ショッピングモールが乱立し、ネット通販にも押されぎみな地方の百貨店は、軒並み苦境に立たされている。そんななか、街の中心部にありながらも客足を奪われず、大地震を乗り越え地域とともに歩む百貨店がある。今年で創業66年を迎える『鶴屋百貨店』だ。
震災の1週間後から営業再開
2016年の熊本地震は、現社長が進める社内改革の真っただ中で起きた。同年2月期の決算で3年ぶりの増収、4年ぶりの増益。新たなチャレンジの成果が実り始めていた矢先、マグニチュード7・3の激震が襲った。
本館の一部の天井や壁にヒビが入り、店内は什器とともに商品が倒れるなど、悲惨な状態。業務部広報担当長の山下勝也さんは、こう振り返る。
「本館はとても営業ができる状態ではなかったのですが、隣にある東館は比較的新しく、まだ被害が少なかったんです。できる限りのことはやろうと、本震から1週間で、1部で営業再開するに至りました」
東館の通路などにワゴンやテーブルなどを並べ、一般商品や生鮮品以外の食品を販売。地元の人たちの協力を得て、弁当の販売も行った。
その後、本館建物の状況を確認し、フロアごとに再開へ向けた作業を進め、約2か月後の’16年6月1日に完全復旧を遂げる。
「まだ周辺の商店街のお店も8割以上が閉まっている状況でしたので、なんとか街の明かりを消さないためにも早く完全復旧しないと、という思いでした。本当に多くのお客様が来店されましたし、涙ぐんでいるお客様もいらっしゃいました」(山下さん、以下同)
また、オンラインストアで復興支援企画として『100%熊本百貨店』をスタートさせた。県外の人が県産品を買うと、購入金額の10%が益城町、南阿蘇村などの被災地に寄付される仕組み。寄付金の総額は、今年3月までに700万円以上を計上している。
折からのデパート不況に加えて、大地震に襲われながらも、鶴屋百貨店の新たなチャレンジは地元の人々の支持を得て、順調に実を結びつつある。
その代表例が『鶴屋ラララ大学』だ。これは、従業員が専門性を生かして講師を務める、いわばカルチャースクール。
「例えば、野菜がテーマでしたら、目利きの仕方や食べ方などをご提案させていただくなど、従業員が自分の担当売り場や仕事の専門知識を生かし、参加していただいたお客様に向けて、さまざまな講義を行います。ワインがテーマのものなど人気の講義は定例化していて、多くのお客様にご好評いただいております」
現在、講師は60名弱で、体系だててわかりやすく説明するため月に1〜2回研修を行うなど、勉強に余念がないそうだ。
家族に優しい売環境づくり
さらに、売り場も大きく改装した。本館は婦人服などを女性客が見て回りやすい配置に変更、子ども服や玩具のある6階は、売り場の一部が無料で遊べる『子どもの遊び場』になった。
「お母さまがお買い物の最中に、父子で遊ばれていたり、多くのご家族にご利用いただいております。売り場の面積は減りましたが、売り上げは変わらず伸びています」
幅広い取り組みにより、地元の人々のハートをつかんで離さない鶴屋百貨店だが、手放しで安泰とは言えない状況だ。
’19 年夏には市の中心街に日本最大級のバスターミナルを有する複合施設が誕生予定。またJR九州も’21 年の開業を目指し、駅ビル開発に合わせたまちづくりを発表するなど、熊本にはいま、再開発の波が押し寄せている。
「さまざまな変化があるかと思いますが、それにしっかり対応できるよう取り組んでおります。いい意味で形にとらわれないのが、会社の強みでもありますので、環境が変わっても愛され続ける地域1番店でありたいと思います」