「1度も死なずに生きていらっしゃったみなさん。謹んでお喜びを申し上げます。……、僕の日本語のレベルは、そんなに高くないんです。次にお会いするまでに練習しておきますね。衣装とかつらも用意して(笑)」
週刊女性がリクエストした“綾小路きみまろ風の挨拶で!”に挑戦をしてくれた韓国出身の歌手ソン・シギョン。ソフトで甘美な歌声から、本国では“バラードの貴公子”“鼓膜彼氏(恋人のように甘い歌声で癒してくれる)”など、数々のニックネームを持つ。
「貴公子とか皇帝とか、その呼び方はやめてください。“鼓膜彼氏”は、かなり刺激的な表現ですよね。初めて聞いたとき、身体を解剖されたような感じで怖かったです(笑)」
そう笑顔を浮かべる。日本でも大人気の『雲が描いた月明り』や『星から来たあなた』などのドラマ挿入歌をはじめとするアーティスト活動はもちろん、数々のバラエティー番組やラジオパーソナリティーもこなす、まさに万能選手。本国で絶大な人気を誇る彼が、この春から本格的な日本活動をスタートさせる。
日本での活動に不安は?
「これまでも毎年のように、日本でファンミーティングやコンサートを開催してきました。でも、それ以上の活動がしたいとずっと思っていたんです。ようやく縁があってスタートさせることができます。不安ですか? ないです。できなかったら、それでいい」
スパッと答える。そのあと、「もちろん、成功したいのは、やまやまですけど」と続け、
「正直に言えば、韓国でもう挑戦できることがあまりないんです。なんでもやりましたから。ラジオDJもテレビ番組も楽しいし、ギャラもいいんですけど(笑)、僕は歌手なので。テレビやラジオで“成功した”と言われるよりも、それ以上にコンサートのチケットが売れたほうがうれしいんです。
日本でやることは、初めてのことばかり。僕のことを知らない人が多い環境で頑張ることで、精神的に若くなった気がしています(笑)。不安をひとつあげるとすれば、体力。
例えば、韓国だと普通1週間おきにコンサートをやるんです。でも、日本だと1週間に何回かステージに立ちますよね。そこは頑張ります(笑)」
日本ですでに活動している韓国人アーティストは多いが、仲良しのメンバーは?
「SUPER JUNIORのキュヒョンとは、いまもSNSで連絡をとり合っていますよ。以前、彼のコンサートにゲスト出演したんですが、日本でそんなに有名だと知らなかったんです。
頼まれて曲も提供したし、入隊前でもあったから、気軽に「コンサートに出てあげるよ」って、しかも、偉そうに言ってしまって。会場に行ってみたら、1万人以上のお客さんが入る横浜アリーナで驚きました。
そのとき、キュヒョンを裏切って、僕のファンになった方もいらっしゃって。とても大事な方です(笑)。今度は、僕のコンサートにキュヒョンを呼ぶって、いいですね」
僕の強みはなんだろう
シギョンが本格的な日本活動を前に準備したのは、日本語。先日、彼が出演した韓流ぴあ11周年記念イベントでは、ファンからプレゼントされたという綾小路きみまろの本を引用してトークを展開。会場のファンを爆笑させていた。
現在、7月に受ける日本語能力試験の勉強と日々のスケジュールで、プレゼントされた本はパラパラとめくっただけとは言うものの“きみまろ”トークをすぐに再現できるところをみると、抜群のユーモアセンスと日本語の実力を感じる。
「ずっと罪悪感があったんです。僕のコンサートやファンミに来てくださるみなさんは頑張って韓国語の勉強をしていて、手紙もハングルで書いてくださる。なのに、僕は何もやってあげられていないと。
僕自身の強みはなんだろうと考えたときに、歌手なので、ちゃんと歌うこと。そして、見た目で勝負ができるわけでもないので(笑)、“頑張ってくれた”と思ってもらえるくらいに日本語を勉強したら少しは恩返しができるんじゃないかと思って」
本格的な勉強はこの1年。そうは思えない美しい発音と語彙力。
