脳が活性化すると再ブームの波が来ている「速読」、時代を超えて再注目されている「紙芝居」、読書の輪が広がる「ビブリオバトル」や「読書会」をはじめ、読書にまつわるさまざまなイベントが各地で開催されています。そこではどんな読み方&読まれ方がされているのか──多様化する読書スタイルの最新事情を徹底調査しました!

脳を鍛える「速読」で新しい読書体験を!

『速読』と聞いて多くの人がイメージするのは、おそらく勢いよく本をめくって「はい、読めました!」というものだろう。

 昭和の終わりごろには「1冊を1分で読む!」というようなハウツー本が一大ブームを巻き起こした。当時、テレビで速読する人たちを見て「あんなふうにスラスラ読みたい」と思った人も多いはず。しかし、どこかうさんくさかったのも事実で、ブームは長続きしなかった。それから約30年、新しい速読ブームの波が来ているという。

「私が考える速読というのは、ただ単に本を速く読むためのテクニックじゃありません」

 そう話すのは、現在の速読ブームの牽引(けんいん)者、呉真由美さん。“速読コンサルタント”の呉さんは、「誰にでもできるがんばらない速読」をモットーに全国でセミナーを開催。受講生も小学生から90代までさまざま。

呉真由美さんが教える速読トレーニングの様子

「ふだん、私が教えているのは、本を1分で読むためのコツではなく、簡単に言えば、脳を活性化させるための方法です」

 トレーニングを積めば、本が速く読めるようになるだけでなく、脳の情報処理速度が上がり、目に飛び込んできた情報をパッととらえることができるようになるという。実際、呉さんは時速165キロの豪速球になんなくバットを当てることができるそうだ。

 受講生にはプロのスポーツ選手も多い。瞬間的な状況判断を迫られるスポーツ選手にとっても、速読の練習は有意義だという。さらに、こんな受講者も。

「趣味で写真を撮っていた男性が速読を始めてコンテストで大臣賞を取ったり、認知症で寝たきりだった80代のおじいさんが人の名前を覚えられるようになって、歩行器を使って歩くまで回復した例もあります」

 速読、恐るべし。

 だが、呉さんが行っているトレーニングは、ごくシンプルなものばかりだ。基本的には「目を速く動かすトレーニング」「視野を広くするトレーニング」「速く見るトレーニング」の3項目だけ。

「人間の目と脳は、例えば“大安売り”や“バス乗り場”など短い言葉の意味は1文字ずつ読まなくても一瞬で理解できます。それが長い文章になった場合も、訓練を積めば視覚情報としてパッと意味を理解できるようになるのです」

脳開コンサルタント教会の会長を務める、呉真由美さん

 約2時間の講習では目を縦横に動かすエクササイズをして、簡単な童話をできるだけ速く見るトレーニングをする。最初は文章の意味を考えずに、文章をとらえる速度を上げ、目から脳を鍛えていく。毎日、繰り返すことで読むスピードは10倍にも20倍にもなることがあるという。

「でも、読書は競争ではありません。速読で脳を活性化させて、そこからいろんな可能性を広げていってほしいと思います

 呉さんによれば、「自分は本を読むのが遅いから」とあきらめている人ほど効果があるという。もし本がスラスラ読めるようになって、脳がイキイキすればこんなにうれしいことはない。

 そこで実際に、呉先生指導のもと、ライターも“速読”をやってみました。言われるままに目を動かし、速読トレーニングを開始。「もっと速く! 自分はできないと思わないことですよー!」と呉先生。エアロバイクにつかまって無理やり速く走るのと似た感覚だ。「もっともっとー!」。はぁはぁ。集中して疲れたが文字を追うスピードは約2倍に(1分間で約1800文字→約4000文字)。……ビックリ。

本好きのコミュニケーションが生まれる「ビブリオバトル」

 近年、図書館や学校などで「ビブリオバトル開催」などと書かれたポスターを目にした人も多いのでは? ビブリオバトルとは、お気に入りの本を紹介しあう“知的書評合戦”。やり方は簡単で、以下の公式ルールを守ればいい。

■ビブリオバトル公式ルール解説
(1)発表参加者が、読んでおもしろいと思った本を持って集まる。
(2)順番に、1人5分で本を紹介する。
(3)それぞれの発表の後に、参加者全員で、その発表に関するディスカッションを2〜3分行う。
(4)すべての発表が終了したあとに「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を、参加者全員1票で行い、最多票を集めたものを“チャンプ本”とする。

 2007年、谷口忠大さん(現・立命館大学教授)が京都大学の研究室で始めたのが最初。その後、各地に広がり、’10年にはビブリオバトル普及委員会が発足。大学生・大学院生を対象にした『全国大学ビブリオバトル』が毎年、開催されるようになった。また、中学生・高校生を対象とするビブリオバトルも行われている。

