「死んでいる職場」の管理職によく見られる6つの欠点とは? 写真はイメージです

 経営において本質的に大事なことは、たったひとつ。それは、会社が「生きている」ことである。

『現場力を鍛える』『見える化』など数多くの著作があり、経営コンサルタントとして100社を超える経営に関与してきた遠藤功氏は、「30年間の結論」として、会社や組織は「見た目の数字や業績」より、本質において「生きている」か「死んでいる」かが重要だという。

 30年の集大成として『生きている会社、死んでいる会社――「創造的新陳代謝」を生み出す10の基本原則』を上梓した遠藤氏に、「死んでいる職場」の管理職に共通する「6大欠点」について解説してもらう。

「死んでいる会社」の管理職は埋没してしまっている

 30年の長きにわたって、経営コンサルタントという仕事をやってきた。100社以上の会社と濃密なお付き合いをし、ここ10年近くは複数の会社の社外取締役、社外監査役としても経営に関与してきた。その経験を通して確信して言えることがひとつある。それは「会社は生きていなければならない」ということだ。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

「生きている会社」と「死んでいる会社」を分ける差はいくつかあるが、「死んでいる会社」では、部長や課長、係長といった管理職の力が発揮されていない。「生きている会社」の職場では、課長を中心とするミドルの活躍が光っているが、「死んでいる会社」ほど、ミドルが埋没してしまっている。

「死んでいる会社」には「KSI管理職」が多い。KSIとは「こなす」「さばく」「いなす」だ。

 目の前の仕事をこなし、社内の調整業務を巧みにさばき、役員などの上司を上手にいなす。一見仕事ができるように見えるが、何のチャレンジもしておらず、付加価値のある仕事をしていない。そんな管理職が闊歩する会社は、やがて間違いなく死んでいく。

 一方、「生きている会社」には「IKK管理職」が多数存在する。IKKとは「挑む」「変える」「行動する」。新たな挑戦や変革が自分のミッションだと自覚して、最前線で考え、工夫し、動き回っている。

 では、「死んでいる職場」の管理職によく見られる「6大欠点」とは、いったい何なのか。早速、紹介したい。

「死んでいる職場」の管理職に見られるひとつめの欠点は、「観察する力」がないことである。

管理職こそ「幅広い視野」が必要

【1】世界を「観察する力」がない

 管理職の多くは会社の最前線で仕事をしている。つまり、現場に最も近い存在、もしくは現場そのものである。

「生きている職場」の管理職は、いま現場で何が起きているのか、顧客は何を望んでいるのか、競争相手はどう動くかをつねに考えている。そのために、現場や顧客、競争相手をつぶさに「観察する力」を身につけている。

 これこそが最前線で仕事をする者の特権であり、最大の強みである。しかし、「死んでいる職場」の管理職は、往々にして、自分を取り巻く世界を観察する力がまるでなく、現場にただいるだけだ。上司の顔色ばかり観察している。

「現場にいる」ことと「現場を観る」ことは同じではない。「死んでいる職場」ほど、管理職に「観察する力」が足りないのである。

【2】会社と同質化して「跳ぶ力」がない

 もうひとつ、「生きている会社」の管理職ほど、「跳ぶ力」をもっている。

 そもそも管理職に求められるのは、会社の常識や過去の延長線上にはない不連続かつ大胆な発想である。「生きている職場」の管理職ほど、現場で観察した気付きや閃きを仕事に活かし、新たな発想で新たな価値を生み出している。

 しかし、「死んでいる職場」の管理職ほど、会社に閉じこもり、会社の常識に染まり、会社と同質化してしまいがちだ。つまり、「大胆な仮説」へと昇華する「跳ぶ力」が決定的に足りないのである。

