巷にあふれ返った“健康常識”はウソ? ホント? 生きるうえでは切っても切り離せない「食」にまつわる都市伝説を、3人の医師らがQ&A形式でわかりやすく解説します。
低脂肪より低糖質のほうが健康にいい?
「これはウソ。たとえやせられたとしても、どちらも不健康になるリスクがあります」
そう指摘するのは、医学ジャーナリストの植田美津恵先生。米スタンフォード大学の研究では、低脂肪も低糖質も、同程度の体重を減らす効果があった。
ところが、ボストン大学の調査によると、糖質を減らすと心血管や慢性炎症が増加するリスクが。一方、脂質を減らすと、リバウンドしやすくメタボリック症候群にかかりやすくなるとか。
「糖質や脂質など、特定の栄養を極端に減らすのは、デメリットもあるということ。ダイエットに取り入れる場合は、家族に循環器系の病気にかかった人がいるなら低糖質はやめておくとか、メタボリック症候群がいるなら低脂肪はやめておくなど、遺伝や健康状態に合わせた方法がベストです」
揚げ物を食べるとうつになる?
これはホント。日本医科大学の研究によると、大企業に勤める人たちを対象に、日々の食事と精神状態の関係を調べたところ、揚げ物をよく食べている人ほどストレスへの耐性が低く、結果的にうつ病になりやすかった。
揚げ物を多くとると、魚などに含まれている脂質「オメガ3」と、揚げ物油などに多い脂質「オメガ6」のバランスが崩れ、うまく感情の調整ができなくなるおそれがあるためと考えられている。
「あるいは、身体に悪いとわかっているものばかり好んで食べてしまう人は、過剰なストレスがかかっていたり、もともと精神状態が悪かったりするのかもしれません」(植田先生)
赤ワインで心臓病が予防できる?
「日本人は生まれつきアルコールを分解する酵素を持っていない人が多く、飲酒によって食道や大腸、肝臓などのがんを発症しやすいことがわかっています。ですから、これはウソ」(植田先生、以下同)
赤ワインが健康にいいという噂は、そもそもフランス人が対象の研究で生まれたもの。肉やチーズなどの動物性脂肪をたくさんとっているにもかかわらず、心臓病による死亡率が低い。
その秘訣が、赤ワインに含まれる酵素・ポリフェノールと喧伝されて、多くの日本人が飛びついた。
「飲みすぎは健康に悪影響。水がわりにワインを飲んでいるようなフランス人とは体質が違います。ポリフェノールはお茶にも含まれていますし、日本人に合ったとり方をすることが心臓病予防につながるのでは?」
カルシウムをたくさんとると死亡率がUP?
「ホントです。とりすぎは死亡率を高めるといわれています」
そう指摘するのは、医師の稲島司先生。スウェーデンのウプサラ大学の研究によれば、1日に1400mg以上のカルシウムを摂取していた女性は、平均摂取量である600~1000mgの女性に比べて、死亡率が1・4倍も高かったという。
「原因ははっきりしていませんが、カルシウムをとりすぎることで血管にカルシウムがついて硬くなり、動脈硬化が進んだためと考えられています。
動脈硬化はコレステロールが沈着することで起こりますが、さらにカルシウムが沈着することで、より硬くもろい動脈になってしまうのです」
動脈硬化は心筋梗塞や脳卒中など、命にかかわる大病につながりかねない。
「厚労省がすすめる推奨量は女性650mg、男性700~800mg。これを目安に、とりすぎにはご注意を」
カルシウムをたくさんとると骨折を防げる?
「これはウソ。カルシウムを多く摂取すれば骨折を予防できるというデータはありません」(稲島先生)
カルシウムは骨の成分だけど、不足している一部の人を除けば、たくさん補充しても骨の強化にはつながらない。
「骨粗しょう症の可能性があれば受診がすすめられますが、予防としては骨に加重をかける運動をすると強くなります。関節に問題がなければ、早歩きでのウォーキングがオススメ。骨の強化だけでなく、時速5キロで歩くと健康寿命が延びるというデータもあります」
時速5キロとは、サラリーマンが都心の雑踏を歩く速さと同程度。1日20分、8000歩以上を目安にするのがベストだそう。
「女性は閉経後に骨がもろくなりやすいので、なるべく早いうちから習慣づけておくといいですね」
やっぱり朝ごはんには和食がベスト?
