ディズニーアニメーションに登場するプリンセスの中でも、常に高い人気を誇るキャラクターのひとりが『リトル・マーメイド』のアリエル。人魚でありながら人間の王子に恋をして、大きな犠牲をものともせず憧れの人間界へと飛び込んでいく彼女は、世界中の女子から熱い共感を呼ぶ存在だ。
劇団四季による舞台版でアリエル役を務めるひとり、若奈まりえさんも、この役を演じながら魅力をひしひしと感じているという。
「私が何よりアリエルをリスペクトするのは、自分の力で未来を切り開こうという意志を持った、強い女性であるところ。どんなことがあっても前を向く強さと明るさ、人を巻き込むパワーがあって、魅力的ですよね。とても影響を受けています。
私自身はもともと慎重派なのですが、役を通してどんな困難も、それを越えたところに大きな喜びがあるんだと信じられるようになって、ワクワクするようになりました。自分が憧れるものに対するアリエルの強い気持ちや前向きさには、本当に見習うべきところが多いです」
若奈さん自身、子どものころから、夢を持って努力をし、劇団四季という未知の世界へ飛び込んだ経験の持ち主。そうした経験が、アリエルを演じるうえでも役に立ったのでは?
「そうですね、重なる部分は多かったです。例えば『パート・オブ・ユア・ワールド』というナンバーを歌う前に、アリエルが父トリトンとケンカをするんですね。父の愛情はわかっているけれど、話を聞いてくれない父に反発したアリエルは“自分の未来は自分で決めるもの”と言う。そこは作品のテーマだと思いますし、実感を込めて大事にしたいセリフです」
愛情深い若奈さんの両親は、娘の夢に対して反対をしたというより「心配してくれた」そう。
「私が“舞台の道に進みたい”と言うと、“舞台の仕事だけでごはんを食べていくのは大変だろう”と、かなり心配されまして。“信じて見守ってほしい”という意志は伝えました。今こうして四季の舞台に立てていることで、やっと安心してもらえたと思います。だから夢に向かうアリエルのセリフを、私の言葉としても両親に聞いてもらいたかったんです」
嘘なくリアルな
等身大のアリエル
小柄でキュートな末っ子キャラで、透き通った声を持つ若奈さんはアリエル役にピッタリだという声が多い。
「劇団でいただく役も子どもの役が多かったので、今回は芯のある女性ということであまり子どもっぽくならないように気をつけているのですが、やはり自分の実をもって嘘なくリアルに演じることを第一に心がけています。舞台を見てくれたお子さんからのお手紙を読むと、“アリエル、がんばって”と同じ目線のお友達感覚で見てもらえていることもあるようで、とてもうれしいですね。役に寄り添いながらも等身大のアリエルを表現できればと思っています」
『リトルマーメイド』といえば、圧巻なのが、幕が開くなり作品世界へと誘ってくれる海中シーン。フライングをしながらしなやかに泳ぐアリエルは優雅に見えるが、かなり体幹を鍛えないと難しそう!
「私は水泳を習っていたので“できるかも?”と思っていたのですが、まるで違いました(笑)。動きは水泳よりダイビングに近いのかな。2本のワイヤーを腰に装着しているだけなので、気を抜いたらクルンと1回転してしまうんですね。腹筋と背筋でしっかり支えないと倒れてしまうので、吊られてバランスをとりながら泳いで、声を出す、歌うということがとても難しいんです。フライングは出演を重ねる中で、より成長していきたいところです」
一方、人間界の世界観は、海中とはまた違う表現がなされている。
「それぞれの世界がアリエル目線で表現されています。彼女にとっての現実である海中は奥行きのある3D、憧れである地上世界は絵本のような2D。絵本のページをめくるように、夢見た世界へガラリと変わるんですよ。そんな地上の世界で、声が出なくてもなんとか思いを伝えようとするアリエルに、エリックが“言葉なんていらないね”と言ってくれる。その“一歩ずつ”というシーンがすごく好きですね」
アリエルと同じように夢を叶えた若奈さんにとって、さらなる夢とは?
「まだ今は次のことや新しいことは考えられないですね。アリエル役はまだやり始めたばかりですし、とても楽しいので、まだまだこの作品に貢献したいし、この作品で成長したい。ハッピーエンドで、みなさまが100%笑顔で帰ってくださるのが本当にうれしいんです! お客様の反応がじかに伝わってきたり、スタンディングオベーションをしてくださったりと、愛が大きくて、幸せです。求められる限り、この作品に出演し続けていきたい。もっと深めて、もっとお客様の背中を押せるような作品にしたい。今は、それだけを強く願っています」
<出演情報>
『リトルマーメイド』
ディズニーが大ヒットした同名アニメーションをミュージカル化。劇団四季ではディズニーとの提携4作目として2013年に開幕した。日本版ではディズニーと四季チームの共同作業により、ビジュアルや演出効果面がより進化している。名古屋四季劇場にて8月26日まで、福岡・キャナルシティ劇場にて11月4日まで上演中。大阪四季劇場にて10月13日より開幕予定。
取材・文/若林ゆり