4月15日、渋谷すばるさんが、関ジャニ∞からの脱退と、ジャニーズ事務所からの退所を発表しました。脱退の理由は、「今まではジャニーズ事務所、関ジャニ∞というグループに支えられ、時には甘えさせてもいただきましたが、今後はすべて自分自身の責任下で音楽を深く追求していきたい」という前向きなもの。しかし、決まっているのは「海外で学ぶ」ということだけで、行き先や日時などは未定でした。
異例だったのは、負傷で入院中の安田章大さんを除くグループ全員で会見に挑んだこと。これまで、SMAPの森且行さん、KAT-TUNの赤西仁さん、田中聖さん、田口淳之介さん、NEWSの森内貴寛さん、内博貴さん、草野博紀さん、錦戸亮さん、山下智久さんがグループを脱退したときは、このような会見は行われませんでした。
もともとジャニーズ事務所のタレントは、「アイドルとしてファンに夢を与える」という役割を徹底するため、脱退に限らず熱愛報道のときなども会見を開くことはめったにありません。つまり、「アイドル活動以外の余計なことは話さない」ジャニーズのタレントにしては極めて珍しいオープンな会見でした。
ネットメディアやワイドショーなどは、「アイドルと年齢」や「メンバーの絆」を中心に語られていますが、私が気になったのは、マネジメントの変化と本人たちの自立心。芸能界というより、ビジネスシーンに近いものを感じたことです。
異例の会見は最速の「リスタート宣言」だった
前述したように、ジャニーズ事務所のタレントが、このような会見を行うのは初めてであり、マネジメントスタンスの変化を感じざるをえません。
会見を行った最大の目的は、ファンに対する説明。ビジネスシーンに置き換えると、クライアントに対する説明にあたるわけですから、果たすべき責任と言えるでしょう。だからこそ彼らは全員、ふだんなかなか見せないスーツ姿で現れ、真摯な表情で語っていたのです。
見逃せないのは、ファン以外の人々にも、関ジャニ∞の団結力や、各メンバーの誠実な人間性が伝わったこと。これは「本人たちの口から真実や本音を語らせて、被害を最小限にとどめる」というクライシスコミュニケーション(危機管理広報)の基本です。
それと同時に、「この会見をピンチからチャンスに変えよう。リスタートの第一歩にしよう」という意識が見えました。渋谷さんの契約が今年12月まで残っているにもかかわらず、7月からの5大ドームツアーに参加しないのは、「お別れ公演をするより、早くリスタートしたほうが、お互いに成功できる」というポジティブな姿勢の表れでしょう。
過去にSMAPや、ももいろクローバーZなど、「メンバーの脱退をステップアップにつなげ、お互いに夢をかなえて美談になった」というケースもあるだけに、「これを機に関ジャニ∞をステップアップさせるんだ」というマネジメントがスピーディに採用されたのです。
さらに、渋谷さんをはじめとする関ジャニ∞のメンバーが、自分の言葉ではっきりと語ったほか、記者たちの質問にも答えたことで、憶測記事をシャットアウト。思えばSMAPの解散騒動では、連日さまざまな角度から真偽の定かではない記事が飛び交う無法状態でした。
けっきょく一昨年末の解散時にも会見を開かなかったことで憶測記事は続き、ジャニーズ事務所の印象は悪化する一方。その後も、各タレントの恋愛や結婚、「テレビ局や他の芸能事務所に対する圧力」など真偽不明の記事を書かれっぱなしでイメージダウンが続いていました。ここに来てようやく、そんな苦い教訓が生かされているのかもしれません。
今年に入ってから、限定的ではあるものの、ネット上における写真使用が解禁されるなど、ジャニーズ事務所のマネジメントは、ようやくオープン路線に変わりはじめています。それだけに今回の会見を追い風に、さらなる情報のオープン化や風通しのいい組織であることを感じさせることで、イメージ回復につなげたいところでしょう。
「人生残り半分」で芽生えた自立心