健康を考えたら、これはウソ。朝は、塩分をろ過する腎臓の動きが最も低下している時間帯。みそ汁に焼き魚、漬物と塩分の多くなりがちな和食は、実は朝食に不向きなのだ。
また、国立がん研究センターの調査では、日本の伝統的な食事をとっている人に比べて、肉類やパン、コーヒーなど欧米型の食事を好む人のほうが死亡率は低かったという。
「和食自体は悪くないと思いますよ。みそや漬物などの発酵食品は、大腸がんや胃がんのリスクを減らすという報告があります。反対に、ハムやベーコンなどの加工食品のとりすぎは、大腸がんのリスクを高めます。
減塩を心がけた和食をベースに、卵などを添えてタンパク質を強化した朝食がベストといえそうです」(前出・植田先生)
パスタにオイルたっぷりでも太らない?
糖質制限ブームのなか、ダイエットの敵とみなされているけれど、
「パスタは、パンなどほかの糖質とは事情が違うようです。だから、これはホント」(植田先生、以下同)
カナダの研究チームによれば、食事の際、炭水化物ではパスタだけを3か月にわたって食べ続けたグループを調査した結果、体重は増えていなかった。そればかりか、体重が平均0・5キロほど減っていたそう。
パスタは糖質の吸収が穏やかで、結果として、脂肪の合成を促すインスリンの過剰な分泌も抑えられるため、と考えられている。
「ダイエット法のひとつとして、たまに主食をパスタに置き換えるのがいいかもしれません」
さらに研究では、オリーブオイルをたっぷり使ったほうが血糖値の上昇を抑えられたとか。速水もこみちは正しかった!?
セレブも夢中! グルテンフリーは健康にいい?
トップモデルのミランダ・カーをはじめ、セレブがこぞって夢中の“グルテンフリー”。
これは、小麦や大麦、ライ麦などに含まれるタンパク質の一種・グルテンをとらない食事法のことで、健康や美容にいいと評判に。ミランダが言うなら、確かに効きそうな気が……。
「それはウソ。グルテンが引き起こす自己免疫疾患のセリアック病や、グルテンのアレルギーという人ならともかく、わざわざグルテンフリーを選ぶ必要はありません」
と植田先生。病気でもないのに穀物をとらなくなると、むしろ健康に悪影響が出るかもしれない。
食物繊維の摂取量が大きく減り、心臓や血管の病気にかかるリスクが高まるとイギリスの医学専門誌で報告されている。
「そもそもグルテンが原因という病気の人は、日本ではまだ多くないのです。特定の栄養素をカットしてしまう食事法は、健康の意味でも美容面でも、オススメしません」
肉を食べるなら赤身のステーキがベスト?
ステーキを食べるなら、霜降り肉より赤身の肉。値段が安いし、脂肪分が少ないから身体にもよさそう……。
「そうともいいきれません。赤身の肉は、肝臓の病気のリスクを高めるおそれがあります。ですから、これはウソ」(植田先生、以下同)
イスラエルの研究では、赤身の肉や加工肉を食べたグループは、そうでないグループに比べて非アルコール性脂肪肝疾患のリスクが高まったという。
「お酒を飲まないのにかかる肝臓の病気が、非アルコール性脂肪疾患です。赤身肉との関係は、人種の違いが影響している可能性もあるため、日本人を対象にした研究を待ちたいところ。また、加工肉に関しては、大腸がんとの関連性もあり塩分も多いので、控えたほうがいいでしょう」
またこの研究では、鶏肉や七面鳥、魚肉の摂取をすすめている。焼いたり揚げたりしないで、蒸す、煮る調理法がオススメだとか。
米を食べるから日本人は腸が長い?
脚が短いんじゃない、胴が長いだけ……。そんな自虐ジョークが出るほど、西洋人に比べて胴長短足の日本人。それは長年、消化に時間のかかる食物繊維が豊富な米を主食にしてきて腸が長いから、と解釈されてきた。でも、動かぬ証拠を突きつけられてしまった!
「ホントです。東洋人と西洋人の腸の長さに違いはありません」
と稲島先生。なんと測って調べた人がいるそうで。
「マニアックな研究者が腸の長さを詳細に調べたところ、東洋人と西洋人の間で差はありませんでした。そもそも日本人は消化がいい白米を食べているので、進化の過程で腸が長くなる必要がない。相対的に胴が長いから、腸も長いと思われていたのでしょうか(笑)」
腸や脚の長さにかかわらず、野菜や穀類をとることは、健康にとって重要です!
