テレビを見ていて「ん? 今、なんかモヤモヤした……」と思うことはないだろうか。“ながら見”してたら流せてしまうが、ふとその部分だけを引っ張り出してみると、女に対してものすごく無神経な言動だったり、「これはいかがなものか!」と思うことだったり。あるいは「気にするべきはそこじゃないよね〜」とツッコミを入れたくなるような案件も。これを、Jアラートならぬ「オンナアラート」と呼ぶことにする。(コラムニスト・吉田潮)

波瑠

 

オンナアラート #16 ドラマ『サバイバル・ウエディング』

 猛暑だと、アラート鳴らすほどのエネルギーが残らない。

 夏ドラマもなんだかひどいことになっている。とりあえず、最もイラっとさせるヒロインが頑張っているドラマに、「頑張りどころはそこじゃない」というアラートを鳴らしておこう。波瑠主演『サバイバル・ウェディング』(日本テレビ系・毎週土曜夜10時放送)だ。

 憧れの先輩と4年付き合って、結婚を決めて、寿退社した途端に、婚約破棄された編集者を演じるのが波瑠だ。もう設定の段階からアラート鳴らしてよかですか? 憧れの先輩が風間俊介という点で、目が点。え? 何かの間違いでは? 

 そこそこ大手の出版社の編集者が寿退社? 出版業界という泥舟から脱出という意味ならこのご時世わからんでもないが、寿退社なんて。あまりにノープラン、かつ、のんきな話でいいのか? 

 そして、ベッドには風間が連れこんだ他の女のパンツ(自己主張が強そうな)が置き土産って……、どんだけボンクラなのか。しかも、そんなクズ彼氏である風間に、引き続きご執心ときたもんだ。

 プライドもへったくれもない、残念なヒロインに、驚いた。「ここ数年のドラマ業界が必死で築き上げてきた、共感を呼ぶ、主語が自分のヒロイン」をまったく無視するのか、日テレは。真逆にして、炎上狙いなのか。ちょっとやってる意味がよくわからない。

上から目線のミスター・スポックが説教&うんちく

 そんな波瑠に、再雇用の話を持ち掛けたのが、女性誌編集長の伊勢谷友介。謎のドングリヘアで一瞬ミスター・スポック風だが、威厳はまったくない。

「体当たり婚活記事を書いて、半年以内に結婚しろ。それが復職の条件だ」という。いや、この文言の頭に「オレの言うことを聞け。オレの言うとおりにしろ」というのがつく。はぁ?

 性格の悪い男が上から目線で、女に恋愛指南をするのは、ドラマでよくある構図なんだけど、伊勢谷には憐れみしかない。自分大好き、ハイブランド大好きで、ブランドの蘊蓄(うんちく)だのヒストリーだのを絡めるのだが、人が死ぬほどの暑い夏に、今一番どうでもいい話を延々と。滔々(とうとう)と。

 元彼に嫉妬させるためには突き放せ、という前近代的作戦以前に、「オレ、いい男」という前提もまったくふに落ちない。元彼に都合よく使われて、うっかりセックスまでしちゃった波瑠に「自分をもっと大切にして、自分を愛せ」だってさ。女性限定で貞操教育しかできない老害教師か?

 写真やアニメーションを駆使し、蘊蓄を解説していくドングリ伊勢谷は、なんというか、ゆるキャラのようなものだ。なにか説得力のある理論が入っていれば別だが、マジでたいしたことを言ってない。どこかで聞いたような手あかイズムオンリー。

『LOVE理論』(テレビ東京系)で中村獅童や片岡愛之助が吼(ほ)えて炸裂するほどのインパクトもなければ、『私結婚できないんじゃなくて、しないんです』(TBS系)の藤木直人ほどの切れ味もない。

 観るものに共感と感動を産む解説者のお手本としては、子供向けの教育番組『まんがはじめて物語』(TBS系)のモグタンに学んでほしい。あ、古いね。40代以上しかわからないね。ウィキペディアで調べてくれ。

本当のサバイバルウェディングとは

 ドングリ伊勢谷は正直、どうでもいい。むしろ、波瑠のプライドゼロの生きざまにイラっとするし、アラートが鳴る。完全なるパワハラであり、ブラック上司に対して、あらがうでもなく、盲従する波瑠に、何を見出だせばいいのか。

 もともと波瑠は、B級グルメが得意な週刊誌の編集者だ。それが突如、女性ファッション誌の編集部に入って、困惑するのはわからんでもない。

 でも「ずぼらでダサくて背脂こってりメシしか知らない体育会系」と「元彼氏の袖のとれかけたボタンを直してあげる甲斐甲斐しい女」