1986年『女が家を買うとき』(文藝春秋)での作家デビューから、一貫して「ひとりの生き方」を書き続けてきた松原惇子さんが、これから来る“老後ひとりぼっち時代”の生き方を問う不定期連載がスタート。
第1回「ひとりで老いる時代が、ついに来た!!」
1年の短いこと。誰もが感じていることだろうが、あまりの時間の過ぎゆく速さに、自分の年がわからなくなることがある。ひとりを目指して生きてきたわけではないが、気がつくと、「ひとり身の70歳」。それが今のわたしだ。
ひとり身の先輩方に対して失礼な話だが、若いころの傲慢(ごうまん)なわたしは、ひとりで寂しそうに公園に座っているお婆さんを見るにつけ、自分の将来の姿を重ね、ぞっとしていた。もし、その年までひとりだったらどうなるのだろうか。たいして自立してないのに自立した女のふりをしていたツケが、人生後半に来るのだ。そのときは、踏切に飛び込みたい! と本気で思う日もあった。
しかし、実際にその恐怖の年齢になってみると、若いときの想像とはまったく違い、暗い毎日どころか、ふつふつと闘志に燃えている自分に驚きを隠せない。
わたしの時代(団塊の世代)は、女性の結婚は25歳まで。それまでに結婚できなかった女性を25日過ぎのクリスマスケーキに例え、売れ残りと称された。
女性は結婚するのが幸せ、と本人も親も世間も考えていた時代だったので、どんな人でもというと語弊があるが、どんなに性格の悪い人でも、どんなに見た目のかっこ悪い人でも結婚できた時代だった。それがいいのかどうかはわからないが……それで救われた人も多いだろう。こんな言い方をするから嫌われるのだが、「よく結婚できたわね」と、首を傾げたくなる脂ぎったおじさんを見るたびに、「時代が救った」と思ってしまう自分がいる。
さて、昨今を見てみよう。時代はどんどん進み、女性も大学に行くのは当たり前、就職するのも当たり前のとてもいい世の中になった。つまり、自分で生き方や職業を選べる時代になったのだ。もはやクリスマースケーキ説は伝説となった。
内閣府の調査(2015年)を見てみると、未婚の人がいかに増えたかがわかる。
まずは30代男性の未婚率を見てみよう。30~34歳までの未婚率は47.1%でおよそ2人に1人が未婚。35~39歳までの未婚率は35.0%でおよそ3人に1人が未婚。
女性を見てみると、30~34歳までの未婚率は34.6%でおよそ3人に1人が未婚。35~39歳までの未婚率は23.9%でおよそ4人に1人が未婚。
30代男女の未婚率の推移を見てみると、1965年から徐々に増え始め1975年からは急上昇を始め2015年でピークを迎える。
また、国立社会保障・人口問題研究所の「人口統計資料集」(2017年改訂版)で生涯未婚率(50歳まで一度も結婚したことのない人の割合)を見てみると、1980年調査では男性は2.60%、女性は4.45%だったが、35年後の2015年には、なんと、男性が23.37%に上昇、およそ4人に1人が生涯未婚者である。女性も14.06%に上昇し、およそ7人に1人が生涯未婚者であることがわかった。
ひとりとは未婚の人のことをさすのではない
この数字から、「老後ひとりぼっち」時代の到来が確実に予測されるが、ひとりといっても未婚の人ばかりではない。伴侶と死に別れた人、離婚した人も「ひとり」の中にカウントしないといけないだろう。そうなると、今の若い世代の人が高齢者になるときは、半数以上の人がひとりで老後を送っているといっても過言ではないだろう。
先月12日に発表された国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2040年には全世帯の39.3%がひとり暮らしとなり、65歳以上の独居率は、男性が20.8%、女性が24.5%まで上がるという。
団塊の世代のひとり暮らし高齢者の問題が取り上げられている昨今だが、若い人の将来のほうが、もっと深刻のように思える。
これからは、ひとりで老後を迎え、ひとりで長生きするのを前提に人生を組み立てる必要があるのではないだろうか。ひたひたと迫る「老後ひとりぼっち」の足音を聞き逃すな。
一昨年、SB新書から『老後ひとりぼっち』を出させていただいたが、わたしとしては、未婚だろうが、結婚してようが、子供がいようが、そんな枝葉のことは関係なく、ひとりで老いることは、みんなの共通課題だという思いで書かせてもらった。
ひとりとは未婚の人のことをさすのではない。ウエディングベルを鳴らしたあなたのことよと、わたしは言いたい。
街に出ると、ひとりでカフェにいたり、食事をしている若者の多いこと多いこと。スタバなどのカフェでは、2人掛けのテーブルより、ひとりでくつろげるカウンター席が多くなった。若者たちはひとりの時間を楽しんでいるように見える。すごく、素敵な光景だ。
今の時代は結婚しなくても、料理が苦手でも、コンビニや宅配の充実で、快適なひとり暮らしが可能だ。結婚も素敵だが、MUSTではなくなった。
しかし、若いときのひとりと、老いてからのひとりは同じひとりでもまったくちがう。このことは、55歳ぐらいにならないとわからないだろう。なぜなら、初めて自分の身体に老いを目視したときにしかわからない感覚だからだ。
だから、30代で老後が不安という人の不安は、もしかしたら将来、存在しないかもしれないのだ。あくまでも、30代という若さで想像するおとぎ話の世界、空想。そういう意味では、わたしも、80代の人から言わせれば、空想で話をしていることになる。
ただ、70年ひとりで生きてきたので、その経験からの話はできる。先輩ヅラする気はないが、若いときに知っていたらよかったと思うことが多いので、少しでも若い人の役に立てればと、今回のシリーズを始めることにした。
ひとりで生きていくときに、これから直面するだろう問題、ちょっと恐ろしい話、今から考えておくと生きることが楽しくなる話など、自由に書いていくつもりだ。
例えば、ひとり身に襲いかかる身元保証人のこと、ひとり暮らしで病院にも行けないときの対処法、未婚女性が親の介護をさせられる問題。
一方で、ひとりは自由を最大限に楽しめ、家族がいないのは悪いことではない。自立した女性は、別に可愛くなくても、何歳になっても結婚を申し込まれる事例もある。
また、読者の方が不安に思うことなどがあれば、できる限りお答えするつもりでいる。
わたしの夢は「ひとりでよかった!」と笑いながら死んでいける社会を作ること。皆さんと一緒に考え、ちょっとでも社会を変えることができたらうれしい。
<プロフィール>
松原惇子(まつばら・じゅんこ)
1947年、埼玉県生まれ。昭和女子大学卒業後、ニューヨーク市立クイーンズカレッジ大学院にてカウンセリングで修士課程修了。39歳のとき『女が家を買うとき』(文藝春秋)で作家デビュー。3作目の『クロワッサン症候群』はベストセラーとなり流行語に。一貫して「女性ひとりの生き方」をテーマに執筆、講演活動を行っている。NPO法人SSS(スリーエス)ネットワーク代表理事。著書に『「ひとりの老後」はこわくない』(PHP文庫)、『老後ひとりぼっち』(SB新書)など多数。