離乳食はできるだけ早く始めるほうがいい?
「これはホント。離乳食を早い時期から始めると、食物アレルギーが関連するアトピー性皮膚炎の発症リスクを抑えられるといわれています」
そう話すのは、皮膚科専門医の小川徹先生。
「魚や卵を早期から摂取すると、アトピー性皮膚炎の発症リスクを低下させる可能性があるとの研究がアレルギーの国際専門誌に報告されています。魚は生後9か月まで、卵は11か月までに食べさせるのがいいとか。
ただし、すでにアレルギーのあるお子さんには注意が必要ですので、必ず専門医に相談しましょう」
現在、アトピー性皮膚炎の患者数は45万6000人。このうち、子どもや若者は1割を占める。
「生後4〜6か月は母乳で育てる、離乳開始は早くても生後4か月以降とする、離乳食を遅らせないといったことが基本的に大切です」
朝イチのフルーツジュースは健康のもと?
“朝のフルーツは金”とはヨーロッパのことわざ。ジュースやスムージーにして取り入れる女性は多そうだけど、これはウソ。
米プリンストン大学の研究によって、果物に含まれる果糖の90%が小腸で処理されていることが明らかに。
朝、果糖の処理能力が弱まっている状態のところへフルーツジュースが流し込まれると、小腸は大量の果糖を代謝しなければならず、処理できなかった糖は肝臓へ回される。そのため肝臓に負担がかかり、肥満や糖尿病に進行するおそれがあるという。
「朝のジュースが悪いのではなく、果糖が多いジュースが悪影響を及ぼします。野菜が多いスムージーや果糖の量が少ないジュースは問題ないでしょう」(植田先生)
果糖は食事後に処理能力が上がるということ。フルーツジュースを飲むなら食後がベストといえそう。タイミングが重要なのだ。
塩分取りすぎにはカリウムをとればOK?
カリウムは塩分を体外へ排出する効果が。ということは、カリウムを多く含む食品をとれば、チャラにできる!?
「それはウソ。いったん体内に取り入れたものを、ほかの栄養素で打ち消すのは困難です。過剰な塩分をカリウムでなかったことにしようとするのは、無理があります」
と植田先生はバッサリ。最新の研究もそれを裏づけている。日本、中国、 イギリス、アメリカの国際共同研究チームの調査では、ナトリウムを含む80種類の栄養素の摂取データを解析したところ、ほかの栄養素を摂取しても、ナトリウムの血圧への影響は低下しなかった。
「罪滅ぼしは効かない、ということです。そもそも、塩分のとりすぎ自体が身体によくありません。高血圧や心臓病、脳卒中といった病気を招くおそれがあります」
ヒトが1日に必要な塩はひとつまみ?
「これはホント。1日1・5gが適量という研究もあります」
と稲島先生。1・5gとは、ひとつまみより少し多いぐらい。そればかりか、「塩は少なければ少ないほうがいい。とにかく減らすことです」と強調する。
「実は、肉や魚、野菜からもナトリウムをとっています。すべての生き物には細胞があり、その中にはナトリウムが含まれているからです。精製した塩をいっさいとらないアマゾン川流域に住むヤノマミ族でも、塩分にして1日3g相当のナトリウムを摂取していると言われています」
熱中症対策に塩分が必要といわれているけど?
「熱さ対策と水分の摂取を優先して、汗をかくときなどに塩分をとるようにしては? 熱中症対策と言いながら年中、塩分をとりすぎる人もいますが、それでは高血圧や動脈硬化などのリスクを高めます」
〈お話を伺ったのはこの3人〉
稲島 司先生
総合内科専門医、循環器専門医。地域医療連携にも取り組む。大量の文献を、ユーモアを交えながら紹介していく講演が好評。『世界の研究者が警鐘を鳴らす「健康に良い」はウソだらけ』(新星出版社)ほか著書多数
植田美津恵先生
医学博士、医学ジャーナリスト。愛知医科大学客員教授、東京通信大学准教授。各大学にて教壇に立つほか、医学番組の監修、テレビコメンテーター、講演活動を行う。近著に『忍者ダイエット』(サンドランチ)
小川 徹先生
皮膚科専門医。早稲田大学招聘研究員。元慶應義塾大学研究員。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校、英ロンドン大学セントトーマス病院などで国際的に活躍中。医学博士のほかMBA、公共政策の修士号を持つ