「忘れているかもしれませんが、羽生選手は4年前のソチ五輪でも“66年ぶり”の快挙を成し遂げています。過去、10代での優勝は彼を含め2人だけ。古い表現ですが、彼は“持ってる”と思いますよ(笑)」(スポーツ紙デスク)
「攻めることが最大の武器」
絶対王者・羽生結弦が、'52年オスロ五輪のディック・バトン以来となる66年ぶりのオリンピック連覇に挑む。だが、昨年11月、NHK杯の公式練習中に右足関節外側じん帯損傷の大ケガ。ぶっつけで本番に臨むことに。
「平昌入りの1週間前までは、ハビエル・フェルナンデスとともに、師事するブライアン・オーサー氏のもと、カナダのトロントで一緒に練習していました。足首の状態はいいようで、しっかりと4回転ジャンプを跳び、不安は感じられない状況だそうです」(スケート連盟関係者)
名伯楽のオーサーコーチも、「彼を見くびっては困る」と、調整がスムーズに進んでいることを示唆していた。
「すでにスタミナを取り戻すための練習メニューを積んでいます。4回転ジャンプにしても、ケガの原因となったルッツ以外のトゥループ、サルコウ、ループの3種類をしっかりと跳んでいます」(同・スケート連盟関係者)
本番直前になっての4回転ルッツの封印劇。誤算ではないのだろうか。
「オーサー氏はシーズン入りする前から羽生選手が4回転ルッツを取り入れることに消極的でした。僚友のフェルナンデスは開幕前からトゥループとサルコウの2種類で勝負すると明言。その理由はオーサー氏から“ジャンプは振り付け、パッケージ、スケーティングなどのひとつの要素でしかない”とアドバイスされたからと明かしています。
当然、羽生選手にも同じように指導したそうですが、彼は“攻めることが最大の武器”と反発。4種類の4回転ジャンプを跳ぶことにこだわり、2人の間に火種が生じていたんです」(フィギュア関係者)
金メダル級の頑固さ
皮肉にもその最高難度の4回転ルッツでケガを負ってしまう。しかも、NHK杯はオーサーが胆のうの手術で来日せず。そんなときにアクシデントが起きてしまったのだ。
「羽生選手はケガをしてもすぐにリンクに戻って練習を再開しようとした。でも、痛みで脚が動かないことがわかり、戻ってきた控室前の廊下で泣き崩れたんです。カナダに戻ったあと、オーサーと“オリンピックでの目標は何か”をじっくり話し合い“歴史に残る連覇を成し遂げること”という答えを出しました。ルッツはずしの負けないプログラムで挑むことに決めたそうです」(同・フィギュア関係者)
元フィギュアスケート選手で解説者の佐野稔氏は、
「4回転ルッツの封印は大正解だと思います。ブランク明けの大一番の中で、ケガしたジャンプを跳ぶという大冒険は絶対に避けるべきです。羽生クンが'15年のグランプリファイナルで330・43点をマークしたとき、2種類の4回転ジャンプを跳んでいました。
今回の五輪でも、SPが『バラード第1番』で、フリーは『SEIMEI』と、そのときと同じ曲。そこに3種類の4回転ジャンプを加えるので、楽に330点を超えるだろうと思います」
ただ、シニア時代から羽生を見続けてきたスポーツライターの目には、常に強気の姿勢を崩さない彼が、世界中をアッと言わせるシーンが浮かぶという。
「今回は3種類の4回転を跳んだ、'16〜'17年シーズンと構成は似たものになるでしょう。このプログラムはフリーの最後のジャンプが3回転ルッツなんですよ。もしかしたら、超負けず嫌いの羽生選手は、オーサー氏に内緒でそこを4回転ルッツに変えて跳ぶ可能性もあるかもしれませんね。彼は頑固さでも金メダル級ですから(笑)」
2月7日に放送されたNHKスペシャルの中でも、若手の台頭について聞かれると、
《みんなが気にすれば気にするほど、斜め上をいけるよう、常に努力したい》
と、絶対王者らしいプライドをのぞかせていた。
その一方で、羽生の団体戦回避の報道が2月3日に流れると、ケガの回復状況が思わしくないのではないかという憶測が流れ、“団体戦回避=金メダル絶望”という空気が流れた。なぜそのようになったかというと、スケート連盟の対応に、羽生サイドが嫌気がさしていたからだ。
鉄のカーテンが引かれた
「実は、今回の団体戦欠場に関しては、12月下旬の段階で すでに決まっていたようです。羽生選手サイドが連盟側に“前回のソチ五輪と同じく団体戦のSPで復帰したい”と打診するも、認めてもらえなかったんです。ソチではSPが羽生選手でフリーは町田樹選手だった。負担の少ないSPでジャッジへの心象がよくなる面も。
優勝候補の一角でもある宇野昌磨選手への配慮もあり、即答を避けたんじゃないでしょうか。その連盟の優柔不断さが、羽生サイドにとっては“拒否”されたと思ったのかもしれません。その件が火種となったまま。両者には溝ができてしまったんです」(スポーツ紙記者)
スケート連盟の橋本聖子会長は「全面的にバックアップする」と明言していただけに、羽生サイドが不信感を募らせてもおかしくはない。
「それ以降、鉄のカーテンが引かれ、いっさいの取材をさせなかった。連盟のサポート体制は不安ばかりですよ。五輪で初めて導入した『映像転送システム』にしても、“新兵器”でも何でもない。いまや動画だけでなく、助走スピードやジャンプの角度などの数値だって瞬時に解析できるようなシステムをほかのスポーツ界では導入しています。遅すぎるくらいですよ(苦笑)」(同・スポーツ紙記者)
一抹の不安が残る連盟の対応ぶりだが、最後にメダルをめぐる展望を佐野氏が語る。
「金メダル候補は、羽生、ネイサン・チェン、そして宇野の3人でしょう。ただし、これだけ多種類の4回転ジャンプを跳ぶようになっても、羽生クンが'15年にマークした330点は超えられていない。
ネイサンは'18年全米選手権で315・23点を記録し、宇野クンも今季初戦のロンバルディア杯で319・84点でしたが、オリンピックは特別な舞台です。そこでミスした人が負ける。その点、羽生クンは大舞台での勝ち方を知っており、連覇してくれるのではないでしょうか」
絶対王者として君臨し続けた羽生。逆境を跳ねのけ、レジェンドになる日はすぐそこまで迫っている。