ナイツ 様
今回、私が勝手に表彰するのは漫才師、ナイツのおふたりである。
5月5日放送のNHK Eテレ『SWITCHインタビュー達人達(たち)』で、フォークデュオ、ハンバート ハンバート(佐藤良成、佐野遊穂)がぜひ会いたいと指名したのが、ナイツ(塙宣之、土屋伸之)だった。
佐野遊穂は「地味だけど、地味じゃない存在になりたい。ナイツにはそんな共通点を感じる」と語った。
ナイツといえば、2008年『M-1グランプリ』でヤホー漫才を引っさげ舞台に立ち、その面白さは世の中に一気に広まった。
今や、賞レースで成績を残すと、テレビの仕事が増え、漫才師はタレントへと姿を変えていく。今は、それを芸人というくくりと定義している。
しかし、ナイツはその流れには乗らず、漫才師として生きている。浅草を拠点に、毎月15回近く舞台に立ち続けながら、テレビのネタ番組に出演。そのスタンスはブレず、ネタのクオリティは高く、いつ観ても面白い。
変わらないことの新鮮さ。まるで老舗の店が味を守り続けるような品質管理はどのように行われているのか?
お笑いブームの最中、ナイツはスピード感溢(あふ)れる漫才を選ばず浅草に身を寄せる。生の観客を笑わせることを選んだ。
多作が独創を生み出す
『SWITCHインタビュー達人達(たち)』で塙氏は、「うなぎのタレのように注ぎ足し注ぎ足してネタを作っている」と語っていた。
毎日、目の前の人を笑わせると、間がわかり、ネタの強弱がわかるのだ。
ネタに関しては塙氏が担当。一度、塙氏が書いた台本を、土屋氏がお客さんの目線でツッコみながら構築してゆくという。
塙氏の話を要約すると、
月に一度のライブや舞台に向けてネタを作っている若手がいるが、芸人を目指した以上、月に10本、20本ネタを作るのは当たり前。2人で顔を合わせ、一からネタを作っていたんじゃ、いつまで経っても完成しない。だから自分が先に台本を書く。そうすることによって多くのネタが量産できるという。浅草はそのネタを下ろせる実験室になるのだ。
と語っていた。
以前、若手芸人のネタを見るという仕事を私がやっていた時、若手たちは、週に一回、相方とネタの打ち合わせをすると言っていた。「それは何時間くらい?」と聞くと、「1〜2時間ですかね」と答えた。唖然(あぜん)とした。部活の中学生でももっと練習してるだろ。
「売れたいです!」と売れていない若手は目を輝かせ言う。この売れるの中にはどんな意味が含まれているのだろう。
自分の面白いと思うことを、漫才という表現でアウトプットする。自分の面白いと思うことを、漫才という表現ではないが、常に模索し続ける。これ以外のパターンで売れる場合、それは幸せなんだろうか。
多作が独創を生み出す。寄席でネタを下ろす時がワクワクする。目の前の人を笑わせる。
お客さんの反応が芸を育ててくれる。ナイツにとってライブが品質管理の源なのだ。
今日、あそこにいる人が腹を抱えて笑っていた。それが賞レースで勝つことより、嬉しい。それがナイツスタイルなのだ。
好きなミュージシャンの新曲が待ち遠しい、ライブが待ち遠しい、あのお店のあの味が相変わらず好きだ、あの落語は何度聞いても笑える〜そんな、常にお客さんファーストのナイツのブレない普遍性に憧れる。だからテレビはその雄姿を映す存在であってほしい。
<プロフィール>
樋口卓治(ひぐち・たくじ)
古舘プロジェクト所属。『中居正広の金曜のスマイルたちへ』『ぴったんこカン・カン』『Qさま!!』『池上彰のニュースそうだったのか!!』『日本人のおなまえっ!』などのバラエティー番組を手がける。また小説『ボクの妻と結婚してください。』を上梓し、2016年に織田裕二主演で映画化された。著書に『もう一度、お父さんと呼んでくれ。』『続・ボクの妻と結婚してください。』。最新刊は『ファミリーラブストーリー』(講談社文庫)。