「“佐藤健、そろそろ高校生きびしいんじゃないか”って話をされたら、実際に28歳なので、それを言われるとぐうの音も出ないわけです」
3月11日、人気漫画を実写映画化した『いぬやしき』のイベントに、主演の木梨憲武らとともに出席した佐藤健。今作で佐藤は28歳にして高校生を演じている。
「今作の主人公は初老のサラリーマン。味のある芝居をする木梨さんですが、それだけでは画的にも客寄せにも心もとない(苦笑)。せめて対峙する高校生役に名のある華やかな俳優を、とのねらいが見えます。
小栗旬は31歳の高校生
そこでアラサーに差しかかった佐藤さんに白羽の矢が立ったのでしょう。そう、ドラマでは視聴率、映画では興行の面として、人気と実績のある“大人高校生”は不可欠な存在なんです」(映画配給会社関係者)
'08年に放送されたTBS系ドラマ『ROOKIES』に出演、当時は18歳と適齢だった佐藤。10年たった今も高校生役を演じることになったが、ほかにも20代、さらには30歳を過ぎた“大人高校生”が重宝されている。
「代表的なのが小栗旬でしょう。ちょうど20年前の15歳時には反町隆史さん主演の『GTO』('98年フジテレビ系)で、相応の生徒役を演じましたが、以降も20代で『花より男子』('05年TBS系)、『花ざかりの君たちへ』('07年フジテレビ系)、映画『クローズZERO』('07年公開)など、20代にして多数の高校生を演じました。“永遠の高校生”の名を欲しいままにしていました」(ドラマ制作関係者)
20代半ばになり、ついに“卒業”したのかと思いきや、'14年のドラマ『信長協奏曲』(フジ系)で31歳にして返り咲いたのだった。ドラマ評論家の成馬零一氏が、そんな高校生役事情を解説する。
「ドラマや映画を含めた日本のエンターテイメントにおける、漫画原作の特殊性というものが関係しているのだと思います。学園ものやヤンキーものなど作品は多々ありますが、ほとんどが原作は漫画で、モデルが絵になるのです。
例えば身体の鍛え方ひとつとっても、すごく強い実在しえない高校生を演じるわけで、実年齢の中高生が演じるとあまりにも幼く映ってしまうのです。それこそ妻夫木聡さんの『愛と誠』は昔の漫画ということもあって、現代よりもずっと大人っぽく描かれた高校生ですからね」
たしかに小栗や東出昌大らが出演した『クローズ』シリーズのように、筋骨隆々のヤンキーアクションをこなすには成長過程の10代では役不足か。漫画は完成された理想の少年少女が多いだけに、心身ともに安定した成人のほうがイメージに合うわけだ。
女性は25歳がボーダーライン
20代の女優が女子高生役に選ばれるのには、こんな理由があるのだとも。
「特に映画では性表現やバイオレンスが絡むことが多いので、未成年に演じさせるのは問題になりやすく、規制もきびしいのではないでしょうか。そういう意味では、年上のほうがキャスティングしやすく、本人も演じやすいのかもしれません。これは今に始まったことではなく、高校生役ではなくとも、妙齢の女性が10代、20代の女性を演じることは多々ありました」(成馬氏)
'06年のアメリカ映画『バベル』では、当時25歳だった菊地凛子が女子高生の“濡れ場”を披露した。その演技が評価されて本場『アカデミー賞』で『助演女優賞』にノミネートされる快挙を成し遂げたのだが、たしかに実年齢にはハードルが高い役柄ではあった。とはいえ、
「ホラーやバイオレンス系はともかく、桐谷美玲の『ヒロイン失格』や、山本美月の『ピーチガール』など、高校生の日常生活を軸にした作品となると、20代半ばの女優は途端に減っていきます。同性の目はきびしいですし、25歳がボーダーラインともいえますね」(芸能プロ関係者)
そんな概念をも吹き飛ばして、近年では最高齢となる33歳で高校生になったのが山田孝之だ。15分の短編ファンタジー映画『パラレルワールド』では、小栗の『信長協奏曲』や、鈴木亮平の映画『俺物語!!』のキャラクター系主人公とは異なり、高校生として制服に身を包んだ。
「何をやっても“おもしろくする”特殊な俳優で、もはや年齢などは関係なくなりつつあるのかなと思います。昔は美少年役が多かったのがコワモテ路線を確立、最近ではつかみどころのないキャラクターになってしまいました。もう何をやっても“山田孝之ならしょうがないか”みたいな雰囲気になっていますよね」(成馬氏)
確かな演技力と存在感をもってすれば、40歳でもなりきれそうだ。そんな山田は“別枠”だとして、成馬氏が気になる“大人高校生”は?
「窪田正孝さんですね。この方は10代から演じてきた初期よりも、今は熟練されてきて高校生の生々しさというのが際立っています。さすがに顔は大人っぽくなりましたが、それでもあと2年、30歳まではやれるのではないかと思います。変な話ですが、もはや“プロの高校生”と言えますね。俳優として圧倒的にうまいからこそ、違和感なく高校生になれるのだと思います」
そう、オファーが来るのは客寄せのためだけではない。“大人高校生”とは演技力が認められた勲章なのだ。