政府と東電の廃炉工程表では、最長40年で事故処理を終える計画を堅持している。しかし、現実には事故収束は見通せない厳しい状況だ。いまなお「原子力緊急事態宣言」は発令されたまま。原発はいま、どのような状態なのか。
科学ジャーナリストの倉澤治雄さんが解説する。
「福島第一原子力発電所の敷地の9割は全面マスクをしなくてもよくなりました。しかし一歩、建屋に入ると線量は高く、がれきが散乱し、作業できる状況ではありません」
4号機の使用ずみ核燃料は取り除いたが、1号機では、建屋上部にあるプールから燃料棒を抜き取るため、屋上の構造物を無人クレーンで取り除く作業が行われている。
3号機では、ようやく建屋に抜き取りのためのカバーが設置されたが、2号機はめどさえ立っていないという。
「そして原子炉の中には、大量のデブリ(溶けた核燃料)がある。それを冷却するために注水が続いています」
汚染水の総量は80万トン
加えて、原子炉建屋の地下部分が壊れて周辺の地下水が流れ込み、大量の汚染水も発生している。
「地下水の流れ込みを防ぐ凍土壁ができましたが、それでも1日に100トン近い水が建屋に流れ込んでいます」
汚染水の総量は約80万トン。放射性物質を取り除く処理をしてタンクに貯めるが、鋼材をボトルでつないだフランジ型タンクは5年しかもたない。そのため、溶接型に切り替えている。
貯められた汚染水は、放射性物質を取り除く処理を行う。それでも、水素と同じ性質を持つ放射性物質・トリチウムは除去できない。
「汚染水のトリチウムは、3000兆ベクレルという膨大な放射能です。東電は、これを薄めて海に流す方針です」
原子力規制委員会も海洋放出を急かしているが、当然ながら地元の漁業者は反対している。
「トリチウムは水と同様に、体内に入っても出ていくと考えられていましたが、身体の有機物と結合すると大きな影響があることが知られています。
トリチウムの体内動態はまだよくわかっていません。流さざるをえないなら、薄めて流すだけでなく、一定期間の放出量を制限する考え方も取り入れるべきだと思います」
事故処理は困難を極める
事故処理で最大の問題は燃料デブリだ。そもそも取り出すべきか? 取り出すことは可能なのか? もし不可能ならどうするのか? そうした基本的なところから考え直すべきだと倉澤さんは言う。
「デブリを取り出し30〜40年で廃炉という計画は、とうてい無理です」
今年1月、2号機の格納容器の内部調査が行われた。調査映像では、圧力容器の真下にデブリは溶け落ち、そこに水がパラパラ落ちている状態が確認できる。
「水に浸かっていなくてはならないのに、床から30cm程度しか水がない。デブリの塊が水から顔を出す状態で、よく冷えたな、と驚きました」
圧力容器だけでなく、格納容器の底が壊れていることもわかっているが、どこがどう壊れているのかは不明だ。
東電は格納容器の側面からデブリを取り出す方針を固めている。だが、
「本来、水に沈めて取り出すのが正攻法。格納容器の底部が破損し、水をためるのが困難なために考え出した机上の計画にすぎない」と倉澤さんは手厳しい。
さらに、「溶け落ちた燃料が圧力容器の外に飛び出て、床のコンクリートと溶け合い、化学反応を起こしています。歴史上、誰も経験したことのない事故処理に手探りで挑戦している状況です」と指摘する。
デブリの扱いが難しいことは歴史が証明している。米スリーマイル島の原発事故では、デブリを砕くのに時間がかかり、いまなお1トンほどが残ったままだという。
「最も長い想定では2134年に終える計画で、1979年の事故からなんと145年後です。チェルノブイリ事故の廃炉作業も、石棺で封じ込めたまま、今後100年は手をつけないという状況です」
倉澤さんは警告する。
「福島原発には多くのリスクが残っています。汚染水に使用ずみ燃料、デブリ、大量の放射性廃棄物。排気筒には亀裂があり、線量が特別に高いところもある。地震や津波に襲われると、再び暴れ出しかねません。しっかりと現実を直視すべきだと思います」