占いや性格診断ではなく最新の科学から、血液型と病気との関係が次々と明らかになってきている。
O型の血液は止血しにくい?
大ケガで救急搬送されたO型の患者は、それ以外の血液型の人に比べ、死亡率が2倍以上高いーー。今年5月、東京医科歯科大学の高山渉特任助教(外傷外科)らが驚きの研究報告を救急専門誌に発表した。
「海外から取材依頼のメールも来ていますし、反響は意外に大きいですね」
と高山助教。今回の報告によれば、'13年から'16年までに、2施設に大ケガで救急搬送された901名の患者データを分析したところ、救命処置をしたにもかかわらず命を落としてしまった患者の死亡率はO型が28%。O型以外の血液型では11%だったという。
「O型の血液は、止血に関わっている凝固因子(vWF)が、ほかの血液型よりも30%程度少ないことがすでにわかっています」
ただ、vWFがたとえ少なくても生存自体に問題はないと、高山助教は言う。
「救急搬送された患者を手術すると、うまく止血できて助かる人もいれば、同じような条件でも、なぜか出血がコントロールできず、失血死してしまう人もいる。この差は何だろう、と。日々の診療で疑問に思っていました」
研究を進めるうち、血液型の違いが、死亡率に影響を与えている可能性があるのではと考えたという。
「分析をしてみたところ、O型の死亡率が高い結果でした」
ということは、O型の人はケガに注意しないといけないのだろうか?
「その心配はありません。O型の人が転んですりむいても、まったく気にしなくて大丈夫です。心臓が止まる・止まらないというような事故にあったときに、もしかしたら出血しやすい・しにくいの差が血液型にあるかもしれないということ。
そもそも、血液型は変えられるわけではないですし。この研究結果は、治療に生かせなければ意味がないと思っています」
O型だけの問題ではない!
通常の手術では、事前に血液型を調べ、さらにアレルギー反応などを入念にチェックしたうえで、その人に合った輸血用の血液を用意し、使用している。
「でも、すぐに輸血しないと死んでしまうような救急搬送患者に、血液型を調べる猶予はありません。そのため緊急時にはO型の血液を投与しています。O型の血は輸血の副作用が起こりにくいため、どんな血液型の人にも使えるんです」
そして容体が安定してきたら、患者本来の血液型に輸血を切り替える。
「今までは前述したようなO型の血液を使用することにデメリットがある可能性を疑っていなかったので、輸血の切り替えを特に急いだりはしていませんでした。
しかし、もしO型に出血しやすいなどのデメリットが実際にあるなら、いち早く患者の血液型を判明させて対処することで、結果として、むやみにリスクにさらされるおそれを防げるかもしれません」
今後はほかの施設と共同で研究を行い、より多い症例数で検討し、さらには血液のどこの部分に作用しているのかをつきとめる研究も視野に入れているという。
「これはO型の人だけの問題ではなく、ほかの血液型の人の治療にも関係してくる大切なテーマです」
ここからは、血液型と病気との関係をさらに詳しく紹介していく。
前立腺がん、O型は低リスク!?
