松田凌 撮影/森田晃博

 ’91年にトニー賞3部門を受賞した『シークレット・ガーデン』が、ついに日本人キャストで上演される。ミュージカルファン待望の本作には豪華キャストが集結。その中で新鮮さが注目を集めているのが、ディコン役の松田凌さんだ。ミュージカル『薄桜鬼』など、2.5次元の舞台で歌やダンスを披露した経験はあるが、海外ミュージカルは初めて。

「オリジナルミュージカルにも何作か出演していますが、たまたま僕はあまり歌わない役柄でした。でも素晴らしい歌声で客席を魅了されている共演者の方々を間近で見て、“自分もいつか”と憧れを抱いていたんです

 その憧れを現実のものにするため、松田さんが本作のオーディションに挑んだのは1年ほど前のこと。

「正直、自分では受かると思っていませんでした。その前に歌唱指導を受けてはいたんですが、ほかのみなさんの歌を聴いて“ミュージカルへの意識が足りなかった、もっとちゃんと準備してから挑むべきだったな”と申し訳ない気持ちになっていたので。でも“この作品に出たい”という熱意、その伝え方は誰にも負けていなかったと思います。それに芝居の審査のとき、僕はディコンという役にすごくフィットできた気がしたんです

 ディコンは草花と親しみ、動物と話せる不思議な青年。初演では『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のジョン・キャメロン・ミッチェルが演じた役だ。

「物語の中で“鍵”が重要な要素になっているんですけど、ディコンは少女メアリーを導く、まさにキーマンですね(笑)。僕はとにかく柔和に演じたかった。運よくこのキャラクターと僕との間に近しいものがあったんだと思います。台詞を言うときにも違和感がなく、すごく楽しかったから

「違和感のなさ」は松田さんにとって、作品自体の魅力でもある。

「この作品ってファンタジーではあるんですけど、そこで起こることは何もかも、まったく違和感を感じないんですよ。ディコンという青年も純粋で半分、妖精みたいな存在ですけど、どこかにいるんじゃないかって思える。僕はひねくれたところがあるので、ただ美しいよりも毒味のあるもののほうが好きなんですね。シェークスピアが『マクベス』で書いた“汚いはきれい、きれいは汚い”みたいに、“汚いものがきれいに見えることだってあるのにな”なんて思いがちなんですけど、そんな僕の心さえ洗われました(笑)

2.5次元という枠に自分をはめたくない

 松田さんがオーディションで大抜擢(ばってき)を受けたのは、これが初めてではない。なにしろ初舞台作品のミュージカル『薄桜鬼』で、主役の斎藤一役に選ばれた経験を持っている。

僕の原点ですね。振り返ると悔いはないですけど、反省ばかりが押し寄せてきます。自分が何もできなさすぎて。そのとき共演した仲間とは今でも仲よくさせてもらっているんですけど、あの当時は本当にがむしゃらで、青春でした。新選組という題材で男ばかりだから、熱さとか友情とか、重なる部分もありましたし。

 今回もそうですが、僕は今すぐできる状態ではないのに、できる可能性をくんで選んでいただいた作品が多かった。負荷は多いけど、だから成長できた部分が大きいし“恵まれているな”とすごく思います。僕、“大金星をとる”みたいなのが大好きなんです(笑)

松田凌 撮影/森田晃博

 “2.5次元”作品での主演も多い松田さん、今回は“東宝ミュージカル”という枠で語られることになりそうだけれど。

「そこは枠ととらえず、僕も素敵な作品の一員になれるんだと、誇らしく思います。ミュージカルは歌うことで心が動くし、訴える力も大きくなりますよね。お客様もそこを楽しみにいらっしゃるんだから、歌はしっかりお届けしたい。僕は今年27歳になりますけど、今まででいちばんのターニングポイントになるのがこの作品だと確信しているんです。稽古(けいこ)を経て本番を迎えてみたら、役者としての価値観が大きく違ったものになっているに違いないと。

 超一流の共演者のみなさんとは経験も違うし、稽古場では失敗も悔しい思いもいっぱいするでしょう。舞台に立てば、僕はシアタークリエの出演者としては異端児という感じになるかもしれません。そこに、僕の価値のようなものを見いだしていただけたらうれしいですね。お芝居だったり、動きだったり、僕の醸し出す空気感がお客様に“あ、こういう人は今までいなかったな”とポジティブに、新鮮に受け止めてもらえれば、と思っています」

<舞台情報>
『シークレット・ガーデン』
 1911年に発表されたバーネットの名作『秘密の花園』をミュージカル化。1991年にブロードウェイで開幕し、トニー賞の脚本賞、装置賞、そして11歳だったメアリー役のデイジー・イーガンが当時、史上最年少で助演女優賞に輝いた。孤児となった少女や孤独な少年の成長物語であると同時に、大人たちがたどる愛の喪失と再生を描いて感動を呼ぶ。出演は石丸幹二さん、花總まりさんほか。6月11日~7月11日 東京・シアタークリエで上演される。以後、神奈川、福岡、兵庫公演あり。

<プロフィール>
まつだ・りょう◎1991年9月13日、兵庫県生まれ。2012年、初舞台のミュージカル『薄桜鬼』-斎藤一篇-で主演を務める。以後、テレビドラマ『仮面ライダー鎧武/ガイム』、『男水!』、映画『HiGH&LOW THE MOVIE 2/END OF SKY』、『ライチ☆光クラブ』、舞台『Messiah メサイア』、『K』、『男水!』、『東京喰種 -トーキョーグール-』などに出演。主演映画『ONLY SILVER FISH』が秋公開、10月~12月には舞台『魔界転生』に出演予定。

(取材・文/若林ゆり)