テレビを見ていて「ん? 今、なんかモヤモヤした……」と思うことはないだろうか。“ながら見”してたら流せてしまうが、ふとその部分だけを引っ張り出してみると、女に対してものすごく無神経な言動だったり、「これはいかがなものか!」と思うことだったり。あるいは「気にするべきはそこじゃないよね〜」とツッコミを入れたくなるような案件も。これを、Jアラートならぬ「オンナアラート」と呼ぶことにする。(コラムニスト・吉田潮)
深田恭子

 

オンナアラート#8 ドラマ『隣の家族は青く見える』

 しょっぱなからきちゃったね。松山ケンイチが深田恭子にひと目ぼれして、告白するシーンで「俺の子を産んでください!!」とな。産む・産まない・産めない、女側の意思と諸事情を一切考えていない男性の、あふれんばかりの熱意と、無邪気な無神経。オンナアラート案件てんこもりの『隣の家族は青く見える』(フジテレビ系/木曜夜10時)である。

 オサレなコーポラティブハウスに住む4つの家族の物語なのだが、各所帯の構成や背景が都合よくバラけている。どの家族に思いを寄せるか、カタログで選べる感じだね。

「自分とは違う生活信条、多様性を知る」っていうのはいいんだけど、あまりに見事なバラけ方にありえないなと思ってしまう。そもそも高い金額払って家を買うのに、どう考えても気が合わなさそうな人々が集合住宅に?! ストレスで毛が抜けちゃいそう。

 そんな4家族をざっくり紹介しておこう。避妊せずで1年3か月、子どもができない不妊カップルの松山ケンイチと深田恭子の夫妻。大半の男性がそうであるように、不妊治療の知識はほぼない。

 松ケンはまだ優しくて理解があるほうだが、小さな無神経が深キョンの心にささくれを作っていく。ついでに言えば、松ケンの実家も湿度が高いという地獄。暑苦しい母・高畑淳子に、妊娠中の妹・伊藤沙莉がいる。深キョンは義理家族のさまつな日常を目にするたびに、不安と自責の念に追い込まれていきそうな気配だ。

 2人の娘をもち、「子どもをもつことが女の幸せ!」と押し付けてくるのが真飛聖。失業中の夫(野間口徹)を邪険に扱い、世間体重視で幸せな自分を誇示するタイプだ。共同住宅とはいえ、ずかずかとひとんちにあがりこむ、最もわかりやすい厄介な隣人ね。

 結婚していない、オサレカタカナ職業の平山浩行と高橋メアリージュン。前妻との間に小学生の息子がいる平山は、それを高橋に話していない。子どもは産まないと決めているメアリージュンは、子育て礼賛を押し付けてくる真飛にいら立ちを募らせる。

 そして、このコーポラティブハウスのデザイナーで居住者でもある眞島秀和は、ゲイであることを長年隠して生きてきた。が、偶然知り合った若い男子・北村匠海と付き合うことに。北村が転がり込んできて、アウティングされそうになって困惑する。

 つまりは、私の大好きな暇つぶしサイト『ガールズちゃんねる』に上がりそうなトピックがぎゅうぎゅう詰めなのだ。不妊治療に非協力的な夫、ウザい義理家族、価値観を押し付けてくる隣人などなど。そして流行りの多様性ということで、同性愛も忘れずに。フジテレビ、他のドラマがスッカスカなぶん、ここが大渋滞というか、過積載な印象だね。

コーポラティブハウス自体にアラート

 一生に一度の買い物といってもいい「家」を共同体で、というところにまず不安しかない。シェアハウスのように出入りが容易な賃貸ならば、まだいいけれど、ローン組んで買うんでしょ? しかも打ち合わせの段階でどう見ても気が合わなさそうな人々。

 よく決めたな、と思う。そもそも、コーポラティブハウスなんて、土地が高い都心限定、そして収入が高い世帯限定。都内で言えば、世田谷区、目黒区、杉並区あたりのおしゃれタウン限定だよね。なんかいけすかない。

 ドラマに登場する家族の世帯所得を妄想するに、1000万円以上ないと厳しそうな気もする。金持ち喧嘩せず、というけれど、実際にはそんなことない。どんなコミュニティでもささいな違いが疲弊を生み、大きな障害となっていく。

 総世帯数が300超えの巨大マンションに住んでいれば、そんなに隣人を気にしないですむと思いがちだが、実際は違う。「7階の奥さんが話が長くて、会うと15分はつかまる。しかも自慢話しかしない」とか、「犬猫の鳴き声が異様にうるさい」とか「しつけがなってないガキが走り回って迷惑」とか、「ゴミの出し方が汚い」とか、「理事会の催しに一切参加しない非協力的な家」とか。

 コミュニティが大きくても必ず不満は噴出。小規模共同住宅ならなおのこと、危険性は推して知るべし、である。

 このドラマはコーポラティブハウスのデメリットを強調する効果がかなり高い。いくら金利が安くても、共同運営で安心といえども、家選びは慎重に、というメッセージなのだと受け止めている。そして、今回のアラートは、これから家を買おうと考えている人に向けての「その家、その土地、その隣人、ホントに大丈夫?!」という提言でもある。

誰にいちばん共感する? 

 専業主婦・真飛の素敵な奥さんアピールもめんどくさいが気の毒だし、深キョンの子どもができない焦燥感もわかるし、メアリージュンの子ども不要論も痛く共感できる。ついでに言えば、眞島の平穏な暮らしを望みながらも若い男子に振り回される刺激へのひそかな欲望、というのもうっすらわかる。

 自分の立ち位置に近い人に共感するのが普通だが、このドラマの場合、ちょっと心配なところがある。コーポラティブハウスを通して、多様性と協調性を重んじるあまり、全員善人化しそうな気配があるのだ。

 すべてが丸く収まるほんわかホームコメディの陰では、必ず誰かが変化を余儀なくされたり、我慢を強いられていることを忘れてはいけない。できれば、この息苦しい共同体から脱落する人も描いてほしいな。そこにリアリティが出るんじゃないかと思う。


吉田潮(よしだ・うしお)◎コラムニスト 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。テレビ『新・フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターも務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)ほか多数。新刊『産まないことは「逃げ」ですか?』に登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/