テレビを見ていて「ん? 今、なんかモヤモヤした……」と思うことはないだろうか。“ながら見”してたら流せてしまうが、ふとその部分だけを引っ張り出してみると、女に対してものすごく無神経な言動だったり、「これはいかがなものか!」と思うことだったり。あるいは「気にするべきはそこじゃないよね〜」とツッコミを入れたくなるような案件も。これを、Jアラートならぬ「オンナアラート」と呼ぶことにする。(コラムニスト・吉田潮)
オンナアラート #15 『バチェラー・ジャパン』
オンナアラートにこれ以上、最適な番組があるだろうか。地上波ではない。
Amazonプライム・ビデオの配信『バチェラー・ジャパン』である。シーズン1のときからなんとなく追っかけて観ていた。もうね、「女の強欲ごった煮を映像にしたら、こんな感じ」という絵ヅラと展開。そして、シーズン2がいよいよ最終局面を迎えたので、アラートを鳴らしとこうと思って。
この番組は「バチェラー=ハイソな独身イケメン男性」たったひとりを巡って、女性たち20名が競い合う恋愛リアリティ番組である。セスナやヘリ、気球を駆使したデートや、沖縄の超絶美しいビーチに軽井沢のしっぽり温泉など、超豪華なロケもひとつの見どころ。
バチェラーは毎回、相手を絞り込んでいき、女性たちにバラを1本ずつ渡していく。これが「ローズ・セレモニー」。ローズをもらえなかった女性はその場で敗退。共同生活を送る女性たちの間では心理戦と肉弾戦が展開され、にじみ出る女の業が堪能できる。
最終段階にくると、バチェラーが女性の実家を訪問したり、逆にバチェラーの両親に料理を振る舞うなど、結婚に向けての試練も待ち受けている。最終的にひとりだけが選ばれ、バチェラーと結婚を前提にしたお付き合いする権利をゲットする。
参加女性は、当たり前だが若くて美人。人前に出ることを厭わない、あるいはフリーランスの職種が多い。女優、モデル、ヨガインストラクター、料理教室主宰にデザイナー、イラストレーター。ロケは2~3か月かけて行われるので、企業にお勤めの人はほぼいない。
たとえバチェラーに選ばれなくても、宣伝効果と認知度向上のメリットは大きい。
番組を盛り上げてくれる、毒と強欲の塊のような人材や自己中心的な女もいる。でもそういう女が不可欠だし、オンナアラートも頻繁に発令されるってものよ。ほんわりしたお嫁さん候補みたいな毒にも薬にもならん女を集めたって、ちっとも面白くならないもんね。
配信が始まると、バチェラーと参加女性の個人情報が一斉に検索されまくり、それはそれでネット上では大騒ぎ。ある意味「恒例のお祭り」だ。ヤマザキ春のパン祭りね。
ともあれ、今回のバチェラーの壮大な賭けに対する姿勢と、20名の参加女性のうち、アラート案件をピックアップしてみよう。
男の狡さを引き出した「シルク姐さん」
今回のバチェラーは、小柳津林太郎(おやいづりんたろう)さん。帰国子女・慶応義塾大学卒・サイバーエージェント幹部というキラッキラのプロフィール。
あれ? あんまり背は高くないのかな。最初登場したときに「~です」ではなく「~っす」と話していたのは、若いからか、育ちがあんまりよろしくないのか。イヤ、決して若くねーわ。36歳。育ちもこの上なくええわ。
最初っからピンポイント攻撃&サプライズ・ローズ(ローズ・セレモニーの前にデートでローズを渡しちゃう)を連発し、おまけにキスまでしちゃうノリの軽さが頼もしかった。そうそう、それくらい阿漕(あこぎ)でえこひいきしたほうが、盛り上がるってもんだ!