ビブリオバトルの様子

 カフェや古民家を会場にしたり、“猫” “戦国”などのテーマを設定して行うことも。発表方法も本の内容を丁寧に説明する、自分が感銘を受けたポイントに絞って話すなどさまざまだ。

「ビブリオバトルに参加することで本の読み方が変わった、自分の好きな本をあらためて知るきっかけになったという声が多いです」

 と話すのは、有隣堂店舗運営部の市川紀子さん。有隣堂では’13年から神奈川や東京の各店舗を会場に、月1回のペースで『ビブリオバトルin有隣堂』を開催。これまでに通算70回以上行われており、その普及活動の功績を称(たた)える『Bibliobattle of the Year2017』で大賞を受賞した。

「続けていくうちに、次第に参加者が増えてきました。昨年は14回開催し、108冊が紹介されました。幅広いジャンルの本が取り上げられています」(市川さん、以下同)

 開催時には紹介された本を販売するが、かならずしも“チャンプ本”がいちばん売れるとは限らないのがおもしろいと市川さん。書店でビブリオバトルを行うことで、新刊ではない既刊やマイナーな本の掘り起こしができ、店に足を運んでもらうきっかけにもなる。

「絶版本・品切れ本を紹介するビブリオバトルを開催して、そこから復刊につながるというようなことができるといいですね」

横浜の雑誌『はま太郎』とコラボで「酒の肴に読みたい本」をテーマに

 自治体や図書館、学校と連携してビブリオバトルを行うこともある。

「ですから、これまでに100回以上、司会をしていますね。開催組織や会場、参加者によって雰囲気が変わってきます。そのなかで発表者に自由に話してもらうように心がけています」

 ただ、いかにうまく話すかよりも、本を紹介することで人と人とのコミュニケーションが生まれることが大切だ。ビブリオバトルの本当の目的は「本を通して人を知る、人を通して本を知る」ことにあるからだ。

 ルールを守れば誰でも開催できるこのイベント。あなたも参加したり、企画したりしてみては?

古くて新しいメディア。いま「紙芝居」が熱い!

 夕方になると自転車を引いたおじさんが原っぱにやってくる。ラッパで子どもを集めて飴を売り、『黄金バット』を語り始める……。多くの人にとって「紙芝居」のイメージはこうだろう。テレビの普及により、街頭紙芝居は姿を消した。

 しかしいま、この紙芝居が再び人気に。保育園や幼稚園だけでなく、図書館、病院、高齢者施設などさまざまな場所で演じられている。これまで消耗品扱いだった紙芝居を収集する図書館や、研究機関も増えた。

「紙芝居と絵本はまったく別なものなんです。前者は脚本、絵本は文で語ります。紙芝居は演じることで聞き手にわからせるので、それに合った描き方をしなければなりません。絵本をそのまま拡大しても紙芝居にはならないのです

 と長野ヒデ子さん。絵本作家として活躍しながら、30年ほど前から紙芝居を描いてきた。紙芝居文化推進協議会の会長も務めている。

長野ヒデ子さん

 この日、千葉県市川市で行われた『この本だいすきの会』の集会で、長野さんの講演があり、その中で自作『ころころじゃっぽーん』の紙芝居を演じた。“舞台”の3面の扉を開くと、物語が始まる。語り口調や画面を抜くスピードなど、演じ方によって聞き手に与える印象も変わってくる。

まだ言葉のわからない0歳児から認知症のお年寄りまで、幅広い世代に向けて紙芝居は演じられています。紙芝居サークルも各地にあります。また、手づくり紙芝居も盛んになっています。図工の時間に紙芝居をつくらせる小学校もあります。紙芝居だと、絵を描くのがうまくない子が、演じ方でも評価されるということがあるので、子どもが輝くんです」(長野さん)

 紙芝居は日本以外にも広がっている。2001年創立の紙芝居文化の会によれば、欧米からアジアまで46の国と地域に海外会員がいるという(『紙芝居百科』/童心社)。生身の声で演じる紙芝居に魅力を感じる人が、世界中にいるのだ。

 神奈川県・鎌倉で行われた長野さんの実演では、小さな子どもたちが長野さんと一緒に声をそろえて、すごい熱気だった。この子たちがいずれ自分でも紙芝居を演じるようになるかもと思うと、楽しくなった。

