4月20日に自民党の長尾たかし議員がツイッターでつぶやいたコメントが物議を醸した。
「セクハラはあってはなりません。こちらの方々は、少なくとも私にとって、セクハラとは縁遠い方々です。私は皆さんに、絶対セクハラは致しませんことを、宣言致します!」
と発言した。そのツイートには、女性を含む野党の議員が黒い服を着込み「#Me Too」(本来の正式な表記は#MeToo)のプラカードを掲げている画像が3枚アップされていた。
長尾氏のこの発言こそがセクハラに当たるとネットユーザーの批判が殺到。一方、長尾議員は、
「この方々ヘは、セクハラをしませんと宣言することが、セクハラになる時代なのでしょうか?」
「しないということがセクハラ? まったく理解できません。しません、致しません」(原文ママ)
と反論したが、バイアスをかけずに読んでも、セクハラと受け取られても仕方がなかった発言であり、さらに炎上した。長尾氏はツイッターの投稿を削除するとともに、自身のブログで「お詫びと真意」とのタイトルで記事を配信して弁明している。
この手のセクハラ発言は昔からよくある。電車での痴漢被害に対し反対している女性がいると、
「お前なんか触らねえよ、ブス(ババア)」
「自分が痴漢されると思ってるのか!! 鏡みろよ」
などと言って、相手を傷つける。もちろんセクハラだ。長尾氏の発言はここまで極端ではないが、現職議員の発言としてはありえなかっただろう。
男性にMeTooと言われても困惑する?
そしてもう1つ気になった発言が、彼が上記ツイートの後にした、
「男性がMe Tooと掲げられている事に注目してしまいます。私は、致しません」
「~略~ そして、男性にMe Tooと言われてもと、困惑します」
という発言だった。
#MeToo運動とは、SNSを通してセクシャルハラスメントの被害を告白、共有する運動だ。女性のみの運動だとは言われていない。
というか、そもそもそこで男女を分けてしまったら、それこそ性差別的になってしまう。
こう書くと、
「実際問題として男性がセクハラのターゲットになるケースは極めて少ない。セクハラを話題にする時は、女性にしぼるべきだろう」
と反論を受けるかもしれない。
男性がセクハラを受けるケースはないのか、聞き込み調査をしてみた。
男性から男性に対するセクハラ
まずは、会社内、店舗内で上司、先輩男性から部下、後輩男性にセクハラするケースを聞いた。
「ことあるごとに女性経験がないことをからかわれます。女性の前で『こいつ童貞だから』とわざわざ言ったり、僕が何か意見するたびに『童貞っぽい意見だな』などと馬鹿にされることがしばしばあります」(30代男性)
性行為の経験に絡んでマウンティングを取ろうとする男性は少なくないようだ。特に、性経験がない人はイジメられる。
またまったく逆のセクハラをされた人もいた。
「僕は若い頃、スカウトマンをしていたんです。女性に声をかけて風俗店に入店させる仕事です。きっぱりと足を洗って、まったく違う会社に入社したのですが、過去を知っている上司が『こいつは女の敵だから』などと言いふらし、仕事が非常にやりづらかったですね。結局会社は退社しました」(30代男性)
これに、似たようなセクハラでは、男性器にかかわることでからかわれたという意見も多かった。女性の前でそれを言われたという人も多い。言われている本人は傷ついていないふりをする場合が多いが(むしろ楽しそうにする人もいる)、内心は非常に不愉快な思いをしているケースも多いようだ。
また以下のようなセクハラも耳にした。
「当時僕は大手製造業の会社に勤めていたのですが、昼休みや仕事後に社員同士で連れ立って風俗に行くことが当たり前でした。ことあるごとに誘われたのですが、いずれも断っていると仲間はずれにされるようになりました。『あいつはゲイだから』と陰口を叩かれました」(40代男性)
先の話題と少しかぶるが、女性経験のない男性が、風俗店に行くよう勧められるケースもあるようだ。勧めた側の男性は「良いアドバイスをした」と思っていることすらある。
「『お前には自己啓発が必要だ』と言われて、駅前やバーでナンパをさせられた」
「女性としゃべる時に緊張していては仕事にならないと言われ、キャバクラに連れて行かれて、延々と話をさせられた」
という話も聞いた。
