多様化する読書スタイルのなか、声に出して読むことによって新たな発見もあるという“朗読”。各地でイベントも盛況な朗読の魅力をお伝えします!
朗読だから得られる新しい発見の数々「朗読稽古屋ことつぎ」
昨年放送のNHKドラマ『この声をきみに』では、朗読をきっかけに竹野内豊演じる主人公の頑(かたく)なな心がほぐれ、新たな一歩を踏み出す姿が描かれた。この制作に協力したのが、『朗読稽古屋ことつぎ』を主宰するウエムラアキコさん。
「“何かを表現したい”、“美しくしゃべりたい”と考えている方は多い。特別な道具や知識が必要ない朗読は、ちょうどいいのだと思います。またドラマのおかげで、身近なものだと感じていただけました」
取材時、グループレッスンには20〜60代の男女が参加。きっかけは「仕事で読むのとは違う本を、声に出して読みたくなって」など、さまざまだ。
発声練習から始まり、詩や童話の朗読が続く。アットホームな雰囲気のため初対面でもあまり緊張せず、解釈についての意見を交わせる。役者の卵に会社役員と参加者の職業は幅広く、日常で会わない人と話せるのもいい刺激だ。
朗読の魅力について、
「嫌いな作家の作品も、声に出して読めば作者の思いが心にストンと落ちることがあります。聞く側としては“こんな意見や読み方があったのか”などのとらえ方ができるのがおもしろい。また最初は恥ずかしくても、“その先には隠れていた自分がいた!”という発見がある方は多いです」
とウエムラさん。なかには、会話が大の苦手だったのに自分の思いを伝えられるようになり、電話応対コンクールに出場した人も。
気軽に楽しめる朗読。みなさんも体験すれば、新たな自分が見つかるかも!?
詩人・菅原敏「詩の聞き方は自由、声と言葉を楽しんでもらえたら」
「もしも詩が水だったら、どんな器に注ぐことができるのかと考えています」
とは詩人の菅原敏さん。昨年刊行した『かのひと 超訳世界恋愛詩集』が話題に。古今東西の恋愛詩を独自の解釈で訳したものだ。
「いにしえの詩人たちと眼差(まなざ)しを重ね、新たに紡いだ1冊です。眠っていた宝石のような言葉たちを起こしてもう1度未来に投げかけることができたらと。詩と対になった挿画は美術家の久保田沙耶さんによるもの。200年前の古い詩集のページに直接絵の具を落として描いています。いわば、過去と現在のコラボ作品ですね」
大学時代、ジャズバンドで活動していた菅原さんは、音楽に詩の朗読をのせるアメリカの“ビート世代”の詩人に影響を受け、それから詩を書くように。今では執筆活動を軸に、自作の詩をラジオやウェブ、歌手のSuperflyへの歌詞提供など、さまざまな場所、方法で聞き手に届けている。
「本も紙でできたひとつの器。詩を注げる器はたくさんあります。天気とともに詩を朗読する『詩人天気予報』をYouTubeで配信、そこから気象予報士の方とのイベントやラジオ番組化につながりメディアをめぐる冒険になりました」
ヨーロッパでも詩の朗読ツアーを開催。言語の壁を越える難しさと同時に、楽しさもある、と菅原さん。
「朗読は目で文字を追いながら聞いても、耳で響きを楽しんでもよい。詩になじみのない人も、声から楽しんでもらえたら。友人とお酒を飲みながら詩集を開く。そんな時間も新鮮かもしれないですね」