住民の4割が外国籍という「新宿区立大久保図書館」の挑戦

 東京・大久保の街に降り立つと、耳慣れない言葉が飛び込んでくる。駅のアナウンスや街頭放送は20か国以上に対応し、看板も実にさまざま。

新宿区民の約12%が外国籍、131か国におよびます。大久保エリアに限ると約40%になり、韓国や中国のほか、近年ではベトナム、タイ、ミャンマー、イスラム圏などの方が増えています

 そう教えてくれたのは、新宿区立大久保図書館の米田雅朗館長。

 全国的にも例を見ない特徴をもつ地域の公立図書館に、’11年から勤務、多彩な活動に取り組んでいる。

新宿区立大久保図書館の米田雅朗館長

 外国語の本の収集、おはなし会開催のほか、特徴的なのが日本語を得意としない人へのサポート。館内表示の多言語化や日本語学習資料の用意、韓国・中国語に堪能なスタッフの常駐など多岐にわたるが、’15年から年2回、開催している『日本語多読ワークショップ』もそのひとつ。多読とは、文法や意味にとらわれず、ひたすら読むことで語学力をアップさせる学習法だ。

「自分の日本語レベルに応じた本を読む機会が少ない人が多く、参加者からは“いろんな本が読めてとても楽しかった” “もっと本が読みたくなった”と、うれしい感想をいただきました」(米田館長、以下同)

 参加者を募るため数か国語のチラシを作成、地元の日本語学校や幼稚園、小学校にも協力を仰ぐ。

「言葉が通じず困っていたり、もっと交流したいと考えている住民の思いに少しでも応えていきたいです」

タガログ語やベトナム語などのリクエストカードも

 本を通じた国際交流の一環として、『ビブリオバトル・インターナショナル』の開催も4回を数えた。流暢(りゅうちょう)日本語でなくてもいいから、本を手に自分の思いを伝える。なかには途中からポルトガル語の歌で盛り上げた参加者もいた。

「本は文化です。イベントには、いろんな国の方が異文化に触れたいという思いで参加してくれます。本は人と人をつなぐ大切な媒体。国同士がうまくいかなくても本を通じたコミュニケーションは楽しめます

 そう語る米田館長は「“お国はどちら? 地球です”が大久保図書館のキャッチコピーです」と微笑(ほほえ)む。

 日本を訪れたり、ともに暮らす外国人が増えるなかで、多文化共生は重要なキーワード。大久保図書館の取り組みはいま、全国で注目されている。

好きな本を語り合える生涯の友を見つけたい「みんなの読書会」

 いま、ビブリオバトルとは別の形で読書体験をシェアしようと人気なのが「読書会」。参加者同士が本について感想や意見を言い合い、交流を深める。こんな催しが各地で行われている。

「もともと本が好きで出版業界で働いているのですが、ふと“本の友達”が少ないことに気づいたんです」

 と言うのは、『みんなの読書会』主宰の川崎祐二さん(※崎は大の部分が立)。小説から絵本まで読むブッククラブで、書店などとのコラボ企画も行う。

『みんなの読書会』主宰の川崎祐二さん

「出版業界の中でも本のことを話せる友達が少ないのに、はたして、そういう人はいるのかなと」

 そんな興味からある読書会に参加したのが4年前。疑問を感じながらの初参加だったが、意気投合した人がいた。

「読書会が終わったあと、そのまま飲みに行って盛り上がって。そこから彼と、“自分たちでも読書会やろう!”ということに」

 最初の参加者はたった3人だったが、知り合いやSNSでの呼びかけで輪が拡大。月2回ペースで続け、いまでは80回を超えた。

最近では、映画の公開に合わせて課題図書を選ぶことも多いですね。去年は映画の公開に合わせて、遠藤周作の代表作『沈黙』の読書会をやりましたが、60人以上の方に参加していただいて大盛況に。もちろん、初対面の人と話すことになるので、最初はみなさんモジモジしていますが、そのうち打ち解けていきます」

 川崎さんは参加者がなるべく多くの人と知り合いになれるように、グループを30分ごとにシャッフルするなど気を配っているそう。

『みんなの読書会』の様子

 取材時の課題図書は公開中の映画の原作『伊藤くんA to E』。自意識過剰で無神経なイタい男と彼に翻弄(ほんろう)される女性たちを描いた恋愛ミステリーだ。東京・東上野の書店『ROUTE BOOKS』で開催され原作者の柚木麻子さんのビデオメッセージも流れた。

 最初はモジモジしていた参加者も「あのシーンでは思わずうなずいちゃった」「わかりますー!」と次第に熱を帯び始め、しまいには課題図書に絡めて自身の恋愛エピソードも飛び出すなど大盛り上がり。

「読書会に参加する目的は本の友達を増やすことと、読書体験を共有すること。一生続くような友を見つけることもできると思います」