やはりセクハラをしている側には罪悪感は乏しい。むしろ「教育してやってる」と思っている。大きなお世話だろう。
「20代の頃、他業種の年配の人たちと飲みに行きました。終電がなくなるので帰ろうとすると『帰りたいならキスをしろ』と言われました。断ったのですが、あまりにしつこくて結局キスして帰りました。それ以来、かなり長い間、そういう人たちに対して差別的な感情を持っていました」(40代男性)
被害者が加害者と同じカテゴリーの人たち全体に差別的な感情を持つことはある。加害者はセクハラをする時に、自分の仲間も傷つけていると思ったほうが良いだろう。
女性から男性に対するセクハラ
女性から男性に対するセクハラが、男性から女性に対するセクハラよりも数が少ないのは「女性が男性の上司になるケースが逆の場合に比べて少ない」「女性は男性に腕力が劣る」という理由がある。
ただし、女性から男性に対するセクハラももちろん存在していた。被害にあっても、
「男がそんなことでグズグズ言っているんじゃない」
などと、そもそもセクハラだと思ってもらえない場合が多いのも問題だ。
「僕のいる部署は男が僕だけで、他は40代、50代の女性なんです。子ども扱いというか、なめた扱いをしてくるんですよ。まず容姿を『かわいい』って言われるのがすごく嫌なんですが、否定するのも難しいんです。仕事で失敗すると、
『こんなこともできないの? 取り柄は顔だけ?』『顔だけで世の中渡っていけるのは、若いうちだけだからね』などと言われます。一応顔は褒めてもらっているので文句は言いづらいんですが、正直気分は悪いですね」(30代男性)
若い部下ができると、ついセクハラ的な言動をしてしまう女性上司もいるようだ。女性から男性に対するセクハラでも、性経験がないことをいたぶるものは多かった。
「バレンタインデーやクリスマスの日に限ってわざわざ『今日の夜はどうやって過ごすの?』とか聞いてくるんですよ。素知らぬ顔をしますけど傷つきますよね」(20代男性)
また、「どうして風俗に行かないんですか?」などとあけすけに聞いたり、わざと彼氏とラブホテルに行った話などをされたという話も聞いた。聞こえよがしに「童貞って気持ち悪いよね」と言われたという報告もあった。
“いじる側”はほんの遊びのつもりでも、“いじられる側”は深く傷ついていることはよくある。
話を聞いた中には、セクハラにならないよう非常にセンシティブに言動を選んでいる女性もいた。
「たとえば生理の話をしたりするだけで、すごい動揺する新人男性社員もいます。ポケットティッシュを渡したら、すごく憤慨されたこともあるのですが、理由を聞くと『ティッシュに風俗の広告が入っていた』と。人によって腹の立つポイントは全然違うので難しいですね」
女性から男性へ性的関係の強要もある
このような繊細な対応もある一方、「男性が女性にする代表的なセクハラ」をまったく逆にしたセクハラも多く耳にした。立場を使った性的関係の強要である。
「大学時代、広告会社でバイトをしていたのですが、夜遅くなるとマネジャー(女性上司)が家までタクシーで送ってくれるようになりました。ある日、家までついてきて、なし崩し的に肉体関係になりました。『断ったらどうなるかわかってるよね?』という脅しもあり、たびたび関係を持ちました。
最終的には当時付き合っていた彼女と自宅でバッティングしてケンカになり、彼女とは別れ、アルバイトも辞めました。卒業したら正社員にならないか、と誘われていた会社だったんですが……」(30代男性)
ほかにも真偽のほどは定かではないが、マスコミ関係の業界を中心に似たような話をいくつも聞いた。少し探っただけで、非常にたくさんのセクハラ経験談、目撃談が出てきた。
男性も同性や女性からセクハラの対象になるケースは間違いなくあるのだ。男性が自らの経験を語ったり共有したりすることや、#MeTooの活動に興味を持つことは決して間違ったことではない。
村田 らむ(むらた らむ)◎ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター 1972年生まれ。キャリアは20年超。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海などへの潜入取材を得意としている。著書に『ホームレス大博覧会』(鹿砦社)、『ホームレス大図鑑』(竹書房)など。