去る1月のコインチェック騒動。サイバー攻撃を受けて580億円もの仮想通貨『ネム』が盗まれたが、ここに全財産をつぎ込んでいた男がいたーー。
トキさんが仮想通貨を知ったのは、昨年11月。
「周りにやっている芸人が多くて。“預けていただけで儲かったよ”みたいな話をよく聞いて。僕は、かなり遅いほうでしたね」
まずは、コインチェックにアカウントを作り、値動きを見た。
「当時は、ビットコインが120万円くらい。ネムやリップルは、人気のわりにはまだ値段が上がりきっていなくて。そのときのネムは30円〜40円くらいでしたが、詳しい先輩は“100円、200円くらいまでは上がるよ”と」
とりあえず1万円分のネムを買ってみると連日、右肩上がりで、すぐ2倍。さらに10万円分を購入すると、これも数日で2倍になった。
「銀行の預金をスライドさせてるだけなのに、連日増えていく。これは、早く入ったもん勝ちという判断になり、12月なかばには貯金全額を投入。もう、欲まみれです(笑)」
その金額は、安めのBMWが買えるくらいだったそう。
「年末年始には一気に3倍に。暇さえあれば、携帯で値動きをチェックして。完全に調子に乗っていましたね」
さよなら、僕のネム
後輩に焼き肉をおごりまくったり、兄にゲーム機をプレゼントしたり。芸人をやらなくても、このまま食べていけるかも……と思いかけた矢先、騒動は起きた。
「その日は『R-1ぐらんぷり』の3回戦に向け、練習をしていて。夜中1時くらいに、休憩がてら携帯を見たら……。本当に、目から火花出た感じ。ネタどころじゃなくなり、始まった記者会見にくぎづけ。一気に現実味が……」
ネムを失ったトキさんの全財産は、手持ちの6万円と交通系ICカードに入れていた8000円のみ。
「本当に眠れなくて。次の日、朝イチで関西の情報番組に出演したんですが、リンゴ姉さんの顔がコインに見えて……幻覚です。5日で2キロやせました。
楽屋の“藤崎マーケット様”みたいな貼り紙も、マジックで消されて、“ネム兄”に。普通に歩いてるだけで、みんなゲラゲラ笑ってましたね。どん底です。もう、笑ってもらうしかない」
兄から生活費10万円を借り、極貧生活が始まった。
「本当に苦しかったとき、救ってくれたのは芸事でした。身をもって、お金と仕事の大切さを学びました」
日に日にコインチェックに関する報道は減り、返金は難しいだろうと思っていたが、3月8日に急展開。
「1ネム=88円で返金すると発表があり、4日後、本当に戻ってきました。ただ、収支はマイナスです……。投資額の7〜8割くらい。
手数料もありますが、本当によく上がっていたのは1万円時代、10万円時代だったので。あと1〜2週間早く始めていたら、プラスだったでしょうね」
現在は、仮想通貨からは足を洗ったそうだが、
「部活を辞めたような気持ち。やってる人たちは、本当に楽しそうで。今回の騒動は、コインチェックのセキュリティーがまずかったのであって、ネムに罪はないんです。さらに、何がいけなかったかというと、ひとつの銘柄に全額を投じて暴走したことです」
天国も地獄も見せてくれたネムが、もはや、わが子のように可愛く思えるというトキさん。お金儲けという意味での未練は?
「ちょっとありますね(笑)。騒動を経て、今、ネムはすごく下がっていますから。これから、また上がっていくんだろうなぁ。うーん。これって、完全に気になってるってことですよね!? 僕、たぶん……、またネムを買っちゃうんだろうなぁ(笑)」
トキ(とき) ◎お笑い芸人 ’84年12月6日生まれ。藤崎マーケットのボケ担当。’05年、コンビ結成直後に『ラララライ体操』でブレイク。その後はリズムネタを封印し、漫才ひと筋。現在は関西を中心に活躍中