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 ようやく妊娠したけれど、無事に生まれてきてくれるだろうか。障がいの可能性がわかる検査を受けるべき? そんな不安や迷いを抱えて出産に臨む女性は少なくない。5年前に『新型出生前診断』(NIPT)が始まって以来、多くのメディアがこれを取り上げ、賛否両論の議論を巻き起こしている。

40歳以上の出産は高リスク

 小児科医・小児外科医として命の現場に立ち会ってきた松永正訓(ただし)先生は、出産をめぐる最近の傾向について、こう指摘する。

「30歳を越えてやっと第1子を授かる時代になって、高齢出産する親が極端に二分化しているように感じます。一方は、妊娠のチャンスが減っているからこそ、完璧なベビーを強く望む。もう一方は、せっかく授かったのだから、どんな命でも育てようと受け入れようとする

 高齢出産はさまざまなリスクを伴う。それは、前述したような母体への健康だけでなく、生まれてくる赤ちゃんの染色体異常として現れることもある。

 アメリカの医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に掲載された研究報告によれば、40歳で妊娠した女性から生まれた子どもは、ダウン症になる確率はおよそ100分の1と、20歳での出産に比べて12~16倍ほど高かった

「ダウン症は染色体異常によって起こります。そして染色体異常は、35歳を過ぎると発生する確率がグンと上がります。25歳での出産で476人に1人なのに対して、45歳では21人に1人という割合です。

 同じく先天性の異常に心臓の奇形、口唇口蓋裂(唇に裂け目が現れる状態の総称)などがありますが、これらの発生頻度は出産年齢に左右されません」

 赤ちゃんの染色体や遺伝子の異常を調べるには、妊娠中に検査するほか、体外受精した受精卵をチェックする『着床前診断』などの方法がある。こうした検査に対して、

「知ってもどうにもならないから受けない。運を天に任せて産む」(40代)という人もいれば、「陽性が出たら、育てる自信がないから中絶するかも」(30代)と不安がる人も。

結婚前にきちんと情報収集を

 検査を受けるか、受けないか。産むか、産まないか──。厳しく難しい選択が多くの場合、母となる女性たちに突きつけられる。

 NIPTは、母体への負担が少ない採血によって調べることが可能で、検査の精度も高い。費用は約20万円と高額だが、これまでに5万組を超える夫婦が受け、さらなる広がりをみせている。

「NIPTを実施できるのは本来、日本産婦人科学会が定めた医療機関のみ。遺伝的に異常が心配されたり、35歳以上の妊婦しか受けられない規定があります。それがいまでは、一般の病院が少々安い価格で、若い人にまで対象を広げている。少しタガがはずれてきている印象ですね」

 検査で陽性の診断が出た場合、確実な診断を受けるため『羊水検査』が必要になる。ただし、おなかに針を刺して羊水を採取するので、0・3%とはいえ流産のリスクがある。

 NIPTには「命の選別」という批判がある。

「染色体異常と診断を受けたうえで出産に至った人は、わずか3%という調査結果が出ています。もちろん流産してしまったケースもありますが、年齢を問わず、大多数が中絶を選んでいます。これはダウン症の子どもがどう生きるのか、どういう生活を送っているのか、実態をよく知らないことが大きい。だから不安になるのでしょう」

 障がいのある赤ちゃんは、ダウン症だけに限らない。NIPTを受けてもわからない障がいもあれば、分娩時のトラブルから、後天的に重度の障がいを負うこともある。

 生まれてくる命とどう向き合うべきか。

「それを夫婦で話し合うのは、不妊治療を始める段階では遅い。結婚してすぐ、できれば結婚を決める前に、きちんと情報を集めて知識を身につけ、考えておくことが大切です」


〈PROFILE〉
松永正訓 先生◎「松永クリニック小児科・小児外科」院長。医師、医学博士 。千葉大学医学部を卒業後、大学病院を中心に19年間にわたり、小児だけを専門に臨床、研究、医学教育を行う。虫垂炎から小児がんまで1800人への手術と、千葉大学で1500人への講義を行っている