【連載・地下1回】皆さんは「地下芸人」という存在を知っているだろうか? 地下アイドルや地下格闘技という言葉があるように、お笑い界にもそんな言葉がある。彼らは、メディアに媚びることなく、ごく限られたテリトリーで、自作のネタを発信し続ける生き物だ。そんな地下芸人たちの生態を探るべく、企画した『地下芸人数珠繋ぎ』。第一回に御登場いただくのが『人志松本のすべらない話』で脚光を浴びた、チャンス大城さん。果たして彼の声は地上に届くのだろうか!?
吉本興業の会議室にて
<チャンス大城さんの地下スペック>
・年収:8万円(お笑いのみ、バイトいれずに)
・貯金:3654円
・座右の銘:いざ地上へ
・ライバル:ヘヴリスギョン岩月
――前回、出演されたフジテレビ『人志松本のすべらない話』で、お茶の間のド肝を抜くようなネタを披露されていましたが、現在の状況はどうですか?
チャンス大城「いやいや、まだまだですよ。今も、風呂なし共同トイレのボロアパートに住んでいますから(笑)。家賃は3万円です。しかも3部屋しかないんですが、僕しか住んでいないみたいなんですよ」
――まっ、まさか、いわくつきの物件なんですか!?
チャ「いや、普通のアパートなんですけど、なぜか入居者がいないんですよね」
――だから、それはいわくつきの物件なんじゃないですか? すみませんが、自宅に伺ってもいいですか?
チャ「えっ? 自宅? 今からですか?」
――後日でもOKですが。見られちゃまずいものでも?
チャ「そりゃあ、ありますよ。ひとつやふたつ」
――尚更、行きたいです! お願いします!
チャ「仕方ないですね、どうなっても知りませんよ……」
後日、地下芸人の潜む自宅へ
ということで、私はなかば強引にチャンス大城さんのお宅に訪問することとなった。
――これが、いわくきのアパートですか? この建物は築何年くらいなんで……。
(通行人と喋りだすチャンス大城)
ーーあれ? チャンスさん? 誰と喋ってんですか?
チャ「いやぁ、ここ、ボク住んでますねん」
――自宅を教えちゃ駄目でしょ!
チャ「大丈夫ですよ。盗むもんなんかないですから。あっそうだ、カメラさん、記念撮影してもらっていいですか?」
「じゃあまた、どうも」
――サービス精神旺盛ですね。自宅までは教えない方がいいと思うんですが。
チャ「まぁ、たまに声かけてもらえると嬉しくてね。それより、ここが下の定食屋さんで、この上に住んでるんですよ。さぁ行きましょう!」
――では、お邪魔します!
――え? いきなりどうしたんですか?
チャ「なんか、仲居さんみたいにもてなしたほがいいかと思いまして」
――ゴミ持ちながら、客をもてなすっておかしいでしょ。
「ゴミじゃないですよ! これ服ですから。ホームレスに寄付しているんですよ」
――そんな活動もされているんですね。ゴミ袋に入っていたので、てっきりゴミかと。しかし、ごみ袋が似合いますね。
チャ「まぁ、新宿の公園でホームレスに間違われて、ホームレスを支援するNPOのスタッフさんに、寝ているあいだに散髪されたこともあるくらいですから」
――よほど馴染んでいたんでしょうね(笑)。
チャ「でも、普通のアパートでしょ? 2階に3部屋あるんですけどね、住民は僕だけなんですよ」
――え? でも、この部屋、住んでる気配ありますが
チャ「よくぞ聞いてくれました。実は、最近ようやく人が引っ越したんですよ」
――そうなんですか!
チャ「しかも挨拶に来てくれた人がなんと、綾瀬はるかさん似の綺麗な女性だったんですよ!」
――女性で、しかも綾瀬はるかさん似ですか?
チャ「風呂なしの部屋に、こんな美人がくる? ってなって。これは、恋が始まると思うじゃないですか! 」
――いや、普通は来ないと思いますが……。お風呂ないんですよね。
チャ「いや、あることはあるんですよ、ほらっ! ここでこうやって、体洗えますから」
――そこキッチンですから! というか、いきなり自宅公開ですか? で、綾瀬はるかさんに似た女性の話は?
チャ「まぁいいじゃないですか。それで、はるかがね」
――はるかって!
チャ「『私、半年に一度くらいしか帰ってこないんですけど』って言うんですよ」
――半年に一度?
チャ「『隣の部屋を倉庫代わりに使わせてもらいます』って」
――倉庫ですか……。
チャ「お前、こっちが現役で借りている部屋を倉庫代わりに使うなやって怒りそうでしたよ」
――現役って(笑)。まぁ、仕方ないですよ。正直、女性は風呂なしは抵抗があるのでは……。
チャ「いや、お風呂はあるんですよ。ちゃんと、お風呂セットもありますし」
――ここ、台所ですから。ここは料理をする場所です(笑い)。
チャ「そうですか、住めば都なんですけどね」
――まぁ、住んじゃえばどこでも……ってチャンスさん、布団汚くないですか?
