読書の楽しさを子どもたちに教えようとするさまざまな取り組み。ここでは、“地元の図書館がこうだったらいいのに”と思わずにはいられない岐阜市立中央図書館が行っているユニークな取り組みと、絵も物語もないのになぜか子どもたちにウケると話題の『えがないえほん』に注目します。

子どもの読書を支える取り組みを行う「滞在型図書館」

 JR岐阜駅からバスで10分ほど走ると、木製格子屋根の建物が見えてくる。

 2015年7月の開館以来、市民からは“メディコス”の愛称で親しまれている『みんなの森 ぎふメディアコスモス』の中に岐阜市立中央図書館はある。

岐阜市立中央図書館

 1階にはホールやギャラリー、市民活動交流センター、多文化交流プラザなどがあり、『スターバックス』も入っている。中央はガラス張りの『本の蔵』で書架が並ぶ。

 エスカレーターを上がると図書館のメインフロア。天井には、“グローブ”と呼ばれる大きなかさがいくつも下がり、ゆるやかにコーナーを形成している。目指したのは、市民がずっとここに居たくなる、何度でも来たくなる“滞在型図書館”だ。

「そのために掲げたのが、“子どもの声は未来の声”というメッセージです。子どもが少しざわざわしていても、親御さんと一緒になって見守ってほしい。一方で、子どもにも公共の場所でのマナーを学んでほしい。図書館がそういう場所になれば、子どもから大人になっても通い続けてくれる。子どもから大人までの『サードプレイス』(自宅や職場とは別の居場所)になってほしいんです

 そう話すのは吉成信夫館長だ。岩手県で『森と風のがっこう』の運営などを経て、公募で図書館長となった。

 開館から2年半。旧館では6割が40代以上だった利用者が、いまでは40歳以下の子ども・若者・子育て世代が6割を占めるほどに。

 絵本・児童書のコーナーには、靴を脱いで上がれるところがあり、かまくらのように中に入って1人で本を読める『ころん』『ごろん』もある。館内では乳幼児向けのお話会を毎日開催し、年齢別のお話会も定期的に開催。また、子どもが知りたいことを書いてポストに入れると、館長自らが返事を書いて掲示板に貼り出している。

『ころん』では、ひとりで本を読んでもいいし、友達と入ってもいい

「本をあまり読まないという子がいてもいい。でも、その子が読みたいと思ったときに図書館が役に立つことを知ってほしい」

 と吉成館長は言う。昨年策定された第2次『岐阜市子どもの読書活動推進計画』にも、何冊読むべきという数値目標を入れなかった。

 翌朝、ふだんは館内にある、きららという愛称の『わんこカート』が車に積み込まれた。後ろに本が収納できる。このカートとともに、館長と司書が市内の小学校を訪れるのだ。この日は加納西小学校で、1〜3年生に紙芝居や絵本の読み聞かせを行った。吉成館長が絵本を読むと、「カンチョー!」と声援が飛ぶ。その場にいたほとんど全員がメディコスを訪れたことがあるという。

吉成館長の絵本読み聞かせ。身振り手振りで子どもたちを夢中にさせ、楽しませる。右横にあるのが、わんこカート『きらら』

 3年生の児童に話を聞くと、「行くと調べものをしたり、借りたい本を探したりします」と、すでにヘビーユーザーのよう。

 小学校には『本のお宝帳』を配布、達成冊数の段階により称号を授与している。これらの事業は図書館の『学校連携室』が中心となって行っている。図書館から学校に出向くだけでなく、学校図書館の活動を図書館にフィードバックしてもらい、ともに子どもの読書活動を盛んにしていくことを目指しているという。

『子ども司書』の養成などほかにもユニークな取り組みが多く、地元の図書館がこうだったらいいのにと思ってしまう、そんな図書館だ。

読み聞かせで大爆笑『えがないえほん』

 昨年11月の発売以来、Amazonの絵本部門で1位となり、またたく間に17万部を超えたベストセラーがある。それが『えがないえほん』だ。

 ミステリーやSFを得意とする早川書房が同社初の絵本として発売したもので、タイトルのとおり、絵はまったくない。そのかわりに「ばふっ」「ぶりぶりぶ〜!」など、カラフルで大きな文字が目に飛び込んでくる。

「もともとはアメリカのB・J・ノバクさんというコメディアンが書いた本で、向こうでは“読み聞かせのバイブル”と呼ばれています」

 そう教えてくれたのは訳者の大友剛(たけし)さん。翻訳家であり、同時にミュージシャンかつ手品師でもある大友さんは、年間250本以上の読み聞かせを行っている。オノマトペ(擬音語や擬態語)が多い『えがないえほん』は、子どもの反応を見ながら翻訳したそうだ。

『えがないえほん』訳者の大友剛さん

 取材を申し込むと、ちょうど読み聞かせのイベントがあるというので、山梨県甲府市の『朗月堂書店』を訪ねた。

 読み聞かせが始まると、すぐに子どもたちの笑い声が響く。子どもたちは、ページが変わるたびに大喜びで、「ウチの子があんなに笑うのは見たことない」と驚く参加者も。

 子どもに大人気の『えがないえほん』だが、ないのは絵だけでなく、物語もない。そのかわりにルールがあって、読み手は本に書いてある文字を声に出して読まなければならない。

「つまり、ふだんは子どもたちに“使っちゃダメだよ”と言っているような言葉を大人が言わされるのがツボなんですね。ひょうきんな先生が読むのもいいですが、マジメな雰囲気の先生や校長先生が困った顔して“ぶりぶりぶ!?”と読まされている感じもウケるんです

兄弟で『えがないえほん』が大好き。甘利亮英君(10)と祐弥君(8)

 親子で笑えるコミュニケーションツールとして、すでに24か国で翻訳されている。

対人スキルを磨く道具として、企業の新人研修に取り入れるというのもいいのでは?」(大友さん)

 もちろん、意味のないオノマトペだけではなく、「子どもの笑いのツボを心得たコメディアンならではの巧みなアイデア、そして子どもへのリスペクトがある本」と大友さんは言う。