共働きに専業主婦、事実婚、同性カップルと家族のカタチは異なるけれど、直面する悩みは誰もが切実。そんなドラマが女性たちに支持されている。
ひとつ屋根の下で暮らす多様な家族の群像劇『隣の家族は青く見える』(フジテレビ系)では、深田恭子演じる妻が先の見えない妊活に悩む一方、子どもを望まないカップルも登場。女なら、夫婦なら欲しがって当然という重圧を「自分の物差しだけで他人を測るな」の言葉ではねつけ、共感を集めた。
96%の女性が名字を変えている
隣の芝生が何色に見えようと、家族のあり方は十人十色。人々の意識、時代の変化を反映して移り変わっていくのが自然だ。
入籍するときに結婚前の姓をそのまま名乗るか、同姓とするかを夫婦で選べる『選択的夫婦別姓』の導入について尋ねると、「賛成」が42・5%と過去最高に。「反対」の29・3%を上回り、5年前の前回調査から賛否が逆転した。
こうして世論が変わっても、日本には依然として夫婦別姓を阻む「壁」がある。'15年、最高裁大法廷は初めて「夫婦同姓は合憲」の判断を出し、別姓を認めなかった。「夫婦同姓や家族の呼び名を1つにすることは合理的で日本社会に定着している」とされたためだ。
女性や子どもをめぐる問題に詳しく、夫婦別姓訴訟の副団長を務める打越さく良弁護士によると、
「多くの国で夫婦別姓を選べるのに対し、同姓を法律で義務づけている国は日本だけ。明治には夫婦別姓の時期がありましたし、同姓が定着したのは、法律でそう定めたからです。昔ながらの伝統というわけではないのです」
民法では、結婚した夫婦はどちらかの名字を選ぶよう定めているものの、現実には、カップルの96%は女性が名字を変えている。
「そのため夫婦同姓の規定は差別的だとして、国連の女性差別撤廃委員会から再三にわたり改善勧告を受けています」(打越弁護士)
今年に入り、再び「壁」を突き崩すための裁判が始まっている。1月、ソフトウェア開発会社『サイボウズ』の青野慶久社長らが、選択的夫婦別姓を認めないのは憲法違反だとして国を訴えた。
そして今月14日、東京都や広島市に住む4組の事実婚カップルが、夫婦別姓を求めて国を提訴する。
原告の1人で、東京都の看護師・大竹幸乃さん(40代=仮名)は、裁判に先駆けて開かれた記者会見でこう語った。
「(私と夫は)お互いの姓を変えずに結婚することを望んで、いまは事実婚となっています。生まれたときからの姓名で築いてきた公私にわたる実績や人とのつながりを結婚後もそのまま継続してほしいと、お互いに思ったからです」
そもそも、なぜ結婚したら姓を変えなければいけないのか? その疑問が頭から離れず、夫婦別姓の動きをチェックしてきた。
「法制審議会が夫婦別姓の導入に向けた答申を出したのが'96年。雑誌で別姓特集号が出されるほどの注目度でした。なので、すぐ通るだろうと思っていたら、25年近くたってしまった」
婚外子を避けるため産前入籍、産後離婚
と大竹さんは話す。'01年に結婚式を挙げた夫は、小学生のころからよく知る仲。お互いに「フルネームでひとつの個人」と認識している。姓を変えたくないと話し、事実婚を切り出すと、夫はすぐに同意。義父母も「2人がいいなら」と賛成してくれたが、大竹さんの両親は「法的な保護がない」と心配していた。
専門職としてフルタイムで働くなか、普通に生活している分には支障はない。しかし両親が心配したように、いざというとき、「事実婚では、夫婦間や子どもについての法的な権利、保護が及ばないことが多々あります」(大竹さん)
例えば、相続。事実婚では法定相続人として扱われない。前出・打越弁護士は「遺言書を作っていたとしても税率が高くなります。生命保険の受取人は断られるケースも。母子別姓となれば、子ども名義の銀行口座の開設、パスポートの申請が困難な場合もある。家族が倒れて救急搬送されたとしても、事実婚では治療の同意書にサインができません」と指摘する。
別姓を選べないことの不利益はまだある。大竹さんによれば、看護師などの各種免許は戸籍名での登録となるため、もし改姓しても、多くの職場で旧姓を通称として使用できないという。
一方、'15年の最高裁大法廷では「通称使用の広がりで不利益が緩和される」と述べており、また政府も、銀行口座を旧姓でも作れるよう金融機関に働きかけるなど力を入れているが、
「女性が戸籍名と通称を使い分けなければならない負担は、通称拡大では解消されません」(打越弁護士)
大竹さんには現在、小学6年生と高校1年生の息子がいる。結婚した翌年に長男が生まれ、4年後には次男、三男が誕生。だが事実婚では婚外子となるため、出産する直前に婚姻届けを提出、産んだあとに離婚届を出す「ペーパー離婚」をした。息子はどちらも夫の姓である山村(仮名)を名乗り、家族の中で、大竹さんだけ名字が異なる。生活に支障はないのだろうか?
「子どもたちには生まれたときから、これが普通。親の名前はフルネームで教えていたので、なぜお母さんだけ名字が違うの? と言われたことはありません。担任の先生にも説明してオープンにしていますが、露骨に何か言ってくる人はいませんね。基本的に“山村くんの母”として接しているから特に意識しないのでは?」(大竹さん、以下同)
夫婦別姓の反対意見には「子どもがかわいそう」「家族の絆や一体感を損なう」などの声が頻繁に上がる。
「いじめを心配しているのかもしれませんが、他人との違いをあげて排除することは、ほかの事柄でも起こりえます。また、自分だけ名字が違うからと、家族に疎外感を抱いたこともありません。同じ名字だから一体感を得られるという人は夫婦同姓を選ぶことができます。みんな別姓に、と言っているのではなく、その選択肢がほしいのです」
時代に沿う判断が必要だ。
大竹さんらの裁判に関して情報発信を行う「夫婦別姓訴訟を支える会」https://www.facebook.com/別姓訴訟を支える会-2003101623279191/
https://twitter.com/bessei2018