「ありがとうございます。日々、精進していきたいと思います(笑)。これは、何度も言っていますが、外国語の勉強に王道はないです。それが、事実でございます。30分でできる、聞くだけで……、そんなに簡単なものではございません。
教材はなんでもいいので、自分が興味を持っているものを毎日少しずつ、おしりをイスにつけて、友達に誘われても我慢しながら、いつかできるんだと信じながら、つらい時間を乗り越えるのが外国語の勉強だと思っております」
ユーモアたっぷりに答える。韓国の自宅では、時間があればスマートフォンを片手に日本のテレビ番組を見ているそう。わからない単語や表現があると、すぐにスマホで調べる。
その努力の成果が発揮される場として、4月からはNHK Eテレ『テレビでハングル講座』(毎週水曜 夜11時30分~)にレギュラー出演している。
「最初、テーブルについて討論する役割かと思ったら、スキットへの出演だったんです。まさかの(韓国語での)演技と聞いて、いまでも恥ずかしくて、耳が赤くなるほどです(笑)。
でも、僕、日本では、どんなスケジュールでもありがたい新人で(笑)、さらにNHKじゃないですか。決まったときは、本当にうれしかったです。
5月からは、日本語を勉強しているひとりの学生として感じている文化の違いや、覚えておくと韓国で役に立つ表現を日本語でお伝えするコーナーもスタートします。番組をご覧になる方って、僕が何者か知らない人のほうが多いじゃないですか。
急にスキットに39歳の大きな人が出てきたけど……って、感じる人が多いと思うので(笑)新しいコーナーで、歌手である僕自身のことも伝えられたらいいなと思っています」
日韓での過密スケジュールを過ごす自分を慰めてくれるのが“日本のおいしい食事”。ドラマ『孤独のグルメ』の大ファンだそう。
「全部見ました。実際に行った店もいっぱいありますし。原作の久住昌之先生もドラマの制作スタッフも本当に信頼できると思いますよ。だって、おいしくなかった店がないんです。
新宿の豚の生姜焼きの店は、日本でいちばんおいしかったし、鶯谷の鳥専門の朝10時から飲めるお店も魅力的でした。
韓国って、ひとりで食事をすることがないですし、ひとりで飲む人もあまりいない。だから、一人前の量を頼むのが難しいんです。日本では、刺身の三点盛りってありますが、韓国なら1匹丸ごと出てきますから(笑)。
少しずつ出てくる日本は、酒飲みにとって最高だと思います。昨日もサメの軟骨と梅を和えた梅水晶が出てきて、最高でした! あと、からすみに、エシャロット。これも韓国では、あまりないんです」
本国では人目が気になってできない、繁華街のひとり歩きも日本ではできる。それも新人の特権だと語る。
一生、歌っていく
グルメとお酒を愛するシギョン。それ以上に、愛をもっているのが歌。
「正直、昔は、カッコつけて言っていたときもあります。でも、いまは本当に、歌うことが、僕の人生の仕事なんじゃないかと思っています。この先、自分が上に上がっていくか、落ちていくかわかりません。
でも、一生、歌っていくと思います。日本に来るとき、職業欄にいつも“歌手”と書くんです。いつか、その欄が空欄でも僕が歌手だとわかる、そんな人になりたいです。それが、目標です。なのに、レギュラーで決まった日本の番組が“演技”をするコーナーって(笑)。これからですね」
4月7日から19日まで『ソン・シギョンJAPAN 1st SHOWCASE TOUR 2018~春、君~』を、7月4日には新曲で自身が作曲した『幸せならそばにある』をリリースする。ソン・シギョンの“これから”が、好調なスタートを切った。
〈PROFILE〉
1979年4月17日生まれ、186センチ、A型。’00年韓国でデビュー。翌年の各種新人賞を総なめに。これまでのアルバムのセールスは通算で200万枚以上を記録。韓国を代表するバラード歌手であり、マルチタレント。公式サイト http://sungsikyung.jp/