川瀬七緒さん 撮影/降旗利江

 現在作家として活躍している人たちは、これまでにどのような読書体験を経てきたのか。2011年に作家デビューした川瀬七緒さんは、小さいころから本を読むのは好きだったそうだが、小学校へ入ったころ、苦手意識を抱くようになるきっかけが。

「小学校での読書って、本を読むことと感想文を書くことがセットなんですよね。しかも、教師が好む文章を書かないといけない。さらには課題図書も内容がつまらなくて(笑)」

 しかし、小学5年生のとき、担任から映画『ソイレント・グリーン』の話を聞き、その衝撃的な内容に読書欲が湧き上がったそう。

将来、人口が爆発して資源が枯渇し、人間が人間を食糧とするという内容だったのですが、その原作が小説だという話を先生がチラッとしたんです。それがずっと頭に残っていて、すごく読みたいなと。でも、今みたいにインターネットもないですから、調べることができなくて、図書館で司書さんに聞いたりしたんですけど結局、わからずじまいで」

 どうしてもあきらめきれず、しぶとく探し求め、ついに原作本を発見したのは中学生のとき。

「いつもはおばあさんが店番をしている書店に大学生くらいの男の人が座っていたんです。“こういう話なんですけど”と聞いたら、ハリー・ハリスンの『人間がいっぱい』だとすぐ教えてくれて。しかも、その本が売っていたんですよ。すっかり日に焼けていましたけど(笑)」

 そうして夢中で読んだことが「読書を楽しむもとになった」と川瀬さん。以来、書店で気になる本を買って読むように。その読書欲はとどまるところを知らず、海外のポルノ小説にまで手をのばしたことも!

「『産婦人科医』というタイトルでした。田舎の書店って、品ぞろえに偏りがあるんですよ(笑)。醜い使用人のゴメスに抱かれる、みたいな内容だったんですけど、高校の友達に貸したら、また貸しまた貸しでクラスで大人気になってしまって。私のところへ戻ってきたら、本がボロボロになっていました」

読書は感情移入することが大事

 作家になってからは純粋な読書が少なくなり、参考文献などの資料を読んだりすることが多くなった。

 現在作家として活躍している人たちは、これまでにどのような読書体験を経てきたのか。「読書は作家と読者の共同作業、“感情移入”が大事なんです」と語る、川瀬七緒さんにインタビューしました。

「活字離れと言われますけど、実際はネットもあるし、若い子も文章は読んでいると思うんです。ただ長いものを読む力がないのかな、と。感情移入することが大事で、それができないと物語を読むのが苦手になるんでしょうね。

 読書は作家と読者の共同作業。著者が書いたキャラや情景描写を、読者が想像力で補填(ほてん)する楽しみがあるんです

 最新作『テーラー伊三郎』は、川瀬さんが生まれ育った福島が舞台。

『テーラー伊三郎』川瀬七緒=著(KADOKAWA/税込み1620円) ※画像をクリックするとamazonの購入ページにジャンプします(別ウィンドウ)

「年に1度は福島へ帰るんですけど、3日もいるとやるせない気持ちになってしまうんですよね。そういう田舎の閉塞感みたいなものをどうしたらいいのかということを、おこがましいんですけど自分なりに考えてみた小説です。読後には爽快感を味わっていただける作品だと思います

 最後に、『週刊女性』読者が親子で楽しめるおすすめの本を教えてもらった。

絵本の『ふしぎなかぎばあさん』。鍵っ子が鍵をなくしてしまって……というお話で、私が子どものころに読んだ本です。あとはレイモンド・ブリッグズの『いたずらボギーのファンガスくん』。これは『シュレック』のもとになったと言われている本で、愉快なので大人の方にも読んでほしいですね」

<プロフィール>
かわせ・ななお◎作家。1970年、福島県生まれ。子ども服デザイナーとして働く傍ら執筆した『よろずのことに気をつけよ』で第57回江戸川乱歩賞を受賞し、作家デビュー。著書に『法医昆虫学捜査官』シリーズなど。近著に『テーラー伊三郎』がある

(取材・文/成田全)