病気と血液型の関連性が話題を呼ぶなか、注目したいのが国民病・がんとの関係だ。前立腺がんの再発に、血液型が左右する可能性があるかもしれない。
東京医科大学の大野芳正教授らの研究報告によると、前立腺がんと診断され、前立腺全摘出手術を受けた男性患者555人を対象に、術後4年の経過を調査したところ、O型の再発リスクが最も低かったという。最も高リスクだったA型に比べ35%も差がついている。
「論文発表の2年くらい前に、アメリカの泌尿器科学会が“腎臓がんの再発リスクはO型が低い”という論文を発表しました。そこで私が持つ腎臓がん、膀胱がん、前立腺がんのデータを解析してみました。
腎臓がんと膀胱がんは差がありませんでしたが、前立腺がんにおいてはO型とA型では再発率にはっきりとした差が出ました。正直、血液型での差はないと思っていたので、意外でしたね」
と、大野教授は驚きを隠さずに話す。画期的な発見といえるが、なぜO型の再発リスクが低いのか、その理由はまだよくわかっていない。
大野教授は「推測でしかないが」と前置きしながらも、次のように分析してみせる。体内に病原体などの異物が侵入してきたとき、その特徴を覚えて攻撃、体外へ排除しようとする抗体がつくられる。体内へ侵入した異物を抗原と呼び、前立腺がんの場合、Tn抗原が発現するという。
「O型の人は、抗A抗体と抗B抗体を持っていますよね。抗A抗体はTn抗原と反応して、がん細胞にくっついて破壊するという報告もあるのです。そのためO型の再発リスクがいちばん低いのかもしれません」
前立腺がんと血液型の関係について、昨年には韓国でも大野教授と同様の結果を指摘する研究データが発表、報告されている。
「さらに数年分のデータが集まったら、結果が本当に正しいか、あらためて解析してみるかもしれません。
実は、血液型とがんに関する論文はたくさん発表されています。例えば、A型の人はがんになりやすい、AB型は大腸がんの予後がいい、皮膚がんはO型以外の人のほうがなりにくいなど。さまざまな論文を集めて、より高い見地から分析し、実際はどうか最終的に結論づけるわけです」
前立腺がんは男性に特有のがんで、近年は増加傾向にあるといわれている。国立がん研究センターによると、将来、胃がん、肺がんに次いで前立腺がんの順に患者の増加が予測されている。'20年には、男性がかかるがんの1位になると言われるほど。大野教授らの研究にも期待がかかる。
「前立腺がんのワクチンの研究では、抗A抗体を持っている人は治療成績がよかったという報告もある。血液型によって、ある程度、薬の効果をふるい分けられるようになったら、効きにくい薬の投与はなくなりますから、患者へのメリットになります。
ただ、がんのリスクを考えるうえでは、年齢や家族にがんを患った人がいるかどうかのほうが血液型よりも重要です」
すい臓がんにかかりやすいのは……
血液型に関する多数の論文に目を通し、分析や研究を行っているのが、長浜バイオ大学の永田宏教授。
「病気との関連でいうと、“A型が多いかな”と感じる論文は多いんですが、まだ断言できる段階ではないですね」
がんと血液型に関するさまざまな論文の中で、関連性が科学的に証明されているのは、すい臓がんと胃がんだけ。
「'09年にアメリカの国立がん研究所が“血液型によってすい臓がんにかかるリスクが異なる”と発表しています」
10万7000人を対象に、平均8・6年間にわたる大規模調査を行ったところ、血液型によって明確に差が出た。
「最もすい臓がんになりやすいのはB型で、なりにくいのはO型。O型のリスクを1としたとき、B型は1・72倍、AB型は1・51倍、A型は1・32倍、がんにかかりやすかった。この報告をきっかけに世界中で確認のための研究が行われ、これを支持する結果が続々と発表されています」
すい臓がんのリスク因子には、肥満や糖尿病、喫煙などがある。
「すい臓がんと喫煙の関係を調べた研究によると、喫煙者のリスクは非喫煙者の1・8倍です。O型とB型の差は、タバコと同じくらいあると言えます。しかしながら、血液型は変えられないので、O型以外の人は意識的に健康診断を受けることで早期発見・早期治療のチャンスが広がるでしょう」
A型は胃がんリスクが高い
一方、がんの患者数で男性1位、女性3位の胃がんについては、
