板谷由夏 撮影/伊藤和幸

 ’15年にニコール・キッドマン主演で、イギリス・ウエストエンドで大ヒットした舞台『フォトグラフ51』が、ついに日本に初上陸する。今作は、実在の女性科学者、ロザリンド・フランクリンの生涯を描いた物語。科学の分野において、まだ女性の地位が認められなかった1950年代にDNA構造の研究に没頭するロザリンド。イギリスの研究所を舞台に、彼女を取り巻く5人の男性研究者との駆け引きがスリリングに展開する人間ドラマだ。

 自らの目標に向かって、強い意志と情熱を持ってまっすぐに突き進むピュアなヒロインを演じるのは板谷由夏さん。多くのドラマ、映画で活躍する彼女だが、意外にも舞台は今回が初挑戦。

この作品のお話をいただいたときに、“やらなきゃ”と思ったんですね。それは、たぶん直観でしかない気がします。今までも特に舞台を避けていたわけではないんですよ。どの仕事もそうですけど、やはりご縁だと思います。でも、ニコール・キッドマンが演じた役だというのは後から知ったので、驚きましたけど(笑)」

ひとつのことに夢中になれる人は魅力的

 研究に人生を捧げる科学者、ロザリンドとはどんな女性なのか。

「思っていたよりも女だったんだなという感じがしました。科学者だからとか、この時代だからとか、周りが男性ばかりのなかで頑張らなきゃいけなかったとか……。そういう生きざまがあればこそ、彼女自身はたぶんすごく女性らしい人だったんじゃないかと思うんです。戦わなければいけなかったけれど、内側に“女なのに”みたいなものはあったのだと。私はそういう人物像を作りたいなと思いました。

 実は、この役が決まってから、ずっとひとりで悶々(もんもん)と人物像を探していて。関連する本を読んだり、妄想したり、台本を読んでもなかなかつかめなかったんです。それが先日、稽古(けいこ)に入る前の顔合わせと本読みがありまして。いきなり台本がむくっと立ち上がった感じがして、立体的に見えてきたんです。自分自身のキャラクターも、5人の男性のキャラクターも、イキイキしだして。いつもは本読み顔合わせは緊張しますし、すごく苦手なんですけど。今回はストーンとそこにいられて、いろいろなことが吸収できたので、すごくいい導入になりました」

 ロザリンドを演じるうえで大切にしたいことは?

ひとつのことに夢中になれる人って、魅力的じゃないですか。研究に没頭するロザリンドの姿は、女のくせにとか彼女の才能に対する嫉妬心があったとしても、きっと同僚の男性陣にも魅力的に見えたはずなんです。そういうロザリンドの信念や一生懸命さが、舞台上で出せたらと思います」

物理的な決まり事をなるべく作らない

 今作の演出を手がけるのはサラナ・ラパインさん。板谷さんと同世代で、ブロードウェイ作品でも活躍する注目の女性演出家。日本版の舞台演出は初となる。

「サラナさんに出会えたこともご縁だと思っています。今のところ言葉の壁も、感じていません。むしろラッキーだと思っています。日本語で日本人同士でわかったつもりで、物事が進むことがあるとしたら、今回はそういうことにはならないですから。絶対にわかり合えるまで、言葉がわからないからこそ探ると思うので。私の好奇心や質問に対して、プラスアルファをちゃんとくださる方だという信頼感があります。それに、同世代ということもありますし、合う気がするんです(笑)」

 初舞台で楽しみなのは?

「とにかく初体験なので、すべてのことが楽しみですし興味深いです。体力をしっかりつけて40代なりの入れ物を用意するだけ(笑)。あとはもう、その入れ物にいろんなものを吸収していくことしかないですね」

板谷由夏 撮影/伊藤和幸

 女優、キャスター、自身のファッションブランドのプロデュースなど、多忙を極める板谷さんは、9歳と5歳の男の子の母でもある。仕事と子育ての両立で心がけていることとは。

本当にいっぱいいっぱいで、毎日がもう24時間じゃ足りないし、ちゃぶ台ひっくり返したい瞬間なんて多々ありますし。本当に私の人生ギリギリだな〜って思うんですけど(笑)。日々やらなきゃならないことに追われていますし、“私、今日ぜんぜん座ってないな”って思うこともあります。

 でも、楽しいと思うんですよね、どんなことをやっていても。瞬間瞬間が。仕事も子育ても、あまり頭で考えずに、そのときそのときを楽しむように心がけています。何でも楽しまないともったいないと思うほうなので。それに尽きるかな。

 よく子どものお弁当だけは絶対に作るとか決まり事を作る方もいらっしゃいますけど、私は逆に決まり事を作らないです。決まり事を作ると自分が苦しむのがわかるから。そういう意味ではずるいんですけどね(笑)。気持ち的にはありますけど、物理的なことはなるべく決めない。もう流れるままにやろうと思っています。今日はお弁当作れた!パチパチってことにする(笑)

 最後に、読者へメッセージをお願いします。

「ぜひ、女性には見てほしいです。テーマは科学になっていますが、中身はすごく人間臭い、リアリティーのある人間関係の話です。ひとりの女性の人との関係や生き方を通して、人間って面白いなと思っていただけると思いますし、いろいろな発見があるはずです」

<舞台情報>

舞台『PHOTOGRAPH51』

“フォトグラフ51”とはDNAの二重らせん構造の発見において重要な鍵を握ったX線回析写真。パイオニアとして研究に没頭したロザリンドは、DNA構造の発見に貢献したにもかかわらず、その成果は日の目を見ることはなかった。科学にすべてを捧げた女性科学者と彼女を取り巻く5人の男性の運命とは……。ノンストップ90分の珠玉の会話劇。
東京公演:4月6日〜22日@東京芸術劇場シアターウエスト
大阪公演:4月25日〜26日@梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
【公式HP】http://www.umegei.com/photograph51/

<プロフィール>

いたや・ゆか◎1975年6月22日、福岡県出身。’99年女優デビュー。映画、ドラマを中心に活躍。近年の主な出演作にドラマ『セシルのもくろみ』『同窓生〜人は、三度、恋をする〜』など。現在、映画の魅力を語りつくす『映画工房』(WOWOW)のMCや『NEWS ZERO』(日本テレビ系)でキャスターを務めるなど、幅広く活躍。この夏も舞台『大人のけんかが終わるまで』(7月14日〜29日@日比谷シアタークリエほか)に出演する。

(取材・文/井ノ口裕子)