「警察の方から聞きましたけど、妹が発見されたとき(5月3日)は鼻血が出ていて、布団にくるまって泣いていたそうです。その日、警察署に行きマジックミラー越しに本人確認をしただけで、まだ妹に直接会えていません。少しやせていましたが、無事見つかってよかったなと思います」
そう安堵の表情を浮かべるのは被害女性の姉だ。妹の現状を、次のように伝える。
「今は警察の方が妹を安全なところに保護してくださっているので、まだ何が起こったのか(詳細が)わからないというのが実感です。妹は精神状態が安定してなくて、男の人が怖くなったみたいで……。取り調べも、女性警察官が担当されていると聞いています。精神的にも相当なダメージを受けたんでしょうね」
「また家出か」
事件は昨年夏、島根県浜田市で起きた。当時、19歳だった被害女性は、姉とのケンカが原因で家出。7月14日の出来事を姉が明かす。
「私と妹はよくケンカをしていて、そのたびに妹は家出をするんです。学校の先生と夜遅くまで探し回ったりすることが頻繁にあったんですよ。その日の昼間、警察から連絡があって、妹が友達からお金を盗ったみたいだって。そのことを問い詰めたんです。そしたら出て行ってしまった。
また家出かという思いもあったし、お金を盗ったのは事実なのかなって思ったこともあり、正直、あまり心配していませんでした。だから届けを出すのが遅れたんです」
妹が行方不明になってから1か月半後の昨年9月1日。家族はやっと行方不明届を提出した。その経緯は、捜査関係者が詳しい。
「日常生活に問題はないようですが、被害女性には軽度の知的障害があります。昨年8月1日に、女性を支援する市の職員が自宅に帰っていないことを把握し、警察へ通報。家を飛び出した直後の7月22日に被害女性の弟と友人が、市内の神楽の会場で被害女性を見かけて“帰ろう”と声をかけたが応じなかった。
家族は“友人の家にいる”などと話していましたが、あまりに期間が長いため、警察が家族を説得し行方不明届を出すに至ったという流れです」
それから約9か月たった今年5月3日夕方、近隣住民から「女の子の泣き声がする」との通報があって警察官が駆けつけ、容疑者のアパートで泣いていた女性を保護した。
県警浜田署は翌4日、未成年者誘拐の疑いで無職・佐々本薫容疑者(72)を逮捕した。
発見現場は、JR浜田駅から南西に約2キロの住宅街。被害女性の自宅から約100メートル、徒歩2分ほどのところに、容疑者が暮らすアパートがある。
「(容疑者が)ここに住んで10年くらいですかね。家賃の滞納やトラブルなどもなかったですよ。女の子が住んでいたってのは知らなかった」とアパートの家主。6畳ひと間風呂なしで家賃は2万円。
「誘拐したつもりはない」
丸刈りで色黒、がっちりした体格で自転車で釣りや山菜取りに出かけていたという。
「釣れたからって魚を持ってきてくれたりしてね。一見すると強面なんやけど、さっぱりしたいい人でしたよ」
と同じアパートに住む40代の女性は証言する。
昨年7月末ごろには、「静かにしろ」「言うことを聞け」と怒鳴る容疑者の声、「叩かないで、やめて、離して」と叫ぶ女性の声を聞いた同じアパートの住人がいた。
「翌朝会ったときに“おっちゃん、どうしたん?”って聞いたんですよ。すると“親戚の子を預かった。暴れて言うことを聞かんで困ってるんや。だからしつけをしとる”って」
いったんは静かになったが今年2月ごろからケンカのような音や女性の泣く声を再び聞くようになったという。
今年4月14日、25日と立て続けに近隣住民から「男女が大声で話す声がうるさい」などと通報が入った。警察官が現場に到着するころには騒ぎはおさまっており、警察官の質問に容疑者は2度とも「知らないよ」と答えたという。
だが周囲は「もうしませんから許してください」と泣きながら何度も懇願する女性の声や、小学校低学年の女の子のような泣き声を聞いた人も。
「容疑者は逮捕直前は寝てないようで疲れとる感じやったね」(同じアパートの住人)
その後、無事発見に至るが、前出・捜査関係者は、
「監禁されていた様子はなく、目立った外傷はない。容疑者も“誘拐したつもりはない”と容疑を否認しています」
古参住民は、こう推測する。
「誘拐されたという女の子の家は、多いときで11人が住んどった。生活も苦しかったはず。警察から聞いたけど、逃げようと思えば逃げられたって。家に帰るよりごはんが食べられたのかもしれんね」
とはいえ、容疑者の逮捕容疑に前出・姉は納得できない。
「閉じ込められていたわけではないので、これ以上の罪は難しいと警察に聞きました。ただ家族としては、親告罪とされる未成年者誘拐で告訴をする方向で考えています」
容疑者はどんな思いで10代の少女と暮らしていたのか。