「いろいろな取材で“どうして『火花』を書いたんですか?”って聞かれるんです。その都度思ったことをお答えはするんですけど、毎回言っていることが微妙にちゃうかったり(笑)。本当言うと、自分でもわからないからなんですよね。だから、今回の舞台に本人役で出演することで、作品について改めて真剣に考える機会をいただけたような気がします」
小説『火花』を舞台化した『火花 ―Ghost of the Novelist― 』に、原作者でお笑いコンビ『ピース』の又吉直樹(37)が本人役で登場する。売れない芸人たちの葛藤が描かれるが、自身の無名だった時代を振り返ると、
「仕事がないときも、面白いことはありましたね。何事も“途中”がいちばん面白いんですよ。当時の僕らは“世に出たい”っていう夢の途中にいたから、日々が楽しくて。恋愛で言うと、好きな人ができて、付き合えるようにいろいろ行動しているとき、みたいな。だから今も、“自分はまだ何かの途中なんだ”って思うようにしていて。ゴールを先延ばしにし続けることで、常に幸福度を味わいたいなと」
ちなみに今いちばん近い目標は?
「3作目を書くことですね。昔からライブでも“38歳のときに小説を1本書く”と言っていて。だから、今年はある意味ゴールの年なんです。……これがダメなんですよね、“ゴールを目先に作らない”ってさっきも言ったのに。まるで死んじゃうみたいな感じになってますね(笑)」
相方・綾部への思い
処女作が累計300万部超の大ヒットとなり、芥川賞も受賞。当時の大フィーバーについて、
「周りからは“あのときはしんどそうやったね。今は復活してきていい感じ”って言われるんですけど、何か劇的に楽しいことがあるでもないし、今がいい感じなのかも自分ではわからない(笑)。でも、普通だったら会えんような人にも会わせてもらえたり、あの経験はすごい貴重なものでしたね」
小説家としては2作を執筆、現在も新たな作品に取りかかるなどまさに絶好調。一方、相方の綾部祐二はニューヨークに拠点を移し、コンビとしての活動は休止中だが、
「綾部と僕は、タイプ的にはまったく違うけど、考え方が似ている部分があって。だから、ニューヨークに行くっていう彼の選択もよく理解できる。アメリカで見つけた夢への“途中”を楽しんでいるんだと思うんです。例えばラーメンって、食っているときより、並んでいて“もうすぐで食える!”ってときのほうがテンション高い気がしません? その興奮を、綾部は得に行っているんでしょうね」
原作では、ワケあって解散せざるをえないコンビなどリアルな芸人事情が描かれている。実際、又吉の先輩でM−1グランプリのファイナリストにもなった『カナリア』も、3月10日に解散ライブを行った。
「面白いと思っていた人が解散するのは、やっぱりすごく悲しいです。でも、彼らは決して敗北していってやめたわけではないんですよね。先輩のカナリアさんがどれだけ面白いかはみんなが知っていること。だから、彼らは新しいことに挑戦するために解散という道を選んだんだと僕は理解しています」
では最後に、又吉自身が挑戦してみたいと思っていることは?
「新しい挑戦には見えないかもしれないですけど、ひとつひとつの作品を面白いものにしたいです。あと、いつかは結婚もしてみたい。だから、芸人仲間との同棲を解消したっていうのもあるんですよ。男と同棲してたら、結婚できないんでね(笑)」
<出演情報>
舞台『火花 -Ghost of the Novelist-』
東京公演/3月30日~4月15日【紀伊國屋ホール】
大阪公演/5月9日~5月12日【松下IMPホール】
撮影/廣瀬靖士