まず、強烈なおばちゃん旋風を巻き起こした福良真莉果さん。「一瞬、シルク姐さん?!」と思わせるような、パワフルな第一印象に圧倒された。
ともすれば刃傷沙汰(にんじょうざた)になりかねない、女の集団生活において、本当に「オカン」のような優しさと気遣いを見せてくれた。面倒見のいいオカンタイプの女性は、早々に落とされるに違いないと思っていたら、なんと実家訪問まで上り詰めた。つまり、最終4人まで残ったのだ。
しかし、バチェラーが福良さんを最後の方まで残したのは、ちょっと作為的な気がしないでもない。男の狡さ・戦略の文字も頭に浮かぶ。過酷な闘いに長期間挑む女性陣を、明るく楽しくボトムアップしてくれるシルク姐さん、もとい、福良さんはマストな人材だ。男として、ではなく「全体の円滑な進行」という作為が感じられるのだ。
福良さんは、長時間一緒にいたらどっと疲れそうな明るさとまぶしさを持っている。バチェラーも馬鹿じゃないので、うまいこと福良さんの明るさを利用した感が否めない。
敵を作らず、全体的に包み込む温度を持っている女性は、いつも利用されてしまう。そこに切なさを覚えるし、男はそういうところを見抜くんだなぁと戦慄もする。姐さん、頑張ったね。姐さんを100倍明るくしたようなお母さんにもよろしく。
「擬態女王」と「妄想姫」
さて。絶対マストな人材を。最初っからかなりの高みに自分を置いて、上から目線で威圧しまくったのが、若様こと若尾綾香さん。バチェラーには決して見せない、底意地の悪い顔と秀逸な策略に、みな虜になったよ。
スタイルは超絶いいし、一瞬、元オセロの中島知子と杉本彩を足して2で割ったような印象の若様だが、間違いなく美人枠だ。紀州のドン・ファンが好みそうなルックスでもあり「トロフィー・ワイフ」という言葉が似合うタイプの女性だ。
すごいのは、駆け引きとウソ泣きがめちゃくちゃうまいところ。さっと引くところは引く。そして、自在に流す涙。自分に注目を集める術を心得ている。
正直「うわぁ、プロがきちゃったよ」と思ったほど。バチェラーに聞かれても、自分の過去の話はほとんどせず、はぐらかす。聞き上手と甘えんぼなフリをする「擬態」が玄人の域である。
ところが、だ。バチェラーの両親と会う、最終4人まで残った若様が、まさかの大失態を見せた。
自分のことばかり話してウソ泣きしちゃう若様に「なぜそこでこんなミスを?!」と驚いた。案の定、バチェラーの父も母も、見抜いていた。若様の本質が「擬態の女王」であることを。ドラマチックだわぁ。アラートどころかラッパ吹いちゃうね、こういう場面は。
もうひとり、女性陣から最も嫌われた、あずあずこと野田あず沙さん。
若い頃の山村紅葉を彷彿(ほうふつ)とさせる、ねっとりとした攻めは、本当に番組を盛り上げてくれた。ビーチでまさかのオイルマッサージを始めちゃったときは、シーズン1の鶴愛佳さんを彷彿とさせた。彷彿とさせまくりだな、あずあず。
バチェラーとのデートを妄想込みで解説する姿には「ああ、いるいる。お花畑にいらっしゃる姫ね」と視聴者全員があ然とした。妄想力こそ機動力。残念ながら「うっかり貯金自慢」によって敗退したが、すさまじく他の女性に噛みつき続けた健闘は称えたい。
男を落とすための手練手管を学べると思って視聴する人もいれば、その毒牙にまんまとバチェラーが引っかかるのを意地悪く見守る人もいる。エンタメとわかっていながらも、参加女性たちがお披露目する恋愛哲学に目からウロコが落ちたりもする。
今週金曜日にいよいよ勝者が決まるわけだが、回を重ねていくごとにバチェラーが疲弊していく様子もそれなりに楽しんだ。
ハーレムのように思うかもしれないが、実際は選ぶ方も過酷だ。バチェラーがどんどん疲れ切って、心なしか、カラテカ矢部太郎のように見える瞬間も増えた。結婚を前提にした恋愛って、男も女も疲弊するのよね。
吉田潮(よしだ・うしお)◎コラムニスト 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。テレビ『新・フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターも務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)ほか多数。新刊『産まないことは「逃げ」ですか?』に登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/