40代からのお悩みは若いころのそれとは違うもの。週刊女性に寄せられたミドル世代特有の歯のトラブルに、歯科医の若林健史先生、矯正歯科医の坂本紗有見先生、歯科医の遠山敏成先生が一挙お答え!
◎虫歯がないのに、歯ぐきが下がってグラグラしている歯があります。このまま抜けちゃうの?
(47歳 パート主婦)
「いずれその歯は抜けてしまうかもしれません。歯ぐきが下がっているなら、歯周病菌によって土台の骨が溶けている可能性も。虫歯が少ない人ほど歯周病になりやすい傾向があり、気がつかないうちに進行します。
歯の根の周りの骨が溶けていたら抜歯をして、義歯を入れることになるおそれがありますが、早く治療すれば歯を失わずにすむかもしれません。すぐに受診を!」(若林先生)
「人間は自分の体重と同じくらいの力でかむといわれています。かみ合わせが悪く、かんだときの力のバランスが悪いと、集中して力がかかる歯ができ、グラつきが出ます。
砂山に棒が刺さっている状態を想像してください。その棒に上から力が加わると棒はグリグリと押されて、その周囲に空間ができますよね。歯も同じです。強い力が加わると歯と歯ぐきの間に隙間ができて、そこに歯垢や歯石がたまり歯周病になります。
咬合の悪さを放置しておくと歯周病が悪化するので、かむ力が分散されるようにかみ合わせを調整することも大切です」
と遠山先生。寝ている間のかみしめがひどいときは、マウスピースの使用をすすめる。
「朝起きて、歯が痛かったり、あごが疲れていたらかみしめをしているサインです。通常、人間は大きな力でかむと、パッと口が開くようにできています。アサリを食べて砂をかむと、反射的に口が開きますよね。
その機能が寝ている間は働かないので、強く歯をくいしばってしまうのです。歯周病とかみ合わせのチェックをしましょう。また、かみしめはストレスなども原因になるので、メンタルケアもしっかりと」(遠山先生)
◎歯をみがいてるのに、口から生ゴミのニオイがすると娘からきびし~い指摘。これってどういうこと?
(49歳 会社員)
「口臭は、口の中の腐敗した食べカスや歯周病菌が出す毒素が原因。口臭がひどい人は歯周病の可能性が高いです。歯の表面のヌルヌルした歯垢は、誰でもにおうものなので、しっかり歯みがきをするなど毎日のケアを忘れずに」(若林先生)
「口の中は代謝を行うところなので、無臭ではありませんが、ひどい場合には歯周病や副鼻腔炎、内臓の病気が考えられます。
副鼻腔炎は、歯のX線を撮ると、鼻に膿がたまっている場合もあります。また反対に、鼻が悪いと思って耳鼻科へかかったら、歯の根っこが炎症を起こして膿がたまっていたということも。歯と鼻は近いので、専門医に診てもらって原因究明を」(遠山先生)
◎奥歯が欠けてしまい、ほとんどなくなってしまいました。インプラントを医師からすすめられましたが、費用もかかるし、高齢者がするイメージがあり悩んでいます。
(55歳 パート主婦)
「40~50代は骨が弱くなり、歯が欠けやすくなる時期です。虫歯でなかったとしても、かみしめや食いしばりでも奥歯にヒビや亀裂が入り欠けてしまう傾向があります。
歯が欠けた場合、欠けた部分が少なければ、かぶせものやさし歯で治療します。ひと昔前は、銀を含む合金や金でかぶせものをすることが多かったのですが、最近はセラミックやジルコニアなどの素材を使うケースが増えています。
金属イオンが身体にたまるといわれているため、先進国では、すでに金属のかぶせものは使っていません。日本くらいですね」(若林先生)
「お悩みのインプラントですが、50代で早いということはありません。むしろあごの骨がしっかりしているうちにインプラントにするのはオススメです。
歯がどのように欠けたのかわかりませんが、根っこがしっかり残っていれば、かぶせものでもかまいませんよ。ただ、歯周病があるなら、インプラントがオススメ。かぶせものは保険診療で使われるものは見た目が悪く、作製技術も違います。
そのため私のクリニックでは、保険診療外のセラミックやジルコニアを選ぶ人が多いですね。保険診療外のかぶせものは1本20万円程度します。あとから、やっぱりインプラントを入れようとなると、1本40万~50万円はするので、もったいないと思います」
義歯には、インプラントのほかにブリッジや入れ歯を入れる方法もある。
「どちらも50代ではあまりオススメしません。ブリッジとは、両隣の歯を削って、かぶせものをする方法。保険診療で行えば治療費は安いですが、両隣の歯に負担がかかり、結局、3本の歯を失う可能性があります。
入れ歯もブリッジと同様で、両隣の歯に負担をかけます。また、かむ力も30%まで落ちるといわれています」(遠山先生)
◎歯並びが悪くてずっと見た目を気にしていました。最近は歯周病が心配です。何歳くらいまで歯列矯正はできますか?
