物やサービスを購入しないで誰かと共有して利用する“シェア”が、今、日本中で広がりを見せている。そうした貸し借りによる経済の動きを“シェアリングエコノミー”と呼ぶ。
自分が利用者にも提供者にもなれる
内閣官房シェアリングエコノミー伝道師の石山アンジュさんによると、
「シェアリングエコノミーでは、物や場所、乗り物、スキルや時間……あらゆるものを貸し借りしたり、売買しています。実は人気フリマアプリ『メルカリ』もこのひとつなんですよ」
今まで、物やサービスの多くは企業から購入し、買った個人がそれを利用する仕組みだった。
「いうなれば、企業任せでした。でもシェアリングエコノミーでは、企業はあくまで仲介役。インターネットを介して、個人と個人の間でやりとりが行われるのが特徴で、自分が利用者にも提供者にもなれるんです。
例えば、昔は近所でしょうゆの貸し借りが自然と行われていましたよね? それがネットの登場によって多数の個人とつながれるようになり、しょうゆの貸し借りを100人、1000人、海外の人ともできるようになったイメージです」
何かを借りて利用するなら、いわゆるレンタルサービスと変わらないのでは?
「確かにシェアとレンタルは、違いがわかりにくいです。例えばシェアリングサービスの中には、個人間のやりとりだけではなく、企業が個人にサービスを提供しているものもあります」
レンタルサービスの場合は何か問題が生じたら企業が補償してくれるが、個人間でやりとりするシェアリングサービスでは、自己責任となる。
「ゆえに、お互いの信用が必要不可欠。多くの関連サービスでは、提供者と利用者が評価し合うシステムを取り入れています」
市場規模は’21年度には1000億円に!?
シェアリングサービスは、海外では’12年ごろ、日本では’15年ごろから広がり始めたという。
「世界的に有名な、民泊先を紹介する『Airbnb(エアビーアンドビー)』や配車サービス『Uber(ウーバー)』が日本で注目され始めたのが’15年ごろ。政府が“1億総活躍社会”と謳い始めた時期でもあります。
シェアリングエコノミーは、個人の働き手や社会参加を生み出す動きにも大きく影響しています」
’15年度に398億円だったシェアリングエコノミーの国内市場規模は、今や636億円。東京五輪翌年の’21年度には1000億円に達すると矢野経済研究所は試算している。
シェアが支持され始めた背景について、節約アドバイザーの丸山晴美さんは、こう分析する。
「昔は物を所有するのが当たり前。たくさん持つことが富の象徴という時代もありました。ただ10年ぐらい前から、断捨離やミニマリストなどが流行し、“物を持たない”という選択肢が生まれました」
その結果、物を捨てて幸せになった人もいれば、捨てた後に後悔して再び購入したという失敗ケースも。
「すべては持つべき物、持たなくてもいい物、そして“期間限定で持てばいい物”に分類できます。赤ちゃん用品や入学式などで着るブラックフォーマルは、使う時期や回数が限られている代表例。それに大金を払うのはバカバカしいですよね」
そんなときに、シェアリングサービスを上手に取り入れることで、今よりずっとお得に暮らせるという。
「ネットやアプリで簡単に利用できるのも特徴です。“必要な物やサービスを見極める目”が問われる時代になったといえます」
どんどん増えているシェアリングサービスには、どんなものがあるのか、「物のシェア」に関する情報をご紹介します。
プロのスタイリストが旬のコーデを提案!