もう一つ、異例の会見を開いたメリットは、ジャニーズ事務所のタレントたちが、世間に自立心をアピールできたこと。日本中の人々がSMAPの解散騒動を見て、「ジャニーズ事務所のタレントたちは徹底的に管理されている」「事務所の意向に沿わないと、同じような目に遭わされる」というイメージを抱いてきました。
なかでも関ジャニ∞は、仲のよさとノリのよさ、愛嬌や低姿勢で知られ、「ジャニーズ事務所の中でも従順そうなグループ」という印象が多数派。それだけに、「会見のような毅然とした振る舞いは意外だった」という人が多いようです。
村上信五さんは、「メンバーとしては嫌や。でも幼なじみとしては『頑張ってこい』と言うしかない」「つき合いが長い僕らにしてみると、尊重する以外の何物でもない」「一度も揉めることがなければ、『何やねん』と憤ることも何一つなかった」と、男らしく言い切りました。
横山裕さんは、「『今日という日が本当に来ないでほしい』という思いでいっぱいでした」と涙ぐみながらも、「すばるには厳しい道が待っている。僕たちもすばるに負けないよう全力で突っ走っていくので、これからもよろしくお願いします」と、今後の決意をきっぱり。
丸山隆平さんも「みんなで向き合って出た結果だから前向きに考えて進みたい」と語ったように、それぞれのメンバーが、関ジャニ∞らしい仲のよさを漂わせつつも、信念の強さを感じさせる言葉を放ったのです。
これまでジャニーズ事務所のタレントたちは、「騒動があっても口をつぐみ、ひたすらアイドルとしての立場を全うする」というスタンスを求められてきました。しかし、渋谷さんが「36歳という年齢を迎え、人生残り半分と考えた」と話していたように、それを聞いた他のメンバーたちも、自分の人生とあらためて向き合い、自立心が芽生えていたのではないでしょうか。それが会見中の振る舞いに表れていたのです。
先輩の多様な生き方を目の当たりに
ジャニーズ事務所のタレントたちは、近年先輩たちのさまざまな人生と、その選択を目の当たりにしてきました。
一昨年末にSMAPが解散し、昨秋に稲垣吾郎さん、草なぎ剛さん、香取慎吾さんが退社。V6の長野博さんが一昨年秋に、岡田准一さんが昨年末に、森田剛さんが今年春に結婚。一昨年秋にTOKIOの国分太一さんに第一子誕生。
その一方で、40代になっても独身を貫き、アイドル活動している先輩もいます。30代半ばから40代に向かう関ジャニ∞のメンバーは、どんな心境でこれらを見てきたのでしょうか。
その点、今回の会見は、「自分の人生を事務所まかせにしない」という姿勢が見えました。「会見しない」という事務所のカラーではなく、「全員が一人一人の言葉で伝える」という自分たちのカラーを優先したように見えたのです。
先日、中居正広さんが自身のラジオ番組で、新しい地図(稲垣さん、草なぎさん、香取さん)の楽曲を流し、「これは売れないな」と愛情たっぷりのコメントをするひと幕がありました。岡田さんと森田さんが離婚歴のある女性と結婚したこと、二宮和也さんに同じ女性との2度目の熱愛報道があったことなど、かつてなかった状況が続いています。
もしこれらが自立心の表れによるものなら、今後もジャニーズ事務所のタレントによる結婚や退所の発表が見られるかもしれません。事務所サイドは、それに対応すべく、これまでとは異なる柔軟なマネジメントが求められていくでしょう。
今後は渋谷すばると関ジャニ∞が競合相手に
今回の主役である渋谷さんに話を戻すと、「自分の人生を懸けたい」と語っていたように、音楽と向き合う姿勢は並々ならぬものがあります。
ただ、ビジネスである以上、ジャニーズ事務所が競合相手となる渋谷さんの音楽活動を妨害しないとも限りません。無情に思うかもしれませんが、これは「ビジネスパーソンが同業界で独立したとき、辞めた会社から横やりが入る」という状況と同じであり、珍しいことではないのです。
