「昨年、晴(はると)が衰弱死した日に救急車を呼んだとき、オレも立ち会ったのよ。娘夫婦の自宅マンションは玄関を開けただけでもクサかった。なにしろゴミが20~30袋ある“ゴミ屋敷状態”だったし、子どもたちのオムツ、糞尿のツンと鼻をつくニオイもしたからね。
市の保健師さんは何度も家庭訪問してくれたそうだけれど、異変に気づかなかったなんて信じられない。他人のプライバシーを侵害すると思って、あえて口出ししなかったのかもしれないが、オレは正直に言ってほしかった。そうすれば晴も助かったはずなので、そこを怒ってるのよ」
娘のこと、少しでもわかってほしい
事件は昨年10月9日の午前10時ごろ、埼玉県桶川市のマンションで起きた。母親である山邊仁美容疑者(25)が、当時1歳1か月の三男・晴くんの意識がないことに気づき、父親で鳶職の山邊拳士郎容疑者(25)が「冷たくなっている」と119番通報。しかし、救急隊が到着したとき、晴くんはすでに死亡していた。
遺体には虐待を受けたような外傷はなかったが、体重が3・8キロと同年齢の標準体重の4割程度、身長も標準より15・8センチ低い60センチだった。同居の長男(4)、次男(3)の健康状態に問題はなかった。
県警捜査一課と上尾署の合同捜査班は慎重に捜査を進め、今年5月16日、満足な食事を与えないまま衰弱死させたとして保護責任者遺棄致死の疑いで両親を逮捕。両容疑者とも「子どもが泣いたらミルクを与えていたが、泣かなかったら与えていなかった」と容疑を認めているという。
週刊女性は、仁美容疑者の実父(55)にインタビュー取材を申し込み、約3時間にわたって事件の背景など夫婦間の詳細を聞いた(以下、カッコ内はすべて仁美容疑者の実父)
「ネットでは娘について『鬼畜』『鬼嫁』『同じ女性として許せない』などと書き込みがある。しかたのないことかもしれないけれど、父親のオレに言わせれば酷なのよ。仁美はかわいそうな子なの。少しでもわかってほしいと思って身内の恥をさらすことは百も承知でしゃべります」
仁美容疑者は東京都板橋区で3人姉妹の長女として生まれた。幼少時から病弱だった。身長150センチ、体重30キロ台と小柄すぎて通常分娩できず、3人の子どもは帝王切開で産んだ。持病の喘息と対人恐怖症の治療のため定期的に通院し、精神安定剤を服用している。
出会い系サイトで知り合い妊娠
「例えば、マンションの階段を子ども1人抱えて下りるのも大変で、喘息の発作が出てひっくり返っちゃう。頭が痛くなって嘔吐し、関節まで痛くなる。だから、部屋で横になっているのは日常茶飯事だった。そんな具合だから、子どもを連れて外出なんて無理。対人恐怖症もあるから、公園デビューしてママ友をつくることもできないわけよ」
8~9歳のころ、両親が離婚した。
実母はパチンコで消費者金融から数百万円借金するなどギャンブル依存症で、アルコール依存症でもあった。娘たちに万引きを強要し、包丁を向けたことも。
3姉妹は深刻な虐待を受けた。実父はそのころ事業に失敗し、持病の喘息と股関節痛が悪化。娘たちは施設に預けられた。
「仁美はその施設と学校でいじめに遭ってねぇ。母親からの虐待もあって対人恐怖症に陥ってしまったんです。仁美だけ施設から出し、一緒に車上生活を送った時期もあるんです。だから、あの子は高校へも行かせていないんですよ」
実父が娘たちを引き取って、一家が平常を取り戻したのは2011年。仁美容疑者は20歳になる前に出会い系サイトで拳士郎容疑者と知り合い、ほどなくして妊娠。実父に「結婚したい」と切り出した。
「まだ若すぎて不安はあったけど、2人がどうしてもというので認めたんです。拳士郎には、“仁美は普通の子じゃないんだぞ。覚悟はあるんだろうな”と言うと、”はい、(喘息で酸欠時の)吸入器は買いますし、全力でカバーしますから”と誓ったからね。
拳士郎の親も最初は反対したが、最終的にはやつの故郷・福岡県飯塚市で所帯を持つという条件で結婚を認めたんだ。仁美は知らない土地でやつだけが心の拠り所だった」
福岡の新婚生活。拳士郎容疑者は飽きやすく、仕事が長続きしなかった。4年前、当時1歳の長男と3人で桶川に転居し、拳士郎容疑者は便利屋業を経て鳶職人に。そのころ、仁美容疑者の実母が大量の薬とアルコールを飲んで自殺した。
「仁美は、オレに内緒で実母に会いに行っていたそうだからショックだったろう。それと拳士郎には借金が相当あってね。消費者金融や銀行からの借金、国民年金や住民税などの未納分、会社からの借金など月々の返済が大変だった」
夫が妹と肉体関係に
夫婦で万引きをして捕まり、1人50万円の罰金を納めたこともあったという。
「でもね、今度の事件は金銭的なことが原因じゃないとオレは思うのよ。実は事件の4~5か月前に、拳士郎がうちの次女、つまり仁美の実の妹と肉体関係を持ってさ。次女は軽度の知的障害者でね。見た目や話したぐらいではわからないけど、字を書かせたらわかるんだ。書けないから。
2人が同時に淋病になったので、仁美が不審に思って2人に問いただしたところ、2人とも白状したって。継続的なものではなくて1回きりだと。それも拳士郎が1人でいたところへ次女が遊びに来たときに誘ったみたいで。
もともとアイツは浮気者なのよ。結婚してからも。それを仁美はずっとオレに隠していたんだ。精神的に不安定なのでおかしいと思って強引に口を割らせたら、ようやく話してくれたわけよ。そんな娘の気持ちもわかってあげてほしい。旦那が自分の妹に手を出したんだから」
父親は生活保護を受けながら暮らしている。体調が思わしくない状況を仁美容疑者は知っている。
「オレは離婚をすすめたんだけど、“自分だけで子どもを抱えては生きていけないから、私が我慢するしかないんだ”と言っていました。心の奥底ではアイツを許しちゃいないと思うよ。
オレがこんな具合だから父親にも助けを求められず、母親にも、友達にも、誰にも話せず、ひとりで悶々としていたんだろう。かわいそうに(涙)。きちんと子育てできる心境じゃなかったんだろうね。
拳士郎は子育てには無関心で、家ではスマホをいじっているかゲームをしているか。いちばんの原因をつくったのはやっぱり拳士郎だからね」
両親の逮捕後、長男と次男は施設に入ったようだ。
「弁護士の話では、仁美はいま“私が代わりに死んでいればよかった”などと言って、晴のことをずっと後悔しているようです。拘置所では身につけることを許されていませんが、晴が亡くなって骨になってから逮捕されるまでずっと、その骨をペンダントに入れて身につけていました。
裁判になったら父親として目いっぱいこういった真実をあらいざらい証言したいと思っています。それで、仁美の罪が軽減されるかわかりませんが、せめて拳士郎よりも軽くなるようにしたい」