チャ「そうですか? みんなこんなもんじゃないですか?」
やっぱり汚い。布団の裏にカビ的なものがついているような……。
ーーチャンスさん、聞いてます?
――急に??
チャ「………」
(急に横になったと思いきや、15秒くらい無言に)
チャ「すみません、寝てましたわ。いびきしてませんでした?」
――15秒くらいしかたってないですから、さすがにいびきは聞こえませんでしたが。
チャ「僕ね、いびきがデカすぎて、隣の家から通報されたことあるんですよ」
――相当な大きさなんですね。
チャ「あんまりデカすぎて、女子大生を怒らせてしまったこともありました」
――それ、どんな状況だったんですか?
チャ「夜行バスでいびきかいちゃってね」
――バスは、やばそうですね。
チャ「僕の斜め後ろに座っていたその女子大生は、友だちと嬉しそうに会話していたんですよ。それで、僕が寝てしまって、しばらくしたら『おい!』って、声かけられたんですよ」
――誰にですか?
チャ「その女子大生にです。それで、“何ですか?』って聞いたら」
――まさか?
チャ「『殺すぞ!』って言われたんです」
――まっまぁ、一服して下さい。とりあえず、取材やりましょうか?
チャ「あっ、畳の上もなんですから、これ敷きましょう」
――この布団ですか………。
チャ「ここが一番リラックスできるんですよ」
――なんだか足元が痒いような気が……。しかし、布団汚いですね。
「まぁ、引っ越してきてから一度も干していないですから、仕方ないですよ」
――ちなみに、引っ越しされたのは?
チャ「5年前ですかね」
――5年も干していない………。
チャ「意外に、神経質なんですね」
アルバイト先は土木関係
気を取り直し、チャンスさんの自宅で、自前の布団の上でインタビューが始まったーー。
――チャンスさんといえば色んなアルバイトをされているそうですが、現在も?
チャ「もちろんやっていますよ。土木関係の日雇い仕事です。それで、この前の『すべらない話』に出た後に、現場の仕事があって朝礼の時に100人位の前で現場監督に『あれ? お前、昨日すべらない話に出ていたよな? 』って言われて」
――さすが『すべらない話』だけあって反響は大きいですね!
チャ「僕、この世界入ってから30年間、他人から一度も指差されたことなかったんですけど、初めてですよ。
ライブに行っても《どこのおっさんやねん? 》みたいな顔されてましたから。それから、ずっと現場で『すべらない』って呼ばれるようになったんです」
ーー変なプレッシャーですね。
チャ「だから、『おい、すべらない、そのスコップ取ってくれ』とか、『おい、すべらない、そこヌルヌルしているからすべるなよ、すべらない! 』とか言われたりね」
ーーそれに対してチャンスさんはどう反応したんですか?
チャ「口の方も職人ですね、と(笑)」
ーー他にも、『すべらない話』に出てから反響はありましたか?
チャ「それがね、僕が番組で話した『山に埋められた話』の登場人物の和田という奴から、オンエア後に連絡があったんですよ。しかも28年ぶりの会話です。“おい、まさか俺との話があの松本人志さんに聞いてもらうことになるとは思わなかったわ”って。和田には番組に出ることを言っていなかったんで」
――それは驚いたでしょうね。しかも、山に埋めらた話でしたから(笑)
チャ「あとね、学校でいじめられていた子が僕の話を聞いて、『勇気が出た』ってツイッターに書いてくれたり。それは嬉しかったですね」
――いい話ですね……、いやっ、ですからとんでもない話をくださいっ!?
チャ「あ、すみません。。これは、芸人になる前の話になりますけど、いいですか?」
チャンスはマジでやばいヤツ!
――ぜひ!!
チャ「中学生の頃、憧れのダウンタウンの松本さんの事が好きすぎて、実家に行ったことがあるんですよ」
――たしか、チャンスさんもダウンタウンさんと同じ尼崎出身ですよね?
チャ「そうなんです。それで、松本さんの実家を探し出して玄関の表札を見たら、松本父、母、兄、姉と、上から順番に名前があって、最後に『人志』と書いてあるんですよ! それを見た瞬間に“うわぁ~! 松本人志や”って感動して」
――それは、なりますよね!!
「それで気付いたら、表札を盗んでたんですよ。」
――それ、窃盗じゃないですか!! それ、どうしたんですか?
チャ「しばらくお守り代わりに持ってたんです」
―――返さなかったんですね!? まぁ、行いの是が非は抜きにして、その表札自体は相当な効力はありそうですけど………。ちなみに、何かご利益はありましたか?
