大切なのは「カカオ含有率」

 世界の最新医学論文から、現役医師の気になるトピックをお届けします。

3欠片のチョコレートが血圧を下げる?

 生活習慣病を診る医師、とりわけ循環器内科(心臓の内科)の医師の間では、チョコレートが体に様々な良い効果を示すことは、広く知られています。

 つい先日参加した学会でも、食生活についてのセッションでチョコレートが取り上げられていましたし、世界的な心臓病の教科書「Braunwald Heart Disease」にも、「1日6.3gのダークチョコレートを摂ると、血管の機能が改善し、血圧が下がる」と書かれています。

 よくある板チョコが1枚50g程度ですから、6.3gだと3欠片くらいでしょうか。仕事の合間につまむにはちょうどよい量かもしれません。

 ちなみに、過去の研究で体に良い作用があると言われているのは、ホワイトチョコレートではなく、ミルクチョコレートでもなく、「ダークチョコレート」です。尚且つ注意していただきたいのは、商品名に「ダークチョコレート」と書かれていても、それ即ち「健康に効果がある」とは限りません。

 チョコレートの健康作用はカカオによるので、大切なのは「カカオ含有率」。勿論ダークチョコレートはミルクチョコレートよりもカカオ含有率が高いのですが、見るのは商品名ではなく、「カカオ含有率」。数値の目安としては、「カカオ濃度70%以上」を、「健康に効果があるとされる」チョコレートと考えるとよいでしょう。

一ヶ月に約半分の板チョコが心臓に効く?

 さて、今回、チョコレートを取り上げたのは、最近チョコレートについての新たな論文がでたのでそのご紹介と、産婦人科医の友人との会話の中で、「チョコレートが健康に良いことは意外と医師の間でも知られていないのかな…?」と感じたことがきっかけでした。

 是非オススメしていきたいので、早速、論文の紹介です。

 2017年5月、「Heart」というイギリスの論文雑誌で、「チョコレートの摂取と心房細動のリスク(原題:Chocolate intake and risk of clinically apparent atrial fibrillation: the Danish Diet, Cancer, and Health Study)」という研究が発表されました。

 研究の結果についてご説明する前に、まず「心房細動」について解説しておきます。


 ※「心房細動」とは

 不整脈の1つで、動悸症状や、場合によっては心不全を起こしたり、また、脳梗塞発症のリスク因子となる病気です。

 心房細動は、加齢とともに有病率(病気を持つ人の割合)が増加します。米国のある報告では80歳以上では人口の10%が心房細動を持っていましたし、下記の4つの報告をまとめたグラフにおいても、どれも年齢に応じて有病率が上がっているのが見てとれます。

年齢層別心房細動有病率(Feinberg WM, et al. 1995より)

 日本でのある調査でも、2003年の有病率は 70 歳代で男性 3.44 %、女性 1.12 %、80 歳以上では男性4.43 %、女性2.19 %でした(日本循環器学会疫学調査)。高齢化社会においてこの病気は増えていくだろうと言われており、2050年には約103万人が心房細動を有しているという予測もあります。

 人生100年時代、健康に長生きできる未来を想定した場合、10〜20人に1人はかかる病気を無視できません。加えて脳梗塞のリスク因子にもなるとなれば、非医療従事者でも知っておいてよい病気といえます。

(日本不整脈心電学会と日本脳卒中協会も共同で啓発活動を行っています。ご興味あればご参照下さい。https://www.facebook.com/shinbousaidoushuukan/ )


 さて、本題です。研究対象はデンマークに居住する50〜64歳の55,502人。チョコレートの摂取量を調査し、その後13年以上を追跡したところ、3,346人に「心房細動」が発生しました。

 ここで、1回摂取量を約28gとし、チョコレートを食べるのが

 月1回未満の群

 月1〜3回食べる群

 を比較すると、月1〜3回食べる群では心房細動のリスクが低い傾向のあることが分かりました。

 チョコレートを月1〜3回食べる群は、月1回も食べない群に比べ、心房細動のリスクが10%も低く、さらに言うと週1回食べる群は17%、週2〜6回食べる群では20%と、量が増えれば増えるほどリスクが減っていたのです。

