この連載は、仲人として婚活現場にかかわる筆者が、毎回1人の婚活者に焦点を当て、苦悩や成功体験をリアルな声とともにお届けしていく。
今回は、婚活歴3年、100人近くと見合いの末に婚約に至ったが、破談になった41歳バリキャリ女性のストーリー。破断になった原因とは? どのような結婚相手を選んだら幸せになれるのか?
3カ所の結婚相談所を渡り歩いた
国木田知恵(41歳、仮名)が、私のところに婚活相談に来るのは、これで2回目だった。
自立して生活をするバリキャリで、スラリとした長身の美人だ。最初にやってきたのは昨年末のこと。そのときは、大手結婚相談所で出会った男性と結婚の話が進んでいるのだが、このまま結婚していいものかどうかで悩んでいた。
「38歳のときから、3カ所の結婚相談所を渡り歩いてきました。お見合いを100人近くしたのにうまくいかなかった。そんな中でやっと出会った男性なんです」
それが田渕則雄(44歳、仮名)だった。大手のメーカーに勤めていて、年収は800万ほど。たまたま同じ町に住んでいて、お互いに一人暮らし。ウィークデーの会社終わりに地元で会えたことも、2人の仲を急速に近づけた。3回、4回と会っていくうちに、互いの家を行き来するようになり、男女の関係にもなった。
なぜ結婚を悩んでいるのか。それは、ささいなことにもキレて怒り出す則雄の性格にあった。深い関係になる前から、取るに足らないことで気分を害するのが目についたが、互いの家を行き来する仲になると、感情をむき出しで怒るようになった。
最初に爆発したのは、知恵の家で、手作りした夕食を食べているときのことだった。
「彼が鼻水をタラーッと垂らして、それがテーブルに落ちたんです。だから、『風邪ひいたの? 鼻水ふいてよ。おかずに入るじゃない』って言ったんです。そのとき、私が少し顔をしかめたのかもしれません。『お前だって、風邪ひけば鼻水くらい垂らすだろう!』って、ものすごい勢いで怒りだしたんです。箸をバン!とテーブルの上に置いて、そのまま自分の家に帰ってしまった」
ところが、家に帰った則雄から、すぐに謝りの電話がかかってきた。
「ごめん。風邪をひいて体調が悪くてイライラしていた。せっかく夕食を作ってくれたのに悪かったよ。風邪が治ったら埋め合わせするから。何かおいしいものを食べに行こう」
しおらしく謝られると、彼が愛おしくなり、“これからは私も言い方に気をつけよう”と思った。
しかしながら、その後もささいなことで怒りだすことが続いた。則雄の家で豚肉の生姜焼きを作り、キャベツの千切りと合わせてお皿に盛りつけ、食卓に出したときのこと。知恵が生姜焼きばかりを食べていると、「キャベツも食べろよ」と急に語気を荒らげ、食事をするのをやめて別の部屋に行ってしまった。
ソファーに並んで座ってテレビを見ていたときのこと。知恵はじゃれあいのつもりで、ふくよかな則雄のお腹の肉をつまみ、「これは、なんだ〜〜」とおどけると、「何するんだよ!」と、その手をパンとはねのけ、驚くほどの大声で怒鳴りだした。
また、コンビニの若い女性店員から不愉快な対応された知恵が、そのことを愚痴ったときのこと。「俺がお前を不愉快にさせたわけじゃないだろう。こっちは疲れてるんだ。くだらない話するな!」とキレて、デートの途中で家に帰ってしまった。
「お前が俺を怒らせているんだ」
則雄はいったん怒りだすと、怒りがどんどん増幅していく。目が据わり、ウーッと歯を食いしばったかと思うと、罵詈雑言を並べたてて喚き散らすという。そして、決まって言う。
「お前が俺を怒らせているんだ。どうしてくれるんだ」
ひどいときは、1時間も2時間も怒り続けるという。
そんな話を聞いて、私は知恵に言った。
「人には“喜怒哀楽”の感情がありますよね。 “怒”の感情をあらわにする人を結婚相手に選ぶと、心が休まることがないですよ」
怒りの沸点が低い人は、ストレスや不満を感じやすい気質だ。自分の考えている筋道があり、そこに横やりが入ると突然怒り出す。つまりはそういう脳の構造なのだ。また、プライドが高く、その裏返しで劣等感も持ち合わせている。ことに男性の場合、恋愛関係において女性よりも優位に立ちたがる。自分の気にさわるようなことを言われると許容できずに、怒りの感情をあらわにするのだ。
「怒るという行為は、相手の人格を攻撃するということ。人に備わっている防御本能から、怒りやすい人と一緒にいると、相手を怒らせないように、いら立たせないように、いつも顔色をうかがうようになりますよ。そんな相手と結婚生活を送るのは疲れるんじゃないですか?」
「わかりました。彼と結婚して本当に幸せになれるのか、もう一度よく考えてみます」
年末の相談のときは、こう言って帰っていった。
婚約、成婚退会、新居購入後に破談
そして、先日、再び相談にやってきた。入会したいという。