チャ「それがね、3人しか落ちない高校に」
――まさか?
チャ「落ちたんですよ」
――自分のせいですよ! というか松本さんにも相当失礼ですよ。それで、その表札の事は結局内緒に?
チャ「いや、一緒になった時にお話ししたら、『お前か?』って言って笑っていましたけど」
――器が大きというか、笑うしかなかったんでしょうね。ちなみに、落ちた他の二名はどんな人だったんですか?
チャ「シンナーにやられていたそうです」
――そこに食い込むとは……。パンチの聞いた話ありがとうございます。他にもあればおかわりしていいでしょうか……?
チャ「僕、内臓が全て逆の位置になっているという話は結構テレビで話しているので、そこそこ世に知られているとは思うんですが、定時制高校の時に、創立60周年記念で生徒全員が風船に願いごとを書いて飛ばすというイベントがあったんです。
それで、僕は《内臓が逆についています。お友達になってください》って手紙をつけて、実家の電話番号を書いて飛ばしたんです。そしたら、3日後に8歳の女の子から実家に連絡があって」
―――その風船を拾ったんですね?
「そうなんですよ。しかも結構遠い場所で。それで、その子が僕の手紙を読んで実家に電話してきたんですよ。『お兄ちゃん、いついつにどこどこの駅で、会ってくれない』って。
僕に会いたいというんですよ。それで、その子と会うことになって、特急電車に乗って、こんな遠いとこまで風船飛んだんだなぁと思って行ったんです」
――なんかすごくいい話になってきましたね………。
「それで、その子が指定した駅で待っていたら、麦わら帽子をかぶったミッキーマウスのシャツを着た女の子が来たんです」
――いよいよ対面ですか。
チャ「それでその子が『あっ! お兄ちゃんだ、心臓触らせて』って言ったんで、『ここだよ、ほらっ』って触らせたら、『ほんとに、心臓が右にあるんだ』って驚いていていて。そしたら『私のも触って』って言うから、触ろうとしたら、逮捕されたんです」
―――?????????
チャ「逮捕」
―――どういうことですか?
チャ「誘拐と思われたんでしょうね、その子の親に。実は、その子が親に黙って知らない人と電話しているのを親が目撃していて、変なヤツが娘と電話をしているというようなことを警察に通報していたんです」
――その現場を張り込まれていたんですね!?
チャ「そうなんですよ。あれはえらい目にあいましたよ」
――誤解は解けたんですか?
チャ「もちろん、ちゃんと説明しましたよ」
――ごちそうさまです。チャンスさんならではの、さすがの経験ですね。ちなみに内臓逆位というのは私も知っていたんですが、生活にはまったく支障はないんですか?
チャ「ないですね。病気ではないので」
――初めて分かったのはいつなんですか?
「小学一年の健康診断です。医者が僕の胸に聴診器を当てながら“おかしいおかしい”と、両サイドにいた医者に診断を辞めさせて、集合をかけたんですよ。『ちょっと聞いてくれ』って。
それで、医者が僕のところに集まってきて、医者が医者に聴診器を聞かせているんですよ。なんかタワーレコードの視聴コーナーみたいになっているんです」
――なかなか見れない光景ですよね(笑)。
チャ「その時に、初めて内臓が逆ということを発見されたんですよ」
――それは医者も驚いたでしょうね。
チャ「だから、たまに病院の診察とかでそれを言い忘れていると心電図がピーってなって“ん? ”って医者がなるんです。『あ、言い忘れていました』って慌てて説明するんですよ」
――特に支障がないと自分では忘れていることってありますからね。チャンスさん、本日は貴重なお話を本当にありがとうございました。最後になんですが、聞いていいですか?
チャ「なんですか?」
―――あなたにとって地下芸人とは?
チャ「なんか、プロフェッショナルとは? みたいですね。うわぁ~何だろう。悩むな……。う~……ん」(この日初めて、頭を抱えて悩むチャンス大城さん)
―――初めて、言葉に詰まりましたね。
チャ「出ました! 30代後半以上。副業とかは一切やらない。テレビに出られないネタでも、やりたいものに情熱を掲げるヤツ。これかな」
今年4月から、あらたに『よしもとクリエイティブ・エージェンシー』所属となったチャンス大城さん。「地下芸人には自称芸人が多いんです」と話していたが、彼のように類まれな経験と不屈の精神で何度も起き上がれば、脚光を浴びるチャンスが来るかもしれないーー。
<ライター・新津勇樹>
◎元吉本新喜劇所属。芸人、役者時代の人脈を活かし、体当たり取材をモットーに既成概念にとらわれない、新しいジャーナリスト像を目指して日々飛び回る。