの安全が第一ですので、身代わりになることも役目です」
命運握るチーム連携
「例えば2名でのフォーメーションは、警護対象者の前と後ろで斜めに対角線上になるようにつきます。前方が暴漢を押さえて、その間に後方が対象者を安全な場所に誘導する、という役割です」
当然、人員は多いにこしたことはなく、総理大臣にはSPが7人つくことも。
一般人の場合は経済的な理由もあってか、1名か2名が通常のよう。
「4名いれば対角線上に囲む、ボックスフォーメーションを組み、より対象者の安全を保つことができます。後方をリーダーが務めて前方に若い人間がつくのが普通ですね。リーダーは後ろから対象者の前後左右を確認して、周囲に指示をしてチームをコントロールします」
敏腕BGは高給取り
「具体的な数字は控えさせていただきますが(苦笑)、経験や実績、スキルによって変動します。一般的な職種よりは高いと思いますよ」