現在、東京都港区議会議員で「港区ママの会」を主宰する清家あいさん。大学を卒業して憧れの新聞記者の職についたものの、子育てとの両立が難しく感じられ新聞社を退社。その後、「港区ママの会」を立ち上げ、子どもが保育園に入れず、働きたくても働けない多くのママたちに出会ってきた。

清家あいさん 撮影/渡邊智裕

「2017年4月の全国の待機児童数は2万6081人です。待機児童とは、保育園の募集人数が入園を希望する数に足りず、保育園に入るために順番待ちをしている児童のこと。特に首都圏に集中し、私の周りは保育園浪人や幼稚園浪人で泣いているママたちであふれていました

待機児童解消への分厚い壁とは?

 保育園が足りない地域では、選考基準をクリアした親だけが、子どもを保育園に入れることができる。ただでさえ子育てで忙しい時期なのに、まるでプレゼンのような分厚い資料を作り“保活”に臨むという。保活とは、保育園に入るために事前に情報収集をしたり、戦略を練って入園にこぎつけるための活動のこと。本書には、涙ぐましいママたちの保活の実態が綴られている。清家さん自身の保活はというと、

「私自身は当時、フリーランスだったので、“永久に保育園には入れません”といわれ断念しました」

 待機児童問題は20年以上前から言われているが、なかなか解消に向かわない理由は、選挙のあり方にもあるという。

待機児童問題を打ち出しても、選挙では勝てないんです。そもそも関心がない人が多い。また、子育ては母親の仕事という昔ながらの価値観を持つシルバー世代に、待機児童問題を公約に掲げても響きません

 議会で提案すると、シルバー&ミドル世代の男性、いわゆるオジサンたちから批判されたという。

“子どもは放っておいても育つ” “地方に引っ越せばいいじゃないか” “保育園ばかり増やしてどうするんだ?”という言葉にガッカリしました。現在、そういうことを言う人は少なくなりましたが、これは本音だと思っています」

 それでも港区の待機児童数を大幅に減らした清家さん。都会には保育園を建てる土地が少なく、物理的に難しい。首都圏の待機児童問題解決に至る道のりの難しさが、本書を読むとよくわかる。清家さんはその努力をわかってもらうため、本書を1年の歳月をかけて書き上げた。

「保育園に関する数字や条例などは変化が多く、資料だけでリビングのテーブルが山のようになってしまいました」

 元新聞記者だけに、徹底的に調べ上げて本を書き上げたのだ。

「実は、この本の依頼がきたとき、編集さんに保活中のママたちを応援する本を書いてほしいと頼まれました。しかし、書いていくうちに、ママたちだけががんばっても解決されない、社会全体で考えるべき問題だと本の方向性を変えてしまいました

 保活の基礎知識や、保活に失敗しない方法などをわかりやすく解説し、保活ママにはとても参考になる内容だが、真の目的は社会全体で待機児童問題を考えてほしいという。

子育て女性が夢を叶えられる国に

「大学までは男女の違いを感じたことはありませんでした。新聞記者時代も出産を考えるまでは、男性と同等に働いてきました。しかし、子どもを産んだ後、女性だけがキャリアをあきらめなければならない現実に直面し、どうにかならないものか考え、その結果が議員だったのかもしれません

 清家さんは女性も男性と同様に、夢をあきらめないでいい環境を作りたいと願って活動を続けている。

少子化問題を解決するはずの出産が、どうして保活という“罰ゲーム”のようになるのか、不思議でしかたありません」

『保育園浪人』清家あい=著(税込1404円/秀和システム)*画像をクリックするとamazonの購入ページにジャンプします(別ウィンドウ)

 本書の中には、保活中にうつになってしまった女性の話も書かれている。働きたくても働けない、産休明けに復帰できない。「女性活躍推進」を打ち出す国策とは相反する現実が立ちはだかる。

“たくさん子どもを産んで、たくさん働いて税金を納めてね。子育て支援にはお金が回せないから保育園には入れないけど”という政府の声がどこからか聞こえてくるようです」

 保活に苦しむママたちには、政府の無理解さと無責任さを共感できるが、清家さんが本当に読んでもらいたいのは保活に関わるママだけでなく、

オジサンたちですね(笑)。待機児童問題に理解がない、そもそも保活を知らない、そういう人たちに社会問題として認識してもらいたいと思います

 子育てを終えた人、子育てをしなかった人、これから子育てをする人、幅広い層に読んでもらい、待機児童問題の真実を知ってほしいと清家さんは話す。

「人口の7%を高齢者が占める社会を高齢化社会といいますが、日本はすでに27.3%。世界一の超高齢化社会になっています。今後、少子化が進んでいくと日本が沈んでいくのは止められません」

 誰もが身近な問題として考えるために、まずは現状を知ることが大切なのかもしれない。

■ライターは見た! 著者の素顔
 女性議員というと「このハゲー!」のようなキツいイメージがありましたが、清家さんは優しくやわらかいお人柄。逆に、待機児童問題で苦しんだ経験があるライターのほうが鼻息が荒かったかも。清家さんは、優しいながら問題解消に向けたビジョンを的確に説明。待機児童問題を経験した人は怒りが前面にきてしまいますが、多くの人に理解してもらうためには、清家さんのような、頭が良くて物腰のやわらかいリーダーが必要なのかも。

<プロフィール>
せいけ・あい◎港区議会議員。1974年12月、港区生まれ。産経新聞記者として7年、社会部で事件、行政取材を担当。現場のママの声を集め、行政に提言する「港区ママの会」を主宰。地方政治の活動実績に贈られる「第9回マニフェスト大賞」最優秀賞を受賞。

(取材・文/山崎ますみ)