「死んでいる職場」の管理職に見られる3つめの欠点は、部長や役員など自分の上司に対して「伝える力」がないことである。

上司や抵抗勢力に「立ち向かう姿勢」が重要

【3】淡々とした説明ばかりで、上司に「伝える力」がない

 管理職はチームリーダーとしてチームを動かすと同時に、上司である役員たちを説得し、理解と了承、支援を得なくてはならない。

 ユニークなアイデアやコンセプトを思いついても、それが相手に伝わり、理解、共感されなければ、物事を前に進めることはできない。

「生きている職場」の管理職は「伝える力」を発揮し、説得力のある事実をちりばめた大きなストーリーをつくることができる。

 しかしながら、「死んでいる職場」の「伝える力」のない管理職ほど、表層的な理屈や自説を淡々と述べるだけで終わってしまうのだ。

【4】組織の反対意見を恐れ「はみ出る力」がない

 次に、「死んでいる職場」の管理職に足りない力は、「はみ出る力」である。

 この「はみ出る力」は、創造や変革を行うときに必ずあらわれる「抵抗勢力という敵」に立ち向かうときに不可欠な力である。

「生きている職場」の管理職は、この「はみ出る力」をフルに発揮して、組織内を縦横無尽に動き回る。そうすることで創造や変革の妨げとなる「敵」を「味方」や「中立」に変えていくのだ。

 しかし、「死んでいる職場」の管理職に限って、反対意見を恐れて、自分が直接関係する部門からはみ出ようとしない。狭い世界に閉じこもったままでは、創造も変革も起こせるはずもない。

「死んでいる職場」の管理職に見られるもうひとつの欠点は、部下の能力を見抜けず、課などの「チームを束ねる力」がないことである。

【5】部下の能力を見抜けず、「チームを束ねる力」がない

 部下の能力とやる気は多様である。管理職は部下一人ひとりの能力、特性を見抜き、適材適所に配置して活かさなければならない。

「生きている職場」の管理職には、「チームの力」を最大限に引き出すために、部下を「束ねる力」がある。

 ところが、「死んでいる職場」の管理職ほど、職場がたんなる部下の「寄せ集め」になってしまっている。ひとつのチームとして思いを共有することも、機能させることもできない。

 そのため、「死んでいる職場」のチームはお互いの仕事に関心を持たず、一体感が生まれないのだ。

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【6】すぐにあきらめて「粘る力」がない

 最後の「死んでいる職場」の管理職の欠点は「粘る力」がないことである。

「生きている職場」の管理職は、困難な問題に直面した際も、決してあきらめることなく、最後まで粘ることができるが、「死んでいる職場」の管理職は「粘る力」がないので、くらいつくこともなく、すぐにあきらめてしまう。

 部下は、管理職の行動を規範としている。「粘る力」がない管理職のもとでは、部下にも「粘る力」が育たないため、職場が死んでいくのである。

管理職が変われば、「生きている職場」になれる

 可能性を秘めている管理職たちに火をつけ、覚醒させることができるかどうか。「生きている会社」へと再生するための鍵は、課長をはじめとした管理職の活性化にある。課などのチームを率いる管理職こそが、「創造」と「変革」の推進エンジンでなくてはならない。

 会社のエンジンたるべき管理職に必要なのは「突破する力」だ。創造や変革は、「突破」がなければ絶対に生まれない。

 みなさんの職場の管理職は「生きている」だろうか。もしいま「死んでいる」管理職でも、本記事で紹介した「6大欠点」を克服できれば、必ず「生きている職場」「生きている会社」に変わることができると私は確信している。


遠藤 功(えんどう いさお)ローランド・ベルガー日本法人会長 早稲田大学商学部卒業、米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機株式会社、米系戦略コンサルティング会社を経て、現職。2016年3月、13年間教鞭を執った早稲田大学ビジネススクール教授を退任。著書に、『現場力を鍛える』『見える化』『現場論』(いずれも東洋経済新報社)、『新幹線お掃除の天使たち』(あさ出版)などベストセラー多数。