あなたの「一番思い出に残っている食事」ってなんでしょうか?
食事とは、それだけで幸福感を与えてくれるもの。何か満たされない心があったとき、どうにかしてその隙間を埋めようと食べる行為を行うことがあります。
食べることで埋めようとしているものは?
イライラすると甘いものが食べたくなる、というのは有名な話ですが、よく考えてください。あなたのイライラと食べるという行為は本来何の関係もないのです。
食べるということが生きていくうえで避けられないものであると同時に、私たちの憶 を豊かにすることもあれば、満たされない「何か」の代わりを担っていることがあります。
だからこそ、私が行っている食欲鎮静講座ではその方の食事に染みついた記憶を詳しく聞きます。食事とは行為ではなくその人の心を映すものだと感じているからです。
そこにあるのは孤独なのか癒しなのか悔しさなのか。あなたが食べることで埋めようとしているのは何なのか。そこに気づけたら食と向き合うこともずっと楽になるのです。
それは縛られていた過去からの脱却とも取れます。
なぜか間食がやめられず、固いものに取り憑かれていたお客様がいらっしゃいました。その方の過去を掘り下げると、小さい頃に入院してつらい食事制限の病院食で過ごし、お菓子は一切許されなかったという過去がありました。
その方の唯一の楽しみは病院のベットの中でこっそり食べるおせんべい。外で遊ぶこともお菓子を食べることも許されない幼い子が癒しを求めていたのが、おせんべいでした。
だから今でもストレスがかかると固いものが食べたくなるのです。ただ彼女も私のセッションを受けるまでは、感情と固いものが食べたくなる関連性には自分で気づいていなかったのです。そして話すうちになぜ固いものを欲するようになるのかに気づき、その気づきによって徐々に間食を減らすこともできるようになりました。
私が話を聞いたところで何にも状況は変わっていないかもしれません。でも、そのときの自分の悲しかった、苦しかった感情に気づき、受け止められたとき、自然と食欲はおさまるようになっています。
「ああ、そうだったのか」と。
それまで見えなかった敵が、実は自分の記憶にあったのだと気づき、腑に落ちるのかもしれません。あくまで1つのサンプルであって、これがあなたの食欲に当てはまるかはわかりません。車は急には止まれないように、食欲も急には止まりません。
でも、食に染みついた負の感情の穴を埋めるのが食であるなら、あなたを満たし落ち着かせるのもまた食なのです。
健康にとらわれすぎると危険
○○が脳にいい。××が美肌をつくる。アメリカから来た奇跡のスーパーフード、ほにゃらら……。空前の健康ブームで、毎日のように「体にいい食べ物」情報が流されています。
その情報は、乱れがちな現代人の食生活を整えるのにとても有効です。しかし、場合によっては、その健康情報こそが私たちの心を不健康にする可能性があるということを知っていましたか?
「オルトレキシア」、この名前を聞いたことがありますか? 日本語訳はまだ確立されていませんが、「不健康食拒食症」とも呼ばれています。これは、健康的な食事を知れば知るほど食事ができなくなってしまう症状です。
どういうことか?オルトレキシアの語源はギリシャ語です。
それぞれ「オルト = 正しい」、「オレキス = 食欲」の意味を表していて、全体としては「正しい食欲」という意味になります。「正しい食欲なら問題ないじゃない?」そう思われるかもしれませんが、いえいえ、「正しい食欲」にも問題があるのです。
それは「異常なまでに食べ物の質にこだわる」という点です。通常は「やせる」ことが基準になるので「量」にこだわることが多いのですが、オルトレキシアの症状をお持ちの方は、体重を落としてやせることよりも、体の中に不健康なものを入れたくないという気持ちが強くなります。
その結果、異常なまでに健康な食材を食べることにこだわってしまうのです。
例えば「有機野菜がいいらしい」と聞くと、それ以外の食材、またはその可能性のある食材を一切受けつけられなくなります。食べ物の量ではなくて、質に対する強迫観念にとらわれ、心に抑圧をかけてしまうのです。そして、結果的に自分で食べ物を選ぶことができなくなってしまいます。
「ベジタリアン」や「ヴィーガン(バターや乳製品などの動物性のものも一切摂らない厳格な菜食主義)」に起こりやすいといわれています。もちろんダイエットをきっかけにこれに陥る方もいらっしゃいます。
