古舘プロジェクト所属の鮫肌文殊、山名宏和、樋口卓治という3人の現役バリバリの放送作家が、日々の仕事の中で見聞きした今旬なタレントから裏方まで、TV業界の偉人、怪人、変人の皆さんを毎回1人ピックアップ。勝手に称えまくって表彰していきます。第41回は山名宏和が担当します。

有安杏果 様

 今回、勝手に表彰させていただくのは、先日、ももいろクローバーZを電撃卒業した有安杏果さんである。

有安杏果

 有安さんの卒業発表は、ファンはもちろん、それ以外の方々の間にも驚きが走った。僕も驚いたが、僕の驚きは他の方と質がちょっと違ったと思う。なぜなら、僕は今、ももクロの番組の構成に携わっており、卒業のニュースは、まさにその番組の会議に向かう移動中に、しかもネットのニュースで知ったからである。

 放送作家という仕事をしていると、芸能界の裏事情に詳しいと思われることがよくあるが、けっしてそんなことはない。世間の人より早めに知っていることがあるとすれば、終わる番組と新しく始まる番組の情報ぐらいだ。担当している番組の出演者のニュースにしても、事前に知ることがあるとすれば、番組そのものに大きく関わる場合のみである。しかしながら今回の有安さんの件は僕だけではなく、番組の制作プロデューサーも発表のタイミングで知ったという。まさに極秘中の極秘だったのだ。

 有安さんの卒業で、現場は大慌てになった番組というのは、Huluで配信中の『ももくろちゃんZのぐーちょきぱーてぃー』という子ども番組である。子ども番組の出演者には、他の番組とは違う大変さがある。この番組の収録に立ち会って、あらためてそれを痛感させられた。

 子ども番組の収録は、出演者にとってもカメラが回る前から始まっている。スタジオに入ってきた子どもたちを、ももクロの5人が一列に並んで出迎える。子どもたちにちゃんと顔が見えるようにしゃがんで。

 親がスタジオ内にいると子どもたちがそちらを気にしてしまうので、別室で待ってもらう。そのため不安で固まる子どもたちに「どこから来たの?」「今日のお洋服かわいいね」とやさしく話しかけ、リラックスさせるのが彼女たちの役目である。

 さらに、いざ本番が始まっても、自分たちのパフォーマンスだけに専念できるわけではない。常にまわりに気を配り、緊張でうまくダンスができない子どもを見つけたら、隣にしゃがみ込み、声をかけながら踊るなんてこともよくあることだ。

 収録を見ていて、メンバーそれぞれに子どもたちへの接し方で感心したことがあるのだが、今回は有安さんの卒業記念で勝手に表彰させていただくので、彼女に関してのみ覚えていることを書く。他のメンバーについては、また機会を見て書くことにするのでご勘弁を。

 子どもに接する有安さんの姿で、最初に強く印象に残ったのは、初回の収録で起きたハプニングの対処だった。この番組で、ももクロはももくろちゃんZというキャラクターであり、有安さんは「もしもしももかちゃん」というみどりの公衆電話の妖精、頭にはカチューシャのように受話器をつけている。

 ところが本番中、子どもが頭の受話器を取ってしまったのだ。どうするんだろう……と心配しながら事態を見守っていると、彼女は慌てることなく、しばらく子どもに受話器で遊ばせた後、ちゃんと子どもに自分の頭へ受話器を戻させた。初めての収録でありながら、「僕もこんな先生のいる幼稚園に通いたかった!」と思わせるのその姿に、この番組は良い番組になるだろうと思ったものである。

 もう一つ印象に残っているのも、やはりちょっと困った局面に対処する姿だ。着ぐるみのキャラクターがいるのだが、夢中になった子どもたちが叩いたり抱きついたりして、キャラクターから離れようとしないことがあった。かといってキャラクターが「そろそろ向こうに行って」と言うわけにもいかず困っていると、有安さんがすかさず「もしもしももかちゃんと遊ぼう」と子どもたちに声をかけ、自然な感じで着ぐるみたちをピンチから救っていた。

 僕が収録に立ち会ったのはわずか数回なので、直接目撃したのはこの程度だけど、きっと何度も同じようなハプニングが起こり、そのたびに子どもたちに嫌な思いをさせることなく、ハプニングを乗り切ってくれたに違いない。

 そこで今回、もしもしももかちゃんこと有安杏果さんには、「ぐーちょき特別感謝賞」を勝手に差し上げ、勝手に表彰します。

『ぐーちょきぱーてぃー』は配信番組なので、まだご存知ない方も多いと思いますが、第2シーズンが始まります。小さいお友だちだけではなく、大きなお友だちにももっと見てほしい番組ですので、皆様よろしくお願いします。

<プロフィール>
山名宏和(やまな・ひろかず)
古舘プロジェクト所属。『行列のできる法律相談所』『ダウンタウンDX』『世界何だコレ!?ミステリー』といったバラエティー番組から、『ガイアの夜明け』『未来世紀ジパング』といった経済番組まで、よく言えば幅広く、よく言わなければ節操なく、放送作家として活動中。