もしもシェイクスピアが『ロミオとジュリエット』を執筆した背景に、彼自身の恋があったとしたら? エリザベス朝時代の英国演劇界を舞台に、創意あふれる「もしも」の物語を描いた映画『恋におちたシェイクスピア』。20年前にアカデミー賞7部門に輝いたこの映画が、英国で舞台化された。その脚本を用いて、新演出で上演するのは劇団四季。若き日のシェイクスピア=ウィルを演じる上川一哉さんは、「シェイクスピアのファンはもちろんですが、若いお客様にも素直に楽しんでいただける舞台になると思います」とニッコリ。
「とにかくストーリーの運び方が、すごく面白いんです。映画を見たときは、先が読めなくてワクワクすると同時に“これをどのように舞台化するのだろう?”と興味をそそられました。『ロミオとジュリエット』だけではなく、シェイクスピア作品の有名なセリフが随所に出てくるんですが、詩的な表現がうまくストーリーにはまっていて。稽古をしながらも“うわぁ、おしゃれだなぁ!”と日々、改めて感じています」
この作品に登場するウィルは、天才劇作家ウィリアム・シェイクスピアの一般的なイメージとは大きく違う、血気盛んな若者だ。
「シェイクスピアは天才劇作家というイメージがあり、理解しがたい部分がたくさんあるんじゃないかと思っていたのですが、この作品のウィルは等身大の若者として描かれています。スランプに陥っているときにヴァイオラという女性と出会い、その恋を原動力として名作を生み出す彼は、すごく若々しくてエネルギッシュ。何をやっても書けないスランプの状態から始まるので、最初は“陰”の印象が強かったのですが、彼自身は“陽”の人間。しかも、ちょっと“テキトーさ”もあったりするとわかって、“あ、意外に自分と近いところもあるんだな”と思えました(笑)」
上川さんにとってウィルは「うらやましい、自分もこうありたい」と思わせてくれる存在でもあるという。
「彼は“パチン”とはまったときの直感力というものを大切にしているんですが、僕はけっこう優柔不断で(笑)。なかなか直感を信じることができないんです。でも、実際は自分の直感を信じたことがベストな結果を呼ぶことも多いので、ウィルみたいに“よし、これだ!”と決断して行動できたらな、と思いますね」
被災地で実感した
演劇のパワー
劇団四季に入って以来、ミュージカル作品に出演してきた上川さんにとって、本作は初めてのストレートプレー。やはり違いを感じることも多いのだとか。
「歌やダンスがないぶん、言葉だけで役の感情を表現しなければいけない。セリフをどう言えばより明確にこの作品のメッセージ、人物像が伝わるのか。またこの作品は、時代に合った佇まい、言葉遣いも意識しなければならないので、日々、自分の中での闘いがありますね。恋をささやく詩的なセリフも、ウィルらしさが色濃く出るところですので、照れずに自分のものとして言えるようにしなくては(笑)」
演劇を作る人々のバックステージものでもある本作は、作品そのものが演劇へのラブレターのような側面を持っている。その部分でも、共感しきりだそう。
「シェイクスピアが台本を作るというところから始まっていて、役者を集めて稽古をし、本番を迎えるというストーリーが、いま『恋におちたシェイクスピア』の上演に向けて稽古をしている自分たちの状況とピッタリ一致するんです。リンクしすぎていてときどき怖くなるくらい(笑)。芝居づくりに夢中になっている人間模様などに、リアルさが出ていると思います」
作品中には、演劇が人々に与えうるパワーを感じさせるところもある。これは、上川さん自身も実感したことのあるものだ。
「東日本大震災後、被災地で行った『ユタと不思議な仲間たち』東北特別招待公演に出演させていただいたんですが、そのとき“舞台俳優には何ができるんだろう?”と、とても考えさせられました。でも見てくださった方々が“明日もこれで笑えるよ!”とか“見ている間は、つらいことを忘れられたよ”と言ってくださったときに“ああ、これが演劇の力なんだ”と思ったんです。僕たち俳優にできることはこれしかない。だから劇団四季の舞台が、お客様にとって何かのきっかけになればこんなにうれしいことはありません。その方がわれわれと一緒に心を動かして、泣いて笑って怒って、身近なものとして感じてもらえたらという思いで舞台を務めています」
今回の舞台でも、その思いは同じ。
「この作品を見た方が“シェイクスピアに対する考えが変わった”とか“ああ、『ロミオとジュリエット』を読み返してみよう”と思ってくださったらうれしいですね。また観劇後、もとになった映画を見ると、また違った見方ができると思います。舞台はナマモノですし、その場を共有できるということは大きな力になると思うんです。だから少しでも何か新鮮なものを感じて楽しんでいただけるよう、もっともっと役を深めていきたいと思っています」
<出演情報>
『恋におちたシェイクスピア』
1998年に製作された同名映画が、ロンドンで舞台版として上演されたのが2014年。このとき『ビリー・エリオット』のリー・ホールが手がけて好評を博した舞台版台本を用いて、劇団四季が演出家の青木豪を招き、オリジナル演出で贈るストレートプレー。6月22日~8月26日 東京・自由劇場で上演。以後、9月7日~9月30日 京都劇場、10月12日〜11月25日 東京・自由劇場、12月より福岡・キャナルシティ劇場で上演予定。
<プロフィール>
かみかわ・かずや 10月7日生まれ、島根県出身。2005年、研究所に入所。『人間になりたがった猫』で初舞台を踏み、2008年には同作品で主役に抜擢された。以後、『春のめざめ』のメルヒオール、『リトルマーメイド』のエリックなどを演じる。2011年東日本大震災後に被災地で上演された東北特別招待公演『ユタと不思議な仲間たち』では全45公演で主役のユタを演じている。
<取材・文/若林ゆり>