 ただし、週2〜6回以上摂取しても効果は増えず、チョコレートを週7回以上食べる群ではリスク低下は16%と逆に効果がやや少なくなりました。

 1ヶ月に板チョコ約半分程度のチョコレートを食べると、不整脈が減る。これは驚きです。

 しかも、この研究ではチョコレートのカカオ含有量は規定されていません。欧州では「ミルクチョコレート」はカカオ含有率が30%以上、「ダークチョコレート」は43%以上であることを示すそうで(米国ではそれぞれ10%以上、35%以上)、この研究では、過去の研究で健康によいとされる「カカオ含有率70%」を下回っているチョコレートが摂取されていた可能性が高いにも変わらず、上記の結果が示されました。

 これを加味して研究の著者は、「この結果はチョコレートの効果を過小評価している可能性がある」とさえ言っています。

当記事は「BUSINESSLIFE」(運営:ビジネスライフ)の提供記事です

脂肪分や糖分には注意

 良いことばかりのようにも思えるチョコレート。しかし一つだけ注意したいのは、チョコレートのカカオ以外の成分、脂肪分や糖分は、やはり摂りすぎは禁物ということ。何事も適度な量が大切ですね。

 チョコレートが心血管イベント(心筋梗塞など)に良い影響を与えることや、血圧を下げることは知っていましたが、不整脈についての知見は初めてだったため、筆者も興味深く読みました。

 ブレイクタイムに美味しいチョコレートを食べて健康になれるなら、良いですよね。

不整脈だけじゃない!チョコレートがもたらす可能性

 最後に、より皆さんにチョコレートをオススメする根拠として、過去のチョコレートについての論文を2つご紹介します。

 様々な研究を系統的に調査した論文では、選び抜かれた7つの良い研究のうち、5つの研究において、「チョコレート摂取がより多い群は、少ない群と比較し、心血管疾患、脳卒中のリスクが減少していること」が示されました。一番チョコレート摂取量が多い群は、一番少ない群に比べ、心血管疾患が37%、脳卒中は29%減少していました。(英国ケンブリッジ大学H. Franco Duran氏ら BMJ 2011;343:d4488)

 閉塞性動脈硬化症(動脈硬化により足の血管が狭くなったり詰まったりしていて、歩いていると痛みが生じる病気)の患者に、カカオ85%のチョコレートを食べさせた群と カカオ35%のチョコレートを食べさせた群を比較すると、「高カカオのチョコレートを食べた群では、最大歩行距離が11%延長、最大歩行時間が15%延長し、血管内皮機能を司る物質の血中濃度も改善」していました。( イタリア Lofredo LJ Am Heart Assoc. 2014;3:e001072)

 特に一つ目の研究はかなり大規模な研究(対象総数は11万4009人!)で、信頼性が高いといえます。

 また、脳の「海馬」に作用して「認知機能低下の改善」が期待される(Nat Neurosci 2014, 17, 1798-803.)

 など、他にも複数の研究からチョコレートの様々な健康効果が報告されています。

まとめ−チョコレートの健康効果

 以上をまとめると、


 カカオ濃度の高い(目安は含有率70%以上)チョコレートは、

不整脈(心房細動)
心血管疾患
脳卒中

 のリスクを軽減させる効果がある。

そして、その他の健康効果にも多くの面が期待されている。


 ということです。

 お仕事中に、一息休憩。間食がしたくなった時には、カカオ含有率70%以上のチョコレートにしてみては、いかがでしょうか。

 オススメの量は、1日3欠片程度です。

福田芽森(ふくだ・めもり) ◎慶應義塾大学病院 循環器内科勤務。東京女子医科大学卒、循環器内科5年目。日本医師会認定産業医、ACLS(アメリカ心臓協会二次救命処置)インストラクター、JMECC(日本内科学会認定内科救急・ICLS講習会)インストラクター。高校時代にアメリカ、大学時代にベルギーに短期留学。趣味は登山、弓道(三段)、芸術鑑賞、海外旅行。