(52歳 専業主婦)
「何歳になっても歯列矯正はできます。歯周病で歯がボロボロだと難しい場合もありますが、歯の骨さえしっかりしていれば、90代でも大丈夫。私のクリニックの患者さんは20~60代、特に30代がコア層です。
40~50代になると歯周病が増えてきますが、歯周病だからといって矯正をあきらめないで。しっかりと歯周病を治療すれば、矯正できる可能性はあります」
と坂本先生は指摘する。
矯正のメリットは、見た目の改善だけではない。
「例えば、ななめに生えている歯は、かむ力がアンバランスになって折れたり欠けたりすることがあります。歯は垂直にかかる力には強いのですが、ななめからの力には弱い。矯正でかみ合わせを整えると、歯のトラブルは少なくなります。
また、食べカスが詰まりにくく、みがき残しもなくなるので歯周病予防にもなる。まず歯周病を治し、そのあと治療の一環として矯正歯科治療もできるのです」
矯正歯科治療の方法は、大きく2種類に分けられる。
「マウスピース型矯正装置を使う方法と、ブラケットという器具を歯に張り、そこにワイヤーを通す方法があります。ブラケットは歯の表側につけるマルチブラケット法と、裏側につける方法があります。
ひと昔前は、ブラケットもワイヤーも金属が主流でしたが、歯の表側にブラケットをつける方法では、セラミック素材が人気。セラミックは歯の色と同じか透明なので、金属製より目立たないからです。裏にブラケットをつける方法は、大きく口を開けない限りまず見えませんので、金属のブラケットを使用します。
治療期間が早いのは、表側にワイヤーを通す方法です。続いて裏側にワイヤーを通す矯正法。あくまで私の見解ですが、マウスピース型矯正装置では完璧な治療を行うことが難しく感じているので、私のクリニックでは、マウスピース矯正を行う場合は、その前後にワイヤー矯正も行っています」
年齢が高くなればなるほど歯は動かなくなっていく。その分だけ、矯正には時間がかかるのが普通だ。
「むしろ歯が早く動きすぎるときは要注意。歯周病の可能性があります。40代を過ぎると歯周病が増えますから、歯周病の治療や完璧なクリーニング、口腔ケアを行ってから矯正に入りましょう」
ブラケットとワイヤーをつけたら、定期的に歯科医院で調整を行う。
「調整する際に痛みはありますが、最新の装置を使えば軽減できます。矯正治療中はしっかりとセルフケアとクリーニングを行うことも重要です」(坂本先生)
◎50歳を過ぎて、親知らずが痛くなりました。抜いたほうがいいですか?
(51歳 会社員)
「親知らずは10~20代で抜くものと思うなら、それは間違い。年齢に関係なく、いつも腫れるような歯であれば抜いたほうがいいです。60~70代の健康な人なら抜くことがありますし、40~50代でも問題ありません。抜いてしまいましょう」
と遠山先生。例えば、親知らずが歯ぐきの中にすっぽりと埋まっている場合は、無理に抜かなくてもいいそうだが、
「少しでも歯ぐきの外に出てきたら、抜いたほうがいい場合もあります。菌だらけの口の中で親知らずが少しでもさらされると、虫歯や歯周病を起こし、炎症や痛みが生じることもあります。
また、親知らずが横向きやななめに生えていたりすると、隣にある歯の根っこに力が加わり、炎症が起こることも。この場合も抜いたほうがいいでしょう」(遠山先生)
「40~50代になると、歯周病が進行して歯ぐきがやせ、隠れていた親知らずが出てくることも。それに気づかず、炎症が起きて痛みが出てから抜く人もいます。40~50代になったら歯周病予防のためにも、定期的に歯科医師による歯のチェックが必要です」(若林先生)
◎40代半ばごろから口が乾くようになりました。虫歯や歯周病にもかかわりがありますか?
(49歳 パート主婦)
「40~50代は女性ホルモンの低下で唾液が減り、ドライマウスになりやすくなります。抗菌成分を含む唾液が少なくなると食べカスや歯垢が洗い流せなくなり、菌が繁殖して、歯周病のリスクが高くなります。
また、加齢とともに咬筋といわれるかむ筋肉が発達し、耳下腺や顎下腺を圧迫して、唾液が出にくくなる。ボトックスで咬筋をやわらげる治療法がありますが、歯科ではまだ少なく、美容整形の分野になります。
忙しい現代人は筋肉が緊張しやすいので、日ごろからリラックスを心がけ、咬筋をゆるめるようにするといいでしょう」(遠山先生)
【この3人に伺いました】
若林健史先生
歯科医。若林歯科医院院長。長年、歯周病治療に従事し、つねに最新の治療を行う第一人者。日本歯周病学会理事、日本歯周病学会専門医・指導医、日本臨床歯周病学会副理事長
坂本紗有見先生
矯正歯科医。銀座並木通りさゆみ矯正歯科クリニック院長、日本矯正歯科学会認定医。30年近く矯正一筋のプロ中のプロ。ていねいで熟練した腕前の治療が好評。
遠山敏成先生
歯科医。マイスター春日歯科クリニック院長。「日本顎咬合学会学術大会」において優秀発表賞を受賞。最新技術を取り入れた治療が好評。