「'00年に、イギリスの科学誌『ネイチャー』に、血液型と胃がんはわずかながら関係しているという論文の掲載がありました。ただ、すい臓がんの例が出たことで、胃がんについてもあらためて調べ直す動きが世界的に起こっています」
血液型と胃がんの関係について、スウェーデンの研究者たちが献血に参加した100万人以上を、10年間にわたって追跡調査し、その結果を発表している。
「データを解析した結果、O型に比べてA型は1・20倍、胃がんのリスクが高いことがわかりました。B型は0・92倍で若干リスクが低く、AB型は1・26倍とA型よりも高リスクだったものの、サンプル数の少なさから除外して考えるのが妥当でしょう」
さらに昨年、上海の研究者からも“B型はO型よりも胃がんになりにくい”という研究報告がなされている。
「10万人以上の規模のデータを解析した結果がいくつもあるので、信用していいだろうと私は思います」
そもそもがんの最大要因はヘリコバクター・ピロリという細菌、通称ピロリ菌の感染だといわれている。
「子どものときに感染し、今の60歳以上の人はかなりの確率で持っているといわれています」
ピロリ菌そのものに発がん能力があるわけではなく、ピロリ菌が胃炎を引き起こすため長く感染していると慢性的な胃炎が続き、胃粘膜が萎縮・変性して、最終的には胃がんになるというのが現在の学説だ。
「台湾の研究者からは、A型の人はピロリ菌の感染率が高く、O型を1とすると1・4倍くらいだという報告もあります」
厚生労働省の最新データによれば、日本人の死因1位は、不動のがん。2位に心疾患、4位に脳血管疾患と血管にかかわる病気がランクインしている。
「心疾患の中でいちばん死亡リスクが高いのは、急性心筋梗塞です。心筋に酸素を供給する冠動脈が血栓によって詰まり、詰まった先の心筋細胞は酸素の供給が絶たれて窒息死します。そして心臓全体の機能が低下し、命を落とす人も大勢います。
また、脳血管疾患は脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの総称で、最も多いのは脳梗塞。脳内で血栓が詰まってしまう病気です。詰まった先の脳細胞が酸素供給を絶たれて窒息死します」(永田教授、以下同)
つまり、2位の心疾患と4位の脳血管疾患は、主に血栓が招いた死と言える。そして、血栓のできやすさも血液型と関係があるというのだ。
「最初に論文が発表されたのは1969年。以後、世界中の研究者によって数多くの論文が発表され、20世紀末には“O型以外の人は、O型と比べてあらゆる血栓症のリスクが高い”と言われるようになりました」
永田教授によると、血栓ができる場所が静脈か、動脈かによって病気が変わってくるという。
「静脈だと、深部静脈血栓症や肺塞栓症(エコノミー症候群)が代表的です。静脈の血流はゆるやかなので、うっ血すると血管内で固まりやすい。特に、太ももの付け根あたりの静脈は血栓ができやすいんです」
脚に血栓ができ、静脈が塞がれてしまうと深部静脈血栓症になる。脚がパンパンになり、ひどくなると通常の2倍に腫れ上がることも。一方、肺塞栓症は、脚にできた血栓が肺に飛び火し、肺動脈を塞いでしまう病気だ。
「これらの病気は、最近の研究から“O型と比べ、O型以外の人は1・5倍前後かかるリスクが高い”と明らかになっています。5前出の“O型の血は止まりにくい(固まりにくい)”という高山先生の研究結果をはさむと、O型に血栓ができにくいことが理解しやすいと思います」
そして、動脈に血栓ができて詰まることで生じるのが、心筋梗塞や脳梗塞だ。
「動脈の血流は早いので、うっ血はしません。動脈にできる血栓の原因は、動脈硬化と不整脈といわれています。不整脈由来の場合は、静脈血栓症と同じくO型以外の血液にリスクが高いと予測されています。動脈硬化が原因の場合は、血液型より食事や生活習慣が影響していると考えられていますが、研究途上です」
〈PROFILE〉
高山渉 特任助教
医師。東京医科歯科大学医学部付属病院救命救急センター特任助教。日本外科学会外科専門医
大野芳正 教授
医学博士。東京医科大学泌尿器科学分野主任教授、泌尿器科診療科長。専門は、泌尿器悪性腫瘍(ロボット支援手術など)
永田宏 教授
理学修士、医学博士。長浜バイオ大学教授。医療情報システムの研究に従事したのち、鈴鹿医療科学大学教授を経て現職