遺棄現場の容疑者宅は塀で囲まれ、木々が生い茂っていた

「若いころは小柄ながらスラッとしている美人。服もおしゃれで、いいところのお嬢様のようなオーラがあった。気安く声をかけられるような雰囲気ではなかったですね」

戸籍上は生存者

 古参の近隣住民がそう記憶をひも解くのは、無職の小池淺江容疑者(78)の人となり。今から22年前、愛知・豊川市の自宅で夫を殺害したとして1月31日、愛知県警捜査1課と豊川署に逮捕された女だ。

 小池容疑者は昨年1月22日未明、自ら豊川署に通報した。「家の中に夫の遺体がある」

 駆けつけた捜査員が押し入れの奥の衣装ケースから発見したのは、白骨化した遺体だった。1996年3月20日ごろ、小池容疑者は夫の尭(たかし)さん(当時59)の頭部を包丁で刺すなどして殺したという。

 尭さんの姿を知る近隣住民は、すでにいなかった。

「ただ10年以上前ですが、小池さんのご主人が行方不明になったということは、近所でうわさになっていました」

 そう証言した近隣の女性がいただけだ。

 殺害当時、小池容疑者は勤務先を退職した尭さんと2人暮らし。失踪届も死亡届も提出されず、戸籍上は生存者。

「2016年12月に、自宅を訪ねました」

 同市役所介護高齢課の担当者はそう明かす。

「満80歳のとき、数え年で88歳のとき、そして100歳以上の市民には毎年、市から敬老金が支払われます。原則、本人が受け取るものでして、受け取る意思があるか確認のために訪問しました」

玄関の門扉には1束の花が供えられていた

「町内会をやめます」

 市職員に対応したのは、長男だったという。

「“父親はいません”とのことでしたので、受け取りを辞退されたというふうに、こちらは受け取りました」(前出・同市介護高齢課の担当者)

 市職員が訪問する前、町内会の担当者あてに“町内に敬老金がもらえる人がこれだけいるので調査してください”という連絡があったという。

「1軒1軒回って、受け取りの意思を聞くんです。小池さんの家は何度インターホンを押しても反応がない。夜も明かりがついていない。結局、家の人にも会えなかったので、市には“わかりませんでした”と伝えました」(町内会の男性)

 約10年前、小池容疑者は町内会の役員に連絡し、“年をとったので町内会をやめます”と伝えた。もともと、隣近所の付き合いがないうえに、町内会からも離れた小池家は丸ごと気配を消すようになったという。

「夜も電気がともらないことが多く、誰も住んでいないとずっと思っていたくらいです。今は家の外観が見えますけど、昔はもっと木が生い茂っていて、よく見えなかったんです」(前出・町内会の男性)

 自首した際、小池容疑者は長男と2人暮らし。前出・近隣住民が再び口を開く。

「そもそもあの人(小池容疑者)は、家のことをあまり話す人ではなかった。一家は夫婦と長男、次男の4人暮らしで、次男は独立している。ご主人は体格のいい人で、奥さんは小柄でした。家族の仲とかはまったくわからない。奥さんは家にいることが多くて、外出もほとんどしなかった」

 なぜ20年以上たって自首したのか、殺害動機は何だったのか。物証なども乏しく、そのため自首から約1年後の逮捕になった事件。事実を知るのは小池容疑者だけだ。