しかし、ネットの発達でタレントは衆人環視のもとに芸能活動できるようになりました。もし元所属事務所の妨害がわかったら、ファンはもちろんのこと、不特定多数の第三者が批判の声をあげてフォローしてくれるのです。応援や批判の声が可視化された時代だからこそ、タレントたちが「頑張れば何とかなるかもしれない」という勇気を得やすくなっているのは間違いないでしょう。
また、第三者の目線として見逃せないのは、「ジャニーズ事務所を退所した稲垣さん、草なぎさん、香取さんのほうが、残留した2人よりも自分のやりたいことをやっていて生き生きとした姿に見える」というイメージ。
決して渋谷さんがその姿に影響されたということではありませんが、一般層の目にそう見えることで、所属タレントたちの頭に「グループ脱退」「事務所を退所」という選択肢がよぎりはじめてしまうのです。事務所としては、早期のイメージ回復を図るとともに、新たなスターを作っていくマネジメントが必要でしょう。
その意味で、「脱退した渋谷さんのほうが充実している。幸せそうに見える」と思われないために、関ジャニ∞のメンバーたちは必死で頑張るはず。その頑張りを見たファンもサポート意識を強めることが予想されますし、むしろグループは今まで以上に発展する可能性を秘めているのです。
最後にふれておきたいのは、メディアの報じ方。ほとんどのメディアがトップニュース級の扱いで、渋谷さんを肯定し、関ジャニ∞のメンバーを称賛する形で報じていました。これ自体はまったく問題ないのですが、もう一つのニュースがメディアの問題を否応なしに浮き上がらせていたのです。
それは、大杉漣さんのお別れ会に関するニュース。ここで草なぎ剛さんが参列者の代表として、「僕はやっぱりまた漣さんとお芝居したいです」と声を震わせながら弔辞を読み、すすり泣きする人がいるほどでしたが、そのことを報じたワイドショーは、ほぼありませんでした。
代わりに流されていたのは、大杉さんとの共演歴がより少ない村上信五さんのコメント。これを見た人々はネット上に、「ジャニーズ事務所への忖度にもほどがある」「漣さんにも失礼」などと不満の声をあげていきました。
まだまだ続くテレビ局の忖度
これまで、3月のパラ駅伝イベント、映画『クソ野郎と美しき世界』、楽曲「雨上がりのステップ」なども報じられませんでしたが、今回もスルーされたことで、ワイドショーを放送するテレビ局への不信感はたまる一方。もはや、「健全ではないフィルター機能が働いていることを知らない人のほうが少ない」と言える状態に突入した感すらあります。
そろそろジャニーズ事務所も、「テレビ局がやっていることだから」「ウチが要求するということはない」というスタンスではなく、自ら「忖度はいらない」という姿勢を見せなければ、その企業イメージは共倒れになってしまいかねません。
私が知る限り、両者ともこれまでの商慣習を継続しているだけで、ほとんど悪気はないでしょう。しかし、現在メディアと芸能事務所に最も求められている「消費者ファースト」の精神からは大きくかけ離れています。
ポイントとなるのは、消費者に「B to B(企業間取引)よりB to C(企業対消費者間取引)重視」という姿勢をどこまで感じさせられるのか? 少なくとも現場の社員やタレントにはその姿勢はあるだけに、上層部の姿勢こそ問われているのです。
「忖度が多く、フィルターにかけられた情報を流す」テレビと、「憶測記事や誤報も多く、玉石混交」のネット。ほどよいものがないところに、もどかしさを感じますが、それらを見る私たちは、正しい情報を見極める目を持ちたいものです。
木村 隆志(きむら たかし)◎コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者 テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。