「初めて北川(悦吏子)さんの作品に参加させていただいた、ドラマ『運命に、似た恋』という作品の打ち上げの際に、ご本人から “縁があったら(『半分、青い。』に)出ていただきたい”とおっしゃっていただけて。ただそのときは、朝ドラというブランドの大きさや、決して朝向きではない自分の顔面ということもあり(笑)、半分社交辞令としてとらえていました」
連続テレビ小説『半分、青い。』に、売れない映画監督・元住吉祥平として出演する斎藤工(36)。『ゲゲゲの女房』以来、8年ぶりの朝ドラ出演! 役柄と同じく、自身も監督として活躍しているからこそ、感じるものは大きい。
「僕がこれまでに見てきた、監督という職業の灰汁(あく)のような部分が、元住吉には投影されていると感じました。“監督”という響きは重厚ですが、実は日本の映画監督を取り巻く環境は、諸外国と比べても劣悪で。僕自身、映画を自分で撮らせていただく前は“どうして日本の映画監督たちは、才能もあるのに、学校の講師になってしまうんだろう”ってずっと思っていたんです」
しかし、そこには“そうせざるをえない”理由がーー。
「どれだけ映画がヒットしようが、現状のシステムでは、監督のもとにお金は、ほとんど入ってこないんです。だから、食べるため、次の作品を作るために、講師として教壇に立たれている方が多くいらっしゃって。元住吉を演じる中でも、日本の監督業界に対して僕が感じていた悲哀みたいなものが、自然と出てしまっていたように思います」
しかし初めて現場に来たとき、衝撃的なものを発見してしまったとか!?
「少し早く着いてしまったので、リハーサルを見学していたら、休憩室で気絶したように永野さんが眠っていらして (笑)。朝ドラのヒロインが背負っているものは、すさまじいなと感じました。でも、そういった休息と加速を繰り返す彼女から発せられる、成分のようなものが圧倒的で。永野芽郁さんという、みずみずしく輝く、才能の塊のような女優さんとの出会いは僕にとって、とても衝撃的でした」
今作では、間宮祥太朗演じる森山涼次を助監督として雇い、寝食をともにする仲だが、実際も……?
「間宮くんとは最近だと、ドラマ『BG~身辺警護人~』でもご一緒していて。もともと彼とは古い付き合いで、僕の監督作品も見てくれていたり、お互い映画好きだったり。だから、夫婦像にも共通する、阿吽(あうん)の呼吸のような2人の関係性は、彼とだから築けたと思います」
監督として作品にかかわって気づいたこと
今年公開の映画『blank13』で、初めて長編映画監督として作品を作り上げ、現在は役者として、そして監督としても作品にかかわることで、新たな気づきもあった。
「企画段階から作品完成までを1から10で表したら、役者は7くらいから参加する職業だということを、作り手側に回って初めて気づきました。でも作品を作り上げるためには、キャスティングをはじめ前段があって、かつ撮り終わっても編集という果てしない時間が必要で……。それに対して、役者だけをしていたときは、当たり前に感じていたことが、監督業を通じて、作品が完成する尊さを痛感しました」
役者としてではなく、元住吉と同様、監督として立っているとき、いちばん喜びを感じる瞬間は、
「僕の中では、キャスティングが決まった瞬間を、ひとつのゴールと位置づけていて。スタッフやキャストをはじめ、夢のような態勢が整った時点で、あとはもう僕がどう動かすということではないと思っています。彼らが生み出す化学反応によって、エモーショナルに展開されていく様子を、切り取っていく。ある意味、無責任かもしれないけど、人々の生の反応にゆだねて、僕は映画を作っていくんです」
〇〇は監督あるある!?
「役者としてではなく、監督として作品に取りかかっているとき、なぜなのか10円ハゲができるんです。作品が終わるとすぐ治るんですが、こないだは後頭部に3本、アディダスみたいなハゲができまして(笑)。そういった現象を元住吉という人物のビジュアルにも、と思ったんですが“それはちょっと……”と止められまして(笑)。もうひとつの現象の、白髪を採用していただきました。僕も含め、監督たちの多くが、部分白髪が増えるのは“監督あるある”らしいんです(笑)」