お笑いコンビ『カラテカ』の矢部太郎が『第22回 手塚治虫文化賞 短編賞』を受賞した。お笑い芸人が、また漫画家以外の人が、この賞を受賞するのは初のことだそう。
彼はこれまで、お笑い芸人に対して与えられる賞を受賞したことがなく、人生初の快挙となった。
受賞作品は、漫画家デビュー作の『大家さんと僕』。新宿のはずれにある一軒家の2階に下宿している矢部と、階下に住む高齢の大家さんとの交流を描き綴った“ノンフィクション”漫画だ。
二人のなにげない会話や触れ合いが、ソフトなタッチで描かれていて、時がゆっくりと流れていくようなハートフルな漫画に引き込まれたファンは多い。それゆえ、昨年10月に発売された単行本は、あっという間に21万部を突破してベストセラーとなった。
『週刊新潮』での連載も始まっているが、同誌でストーリー漫画が連載されるのは1956年以来、62年ぶりになるという。
『カラテカ』といえば、相方・入江慎也の活躍が目立ち、矢部はその陰に隠れてしまっている感があるが、隠れた才能の持ち主でもある。
父親が絵本作家のやべみつのりさんで、東京学芸大学教育学部に在籍したことも(除籍)。しかも彼、'07年に気象予報士の資格も取得している。また『語学の脳みそー11ヵ月で4ヵ国語をマスターした僕の語学のツボ』という教養系の本も書いており、漫画以外に雑誌の連載もいくつか持っている。
もはやただのお笑い芸人とはいえない。
佐々木氏と矢部氏の出会い
いまから10年ほど前のことだが、私が東京・汐留付近を歩いていたら、矢部くんと出くわした。顔見知りでもあったため、そんな場所で何をしているのか聞いたところ、
「お金を集めなくてはいけなくて、通行人の似顔絵を描いて、買ってもらってるんです」
と言う。せっかくなので1枚書いてもらうことにした。
色紙に描いてもらった絵は、お世辞にも上手いとは言えなかったが(失礼)、どこか味のある絵で、いまでも大切に、机の引き出しにしまってある。
当時の絵と、いま彼が描いている漫画を見くらべてみると、さすがに腕をあげた感じはするが、ペーソスを含んだ温かみのある作風は変わっていないようだ(後日、本人に聞いたら似顔絵描きは番組の企画だったそうだ)。
そのマルチな才能には目を見張るばかりだが、『大家さんと僕』の交流が今後どんな風に展開していくのか興味深い。
ところで、コンビ名の『カラテカ』だが、ファミコンソフト『カラテカ』に由来するらしい。ある日、私が某空手流派の道場に出稽古に出かけると、知人に連れられた矢部くんに遭遇したこともあった。なんでも、彼は小学生のときに極真空手を学んでいたのだそう。『カラテカ』は『空手家』でもあったのだ。
そのとき矢部くんが使っていた道着は小学6年生のときのものだという。これもまた驚きだった。
<芸能ジャーナリスト・佐々木博之>
◎元フライデー記者。現在も週刊誌等で取材活動を続けており、テレビ・ラジオ番組などでコメンテーターとしても活躍中。
*一部、事実と異なる内容を掲載していたため記事内容を修正しました('18年4月28日23時10分)。