「日本一、社長を輩出している大学」がガタついている。発端は5月6日、日本大学アメリカンフットボール部(以下、日大アメフト部)がしでかした“組織的な違反行為”。関西学院大学との定期戦で、相手チームのQB選手を悪質な反則行為で負傷させた。
監督やコーチに追い詰められるまま、鉄砲玉のようにタックルを仕掛けた当事者、日大アメフト部の宮川泰介選手(20)は、ひとりで実名・顔出しの謝罪会見(22日)に臨み、
「監督、コーチからの指示があったとはいえ、僕がやってしまったことについては変わらないと思って、とても反省しています」「プレーに及ぶ前に、自分で正常な判断をするべきだったと思います」「判断できなかったのは自分の弱さ」
などと自らの非を全面的に認め、率直な反省を口にした。
理事長と連絡がつかない
テレビ画面を通し全国に伝わったその真摯な態度に、被害者の関学大側からも、
「勇気を出して真実を語ってくれたことには敬意を表したい。立派な態度だった」(鳥内秀晃監督)などとコメントが出るほどだった。
あべこべに「日大の恥ですよ」「みんなあきれ返っています」というOBの糾弾の声が示すように、内田正人監督(62=すでに辞任)と井上奨コーチ(30=辞意表明)のツーショット会見(23日)の評判は散々。
その場しのぎでしどろもどろのあきれた応対が情報番組などでオンエアされ続けた結果、全国に“日大の恥”をばらまくことに。
その裏側を、日大OBに聞くことができた。
「23日の会見は、実は理事長と学長でやる予定だった。ところが、大学側が田中(英寿)理事長と連絡がつかなくて、開けなくなったらしいよ。その後、急きょ監督とコーチで会見したからさ、そりゃあんな会見になるよね」
このような緊急時に理事長と連絡がつかない大学……。
日本大学大学院講師で弁護士の船山泰範さんは、両者の会見をこう解説する。
「宮川選手の態度は非常に誠実でした。反省して、可塑性(変化すること)に富む人物でした。若いからこそ、自分が悪いことをしたことにすぐ気づいて変わろうとする。弁護士の経験からも、非行少年が相当悪いことをやったと自覚したとき、ガラッとその人が変わることがあります。
一方、大人の場合は、残念ながらなかなか変わりにくい。どうやったら、(問題や質問を)かいくぐれるのかと、うそを少しずつ出していく。最終的にはバレてしまうんですけど」
会見をさらに悪印象にしたのは、司会役の広報担当者だ。記者の質問をさえぎり、会見の終盤を混乱させ、後味の悪いものにした。やたら高圧的で我を通した、その“キレる老人”の正体は─。
「元・共同通信社の記者で日大の広報に入った人らしい。あんなお粗末な司会進行をしましたが、給料は月に120万~130万円ももらっているという話です。田中理事長の奥さんのお気に入りで、広報に来たそうです」(前出OB)
単純計算しても年1440万円以上。もし臨時ボーナスなどがあればさらに高給となる。
現役日大生からは宮川選手へのエールが止まらない。
「20歳であそこまでできるなんて信じられない。私だったら会見なんて無理。家に引きこもっちゃう」(女子学生)
と、たたえ、監督・コーチの会見をこう断罪する。
「何で大学が学生を守らないんだって、みんな言ってます。日大っていうだけで色眼鏡で見られます。就活をしている先輩は怒っていましたね。内定取れなかったらどうするんだよって」(同)
25日に会見した日大の大塚吉兵衛学長は、就活生への悪影響を気にかけた。
日大生も日大アメフト部員も、クレバーな指導者を持てなかったツケに襲われているが、“将来の日大アメフト部員”も今、揺れに揺れている。
保護者はみんな宮川君の味方
日大のホームページによれば、同大は日本全国に20以上の付属高校(経営母体は一律ではない)を抱えている。アメフト部がある高校も多く、そこから優秀な選手が、日大アメフト部に入部する仕組みだ。巨大な“アメフトピラミッド”。その頂点に君臨していたのが、内田前監督。
「日大の付属高校にも、内田監督の息がかかった監督やコーチがいるんです。日大アメフト部を強くするために、高校から育てておきたいんですよ。宮川君も付属出身です」
そう語る付属高校関係者は、今回の騒動の余波を次のように明かす。
「日大アメフト部がどうなるかわからないから、他大学のアメフト部への推薦状を書いてほしいって、高校の監督にお願いしたんだけど、内田監督の許可がないとダメだとかでもらえないんですよ。これには多くの保護者が大激怒。担任の先生にも相談したんですけど、私が独断で書いたりするとクビになるからって、取り合ってくれませんでした。
今はようやく緊急保護者会も開いて、推薦状も書いてもらいましたけど、トライアウト(スポーツ試験)が間に合うのかどうか……」
付属高校に通うアメフト部の生徒と、宮川選手はさほど年齢差はないため、
「保護者はみんな宮川君の味方ですよ。宮川君に責任をなすりつけて、いい大人が責任を逃れようとしているなんて何考えているんですかね。宮川君がかわいそうですよ。宮川君が息子とダブってみえます。私たちが応援しないといけないですね」(前出・関係者)
単独謝罪会見では不安そうな表情で宮川選手は、
「この先、アメリカンフットボールをやるつもりもありません」と述べている。
日大アメフト部関係筋によると、すでに練習をボイコットしている選手もいる。
学生日本代表にも選抜されるほどの若者をつぶした、老監督とイエスマンのコーチ。前出の弁護士・船山さんは、今後問われる3人の罪を次のように見通す。
「宮川君に命令した2人が現場にいて、やるかやらないか見張っている。これを実行共同正犯といいます。みんなが同じ立場にいると考えられます。今回は傷害罪ですが、いちばん重くて懲役15年。ただし罪の重さは監督、コーチ、選手の順番になると思います」
日大は2019年、創立130年の記念イヤーを迎える。キャッチフレーズは“130年の輝きと共に、未来を創る”。だが、輝きは色あせた。古い感覚の人たちが大きな声を張り上げる大学が、不死鳥(フェニックス=日大チーム名)のようによみがえることはなさそうだ。