健康ブームに振り回されないで
今の世の中、食に関する情報はまさに錯綜している状態です。空前の健康ブームにより、あるひとつの食材にフォーカスが当たって取り上げられたり、特定の栄養素を排除したダイエット方法がブームを巻き起こしたり……。その情報は実に様々で、正解がなんなのか、まったくわからない状態です。
もちろん、健康でいたいと思ったら、知識は必要です。食品には中毒性があるものやアレルギーを引き起こすものもあるので、体の不調を感じたときは早急に調べた方がいいでしょう。
しかし、同じものを食べて中毒やアレルギーにかかる人もいればかからない人もいるのと同じように、必要な知識は人それぞれです。あの人が「これはいけない」と言ったから、という他人基準で食べ物を排除していると、いずれどの軸で食べればいいのかわからなくなります。
オルトレキシアの方は、1日3時間以上も1回の食事で食べるものについて考えてしまったり、自分が正しいと思う食事以外が食べられなくなってしまったりするのです。
あなたは大丈夫? オルトレキシア度をチェック
先に述べたように、オルトレキシアはまだ研究も進んでおらず、治療法や診断基準が明確に確立されているわけではありませんが、全米摂食障害協会によると、次のチェックリストの質問に「はい」と回答する数が多いほど、オルトレキシア発症傾向が高くなるようだとされています。
オルトレキシアだと疑われる質問項目
□「正しい」あるいは「完璧な」食習慣を送るために、まったく食べない食品グループがありますか?
□食事がどのように調理されたかひどく不安を抱きますか?
□自身が守りたい食習慣に沿えないかもしれないと思い、食事の出るイベントに出られないことがありますか?
□きちんと食事制限をしない人に対して批判的な感情を覚えますか?
□献立を考えたり食材を選んだりするのに多くの時間とお金をかけていますか?
□理想とする食生活から外れると後ろめたいですか?
□以前は楽しめていたことに興味が無くなってきた一方で、「正しい」食事をしていると満足感を得たり良いことをした気分になったりしますか?
健康オタクが陥りがちな罠とは?
オルトレキシアの方は不健康食に特に目を引きやすく、たとえば「○○が、がんのリスクを高める」という情報を見ると、その「○○」を自分の食べるものから極度に排除してしまいます。
健康オタクと言われる方にもこれは起こりやすい状態です。
「食べない方がいい」 が「食べてはいけない」という強迫観念に陥ってしまうのです。このような悩みを持っている方は私のお客様にもいて、すべての食べ物の判断基準を私へ求めてきます。自分では食べ物が選べなくなってしまうからです。
アメリカの精神疾患のマニュアルには載っていないため、世界的なレベルで摂食障害とは認められていない存在ですが、全米摂食障害協会ではその危険性が述べられています。つまり、それだけこの症状に悩む人が増えてきたということです。
「じっくりと味わう」ことが大切
では、これらの問題をどう取り除けばいいのでしょうか? 明確な治療が確立されていないので明言することはできませんが、食べ物の質が心に抑圧をかけている状態なので、最終的な到着地点として、
「健康的と言われていないものでも食べていいんだよ」
と自分に許可を与えてあげることだと私は思います。自分の中ででき上がっている正解・不正解を取り除くことを行わなければなりません。
しかし、考えてほしいのです。あなたにはすでに自分を危険な食べ物から守るチカラが備わっていることを。私たちは赤ちゃんの頃、すべての危険を口に入れて舌で確認していました。それがいつの間にか、頭ばかりが賢くなり、自分の舌での判断を忘れてしまっているのです。
あなたの舌にはきちんとあなたの体に良くないものを見分ける力が備わっています。巷で得た知識ばかりに振り回され、「あれは食べちゃいけない」「これも食べられない」となんでもかんでも遠ざけ、結果的に栄養バランスが崩れるような事態に陥っていませんか?
どんなに健康食と言われるものでばかり食べていても、1日中食べ物のことで振り回される状態は健康とは言えません。
それが分かっててもできないから苦しんでいる、というのもわかります。
でも、大丈夫です。必ず落ち着きますので、「舌と会話するように1回1回の食事をじっくりと味わう」ことから始めていきましょう。