タレントを担当したり、テレビや雑誌で活躍するスタイリストが、自分のためだけにチョイスした3着が自宅に届く。さらに好相性なコーディネートまで提案してくれるのが、月額制ファッションレンタルサービス『airCloset』。
「サービス開始は’15年2月。会員は女性のみで、約15万人です」
とは、運営会社『エアークローゼット』代表取締役社長兼CEOの天沼聰さん。自分では持ち切れないほどの洋服が入ったクローゼットを、みんなで共有できたら……。そんな発想からサービスは誕生した。
「私の妻は出かけるときに“着る服がない”と言うんです。私の10倍以上は持っているのに。そして、ショッピングモールではいつも同じ店で、すでに持っているような色・デザインの洋服を選ぶ。
それは妻に限った話じゃなく、弊社のアンケートによると、女性が1年間に新しく買うブランドは3〜4つ。新しいブランドも着こなしもどんどん出る中で、その機会損失はもったいないと思ったんです」
仕事、家事、子育て……。時間に追われ、洋服選びは億劫になりがち。ネットショッピングで買っても“イメージと違う”と思いながら、しかたなく着ていることも少なくない。
「お届けするのは、単なる洋服ではありません。新しい自分と出会う発見、わくわく体験です。トレンドを押さえているのはもちろん、着こなしの幅が広がる体験。自分では選ばないアイテムも着てみたら“似合う”“いいね”とほめられるような体験です」
とはいえ、実際にどんな洋服が届くのかは気になるところ。
「取り扱いブランドは約300。ファストファッションではなく、品質にこだわったブランドのみです。価格帯は1着あたり、数千円代後半から3万円くらいまで。1ボックスが3万〜4万5000円くらいになるようにしています」
月額6800円(税別)で1回分3着が届く。月額9800円だと借り放題で、破損した場合の補償もつく。そのため、後者が圧倒的人気だそう。
「“子どもが汚してしまうから”と二の足を踏む方もいますが、むしろそんなママに使っていただきたいですね。われわれのメンテナンス技術は一般家庭よりも高い。あくまで“シェア”なので、考え方はカジュアルに。
育児中だからと家にこもるのではなく“ファッションが新しいから出かけてみようかな”と思ってもらえたらうれしいですね」
★『airCloset』https://www.air-closet.com/
ワイシャツレンタルでアイロンいらず
「サラリーマン時代、“共働きなのに、なんで私がワイシャツにアイロンまでかけなきゃいけないの!?”と妻からよく言われ、夫婦ゲンカになっていたんです。それで、1か月分のワイシャツをまとめて宅配するサービスを思いつきました」
と話すのは、『NextR』代表取締役の長尾淳さん。勤めていた会社を退職し、’16年4月からワイシャツの宅配レンタルサービス『ワイクリン』をスタートさせた。
「1か月に1度、20枚のワイシャツをご自宅にお届けします。使用後は洗濯せず専用袋に入れ、着払いで返送すればいいだけです」
洗濯だけならまだしも、アイロンがけは嫌い・苦手という人は多い。だが、シワシワのワイシャツで夫を送り出すわけにもいかない。
クリーニングに出すにしても、休日が店との往復でつぶれてしまう……。そんな悩みから解放してくれる。
「ワイシャツは、すべて日本の大手メーカーのもの。品質はお墨つきです。サイズはM、L、LLから選べます。無地、ストライプなど柄も10種類から選択できます」
驚くことに、ワイシャツには自分専用のナンバータグがつけられる。
「レンタルではありますが、常に“自分専用のワイシャツ”が届けられる仕組みになっています」
1か月分・20枚をまとめて返却するとなると、夏はにおいが心配……。
「専門のクリーニング業者と契約し、洗剤に独自配合の抗菌剤を入れています。においに関してクレームが来たことはありません」
利用者はさまざま。サラリーマン本人はもちろん、その妻、社会人として働く息子用に母親が申し込むケースもあるという。
「8割近くが継続利用中。月額1万2800円(税別)〜と決してお安い値段ではないのですが、1度利用されると“手間は月1回だけ”という便利さを実感していただけるようです」
★『ワイクリン』https://yclean.co.jp
憧れの高級ブランドバッグをレンタル
ルイ・ヴィトン、セリーヌ、エルメス、プラダ、シャネル……。30万円以上するブランドバッグを、月額6800円(税別)でシェアできると人気のサービスが『Laxus(ラクサス)』。
「現在、55ブランドを取り扱っています。サービス開始は’15年で、現在の会員は約23万人。その約半数が首都圏、名古屋、関西、福岡などの大都市に集中しています。
“自分も高級ブランドを持っていいんだ”という心のバリアみたいなものを開放した点が、広く支持されている理由だと思います」
とは、広報の吉田愛美さん。高級ブランドのバッグは、そもそも高くて手が出ない。清水の舞台から飛び降りる気持ちで購入しても、トレンドが過ぎると持ちづらくなる残酷な現実……。シェアなら、その心配がない。
「通勤バッグとして使いたい方や常にトレンドのものを持ちたい方、そして入学式や冠婚葬祭などのイベントで使われる方が目立ちます。だいたい1・5か月くらいで次のバッグを借りる方が多いですね」
もちろん、すべて鑑定ずみの本物。さらに社内のメンテナンス専門部署でケアされ、シェアアイテムといえども状態はきれいなものばかり。
「汚損したり、盗難にあった場合も、補償制度があるので安心です」
お目当てのバッグが貸し出し中の場合には、リクエストもできる。
「お手元に使っていないブランドバッグがあれば、それをシェアに提供していただくサービスも始めましたが、好評です」
★『Laxus』https://laxus.co/