登下校時にはランドセルの重みが子どもにずしりとのしかかり、家に帰れば同じ姿勢でスマホを何時間も見続ける悪い習慣が、子どもに肩こりや頭痛を広げている。
東京・杉並区の『久我山整形外科ペインクリニック』の佐々木政幸院長は、同じ姿勢で長時間過ごすことの弊害を次のように説明する。
「前かがみで45度ほど首を傾けると、頭の重さが4~5キロの人の場合、首にかかる負担は約20キロといわれています。要するに、ボウリングの球が首のところにのっかっているイメージですよね。子どもは骨も細いですし、筋肉もしっかりしていないですから、相当の負担になります」
姿勢は悪く猫背ぎみになり、その姿勢でスマホに依存する暮らしを続けていると、筋肉は緊張し、血行が悪くなるという悪循環。
ランドセルを背負う姿勢も悪くなれば、腰へのダメージは深まる。
教科書のほかにノートや副教材など、多くを背負って子どもたちは通学する。社団法人教科書協会のデータでは、2005年度と比べて小学校の教科書のページ数は全教科平均で約34%増えている。
「重すぎるのはよくないですね。筋肉にかかわらず、普段S字になっている背骨にも、何かしらひずみを生じかねないです」
と前出・佐々木院長は危惧する。
「身体は首だけでバランスをとるわけではなくて、全身でバランスをとります。姿勢が悪ければ腰への負担は大きくなります。悪い姿勢で座ると、立っているときに腰にかかる負担よりも大きな負担になります」
と姿勢の悪い子どもを案じる。
「スポーツをしている以外にも、受験時に頭痛や肩こり、腰痛などで来院する子どもがいます」
最近の実態をそう明かすのは、神奈川・横浜市の整体院『陽開カイロプラクティック』を経営する山中英司院長だ。
メンタルの乱れが腰痛につながる
ランドセルの重さを要因のひとつとして考える一方で、
「腰痛に関しては重い荷物を持つからというよりも、心理的要因に注目すべきでしょう。昔は、重労働をしているから腰に負担がきて、痛くなるというのが一般的に言われていました。
しかし、最近の研究では、メンタル的な部分、人付き合いなどの社会的要因が大きいということですね」
メンタル的な部分には、子どもひとりひとりの性格も大いに影響し、さらに子どもを取り巻くギクシャクした人間関係も子どもたちを萎縮させていると分析する。
「うちに来た患者の例でいえば、昔よりも子どもの自己主張が強い、という印象がありますね。
逆に、自己主張ができない子にとっては、非常に居心地が悪い時代だと思います。学校から一緒に帰るときも“私は〇〇ちゃんと帰る、あなたはどうするの、誰と帰りたいの?”みたいなやりとりがあって、人間関係がギスギスしているみたいですね」
放課後や休日に遊びに誘ったりする場合も、相手の都合を気にしながら誘うなど、大人顔負けの気遣いや処世術が求められる現代。
「腰痛を訴える子ほど、まじめな子が多い。まじめな子は全部受け止めちゃう。親の期待とか学校の成績とかいろんなものを全部、背負っちゃうんですよね」
と前出・山中院長。
教科書以外にも、目に見えない負担をランドセルに詰めて、子どもたちは通学しているようだ。
10代で円形脱毛症が……
東京・中央区の『シロノクリニック銀座』の徳永真理院長は最近、こんな話をいくつか耳にした。
「治療に来られている保護者の方から、10代の娘もしくは息子が頭髪で少し悩んでいるんだけど、というようなお話を聞いたんです。一部では遺伝や病気、薬の副作用という可能性もありますが、10代の抜け毛の原因はほぼストレスといえます」
1日100~200本くらい抜けるのが普通だが、枕元や浴室の排水溝、部屋の床にまとまった毛を発見すると、抜け毛が多いのでは? と思い込んでしまうケースもあるという。
「10代の抜け毛というと一部分だけというものが多くて、いわゆる円形脱毛症が多いですね。その一部分から広がる可能性もあります。
抜け毛自体は、命に関わるものではありませんが、目立つことは確かです。若い方ほど悩みが深いですね」(前出・徳永院長)
もし悩みがあれば医療機関に相談するのは大事とのこと。
「市販のシャンプーでも効果が出ることはあると思います。ただ、治療薬とまではいえません。頭皮に負担のないもので、ご自分が気に入ったものを使っていただくくらいがいいと思います。
レーザーや注射での治療もありますが、痛みを伴うこともあります。まずは飲み薬や塗り薬から始めるという方が圧倒的に多いですね」
と徳永院長。
薄毛はすぐに改善するものではないので、気の長い取り組みが肝心のようだ。
その昔、男の子の遊びのひとつに君臨していたキャッチボール。投げるときに遠くを見て、補球するときに近くを見るというバランスのいい目の運動になっていたという。
「今はインドア遊びが増えているので、子どもたちが近視になる環境が増えてしまっています」
東京・港区の『あまきクリニック』の味木幸院長は、最近の子どもたちの遊び環境が目のためになっていないことをそう指摘する。そこへ、スマホ利用の低年齢化が拍車をかけ、子どもたちを“スマホ老眼”が襲うようになった。
「目を酷使してしまうために、目の調整力が落ちていることを、スマホ老眼といいます。スマホばかりやっていると老眼になるということではなくて、老眼に似たような状態になりますよ、ということです。
さらに時間がたてば、近視化したり、肩がこったり、頭痛がしたり、集中力がなくなったりします」
調整ができなくなれば、子どもは学業に差しさわる。教育現場ではパソコンやタブレットを使う機会も増え、さらに目を酷使することになる。
「軽くSNSをやるくらいならいいですが、瞬間的に目で追うゲームは脳も集中しなくてはなりません。またネットのニュースなど細かい字を追うことも、目の負担になります」(前出・味木院長)
スマホを連続で2時間以上使用すると、かなり負担になるという。
「メディアなどでは“スマホ老眼”と呼ばれてきましたが、眼科的にはそれではおかしいから労働の『労』の字をあてて“スマホ労眼”と呼ぶようになってきています」
今年2月に発表された内閣府の調査によれば、青少年のスマホ利用時間は1日平均で約2時間半。目を酷使し、肩こりや腰痛にも見舞われ、“おっさん化”を加速させる。
高知・室戸市で小学5年生のクラスを受け持った男性教諭は、最近の子どもたちの様子に異変を感じているという。
「“肩が痛い”と保健室に駆け込む子がいるんです。ただ休み時間は外で遊んだりしているから不調が目立たない。原因がわからないので心配です」
ほかにも気になることが。
「最近の子はすぐ骨折する印象があります。ドッジボールの投げ合いで手にぶつかったときに折れたり、つまずいて手をついたときに手の甲を折ってしまったりということがありました」
子どもには元気ハツラツな姿であってほしい。