「あれから結局お付き合いを続けていました。そして、12月にプロポーズされて、結婚相談所を成婚退会したんです。その後、それぞれの親にあいさつに行って、新居のマンションまで購入しました。ところが3月に入って、彼から婚約解消を言い渡されたんです」
こういうと知恵は、あふれ出てくる涙をハンカチで拭った。
「前回相談に来て、いろいろお話を聞いて、“やっぱりこのお付き合いは、やめたほうがいいのかな”とも思いました。でも、彼にもいいところがある。怒らないときは、優しい人なんです。それにキレて罵詈雑言を並べたてるけれど、私には決して暴力を振るわない。仕事にはまじめで、稼ぎもある。怒るところさえなくなれば、理想の人だった。だから、別れられなかった」
そしてなにより41という年齢が、まとまりかけた結婚を壊す気持ちに歯止めをかけた。
「彼と別れたら、次がいつ現れるのかわからない。今結婚すれば、最後のチャンスで、子どもも授かることができるかもしれない。ならば、私が彼を怒らせないように気をつければいい。私が彼に愛情を注いで生活をしていくうちに、怒りやすい性格も直るんじゃないかって思ったんですね」
そう思って付き合いを続けていった。キレてケンカになるのはしょっちゅうだったが、その都度仲を修復して、婚約までこぎつけた。
ところが、ある出来事が決定的な破局につながった。
則雄の家に遊びに行ったときのこと。ある新興宗教団体が発刊している小冊子がテーブルの上に置かれていた。ソファーに座ってテレビを見ていた彼に聞いた。
「この宗教に入っているの?」
「ああ、名前だけな。両親は熱心にやっているけれど」
「私、その団体は好きじゃないよ。結婚して家計から寄付金を出すとか嫌だからね。それに、どんなに勧められても私は入らないよ」
その一言が、また怒りを買った。
「なんだ、その言いぐさは! 俺はしぶしぶ名前だけ入れてるんだよっ!!」
目の前のコップを知恵めがけて投げつけてきた。それが知恵の体に当たった。物を投げつけられたのは初めてで、頭の中が真っ白になった。暴言を吐くものの、知恵には手を上げなかったのに、初めて暴力を振るわれたような気持ちになった。
「何するのよー!」
とっさに近くにあったボール紙を丸めて、則雄に向かって投げつけると、それが彼の足に当たった。
「お前こそ何するんだ! 骨折したらどうするんだよ」
「骨折? 紙で骨折なんかするわけないじゃない?」
これまでずっと抑えつけてきた感情が一気に爆発し、怒りに任せて則雄と同じテンションで怒鳴り返した。
すると、則雄はさらに怒りを増幅させ、これまでで一番の大声で怒鳴った。
「帰れ! さっさ消えろ!! 結婚は取りやめだっ!!!!」
その日は、泣きながら自分の家に帰った。しかし、1日経ち2日経ちすると、知恵には後悔の念が押し寄せてきた。やっとのことで結婚できる相手に出会い、新居まで購入したのだ。なんとか修復できないか。その後は何週間にもわたって、何度も何度も泣いて謝ったが、則雄は聞く耳を持たず、「結婚はできない。買ったマンションは俺が引き取る」の一点張りだった。
見た目や年収よりも、穏やかな人がいい
破局に至った経緯をここまで話すと、知恵は言った。
「20代のころ、8年付き合っていた人がいたんです。大学在学中から、30歳になる直前まで。今考えれば、めったに怒る人ではなかったし、その人をもっと大事にして結婚してしまえばよかった。
あまりにも付き合いが長すぎたのと、最後の3年は彼が仕事で転勤になって、気持ちがすれ違ってしまった。あのときは彼と別れても、次がすぐ見つかると思っていた。でも、30歳を過ぎたら恋愛できる相手も急激に減ったし、35歳を過ぎてからは、恋愛する相手すら見つからなくなった」
さらに、知恵は続けた。
「3年前結婚相談所に入った当初は、年収、見た目にこだわっていたけれど、今は、まじめに仕事をする人で、ちょっとしたことでは怒らない、穏やかな人がいいなと思います。でも、そういう人は、出てくるんでしょうかね?」
「出てくるまで、逢い続けましょう。伴走しますよ」
すると、やっと笑顔を作った。
「そうですね。残りの人生をひとりぼっちで生きていくのは、やっぱり寂しいですから」
こうして知恵の新たな婚活が、リスタートした。
鎌田 れい(かまた れい)◎仲人・ライター 雑誌や書籍のライター歴は30年。得意分野は、恋愛、婚活、芸能、ドキュメントなど。タレントの写真集や単行本の企画構成も。『週刊女性』では「人間ドキュメント」や婚活関連の記事を担当。「鎌田絵里」のペンネームで、恋愛少女小説(講談社X文庫)を書いていたことも。婚活パーティで知り合った夫との結婚生活は19年。双子の女の子の母。自らのお見合い経験を生かして結婚相談所を主宰する仲人でもある。公式サイトはコチラ。