シルク 撮影/山田智絵

相方のミヤコは私にとって身体半分くらいの存在。嫌いなところがひとつもないくらい気が合っていました。幼稚園から小中高大と一緒の大親友ですから。

 私は卒業後、教師になるのが決まっていたんだけど、あの子が“吉本新喜劇で女優をやろうかな”と言い出したので、ここで道が別々になるのは嫌だなと。私から“漫才だったら2人でできるよ”と誘ったんです」

突然すぎる相方の死

 うわさ年齢60歳とは思えない美しい肌と、艶やかな笑顔を維持し続けているシルク。多くの女性から支持を集め、“よしもとの美容番長”としても知られているが、かつては漫才コンビ『非常階段』として上方漫才大賞や花王名人大賞の新人賞を受賞。将来を嘱望される漫才師だった─。

「劇場でも“姉さん”と呼ばれ始め、レギュラーの番組も5、6本やらせてもらって。これからもずっと漫才をやって生きていくんだな……と信じ切っていたとき、相方の肺がんが発覚したんです」

 進行は早く、告知から半年後、ミヤコは37歳という若さで逝ってしまう。

「私は遅くまで遊んで、寝る前にポテトチップスを食べるような不規則な生活だったんです。でも、相方はベジタリアンで健康に気を遣い、規則正しい生活を送っていたんですよ。

 もちろん、タバコも吸いませんでした。それなのに、なぜ30代半ばで肺がんになったんだろう、もっと気遣うことができたんじゃないかと自分を責めました。

 よくラーメンを食べに連れていってしまったと後悔したり、隣でタバコをパカパカ吸いまくっていた男性たちを恨んだり。そうやって原因探しをしないと、気持ちの持っていきようがなかったんだと思います

 相方を失ったショックから、彼女は家に引きこもるようになってしまった。

「起きているときは、ただ部屋の片隅に座っていたみたいで。そのころの記憶があまりないんですよ。仕事は休み、親に助けてもらいながら何とか生きていた感じです」

 相方が亡くなってから、毎夜ある夢を見るようになった。

「夢の中ではミヤコが生きていて、いつ世間に“実は生きています!”と公表しようかと相談しているんです。でも、起きたら私、ひとりなんですよね。目覚めるたびにまた落ち込んで、その気持ちをどこに持っていけばいいのかわからない。

 “苦しい”“悩んでいる”と周囲に言えればよかったんでしょうけど、お笑い芸人なのでそういう面を外に出してはいけないと思っていたんですね

 こうした心労が原因か、顔の片側が顔面神経麻痺に。カウンセラーからは“環境を変えるのが一番”とアドバイスされ、会社のすすめもあり、休養をとることに。

美容にはまるで興味がなく、笑いをとることだけを考えていた20代

ピラティスが絶望から救ってくれた

 行き先はニューヨーク。大阪外国語大学出身の彼女にとって憧れの街だった。

「ニューヨークにはたまたま知人がいたので、その部屋に居候させてもらう形で、10か月滞在しました。とにかく何もすることがないですし、お金もありません。まずは人生最高に太ってしまったので、やせようと思いセントラルパークを走り始めました。

 そしたら、マドンナやロビン・ウィリアムズがボディガードと一緒に走っているんですね! ニューヨークはすごいなって。驚いたし、楽しさも感じたし、徐々に気持ちが変わっていったんです」

 この滞在が、美容の世界に入っていくきっかけとなった。

「ある日、街角で顔の体操をするレッスンに無料参加できるというチラシを受け取ったんです。“どんなものか行ってみよう、タダやし”と(笑)。当時は薬を飲んで顔がピクピクする症状を抑えていました。

 それがレッスンを受け、今まで意識していなかった顔の筋肉を動かすようにしたら、ピクピクが止まったんです。“神経って筋肉と連動しているんやー!”って気づかされました。ここから身体と健康、美容に興味を持つようになって、勉強し始めたんです

 その後、ラジオのオーディションのため、帰国。大阪で仕事に復帰しながら、骨の仕組みと体幹を理解するために解剖学を独学で勉強した。その集大成としてピラティスに出会った。

自宅にあるピラティスのスタジオで、日々エクササイズ

ピラティスを本格的に勉強して7年、インストラクターの資格を取りました。さらなる高みを目指して、海外から機器を輸入。自宅の一角をジムスペースに改装したんです。

 そのときはもちろん、仕事に結びついていくなんて思ってなくて、病気になるのが嫌だという思いからでした。それがある番組で、お宅訪問の企画があり、チュートリアルの徳井くんが“姉さん、美容と健康の情報、みんなに言うてあげたほうがええんちゃいますか”と言ってくれて」

 すると、“吉本の芸人におかしな人がいる”と話題になっていった。

「藤井隆くんがラジオやテレビで言うてくれたりして。さらに徳井くんが“女性向けのイベントしはったら?”とアドバイスしてくれたんです」

 そして始めたのが、美容イベントの『べっぴん塾』。今年で11年目を迎える。女性たちに太らない、柔らかな身体を維持するシルク流エクササイズなどを伝授している。

『シルクのべっぴん塾 筋膜ゆるトレ』(ワニブックス)※記事の中の書影をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします

 もう漫才はできないという絶望的な状況から、美と健康への探究心で復活したシルク。“今の活躍を相方のミヤコもきっと見守ってくれています”と話す。

「不思議なもので命日の前の日は、夢にミヤコが出てきてくれます。前のように目覚めると切なくなるような内容ではなくて、向こうからいろいろ聞いてくるような感じで。

 きっと私の気持ちを代弁して聞いてくれているかな。1年に1回、楽しみにしています。

 だけど、“漫才、全然やっていないね。あなたが誘ったのに。しかも、結婚もせず独身で”って心配させてしまっているかも(笑)」

《取材・文/佐口賢作》


〈PROFILE〉
シルク◎テレビ、ラジオで活躍するほか、全国で女性限定の美容イベント『シルクのべっぴん塾』を開催。独自の美容メソッドは、幅広い年齢層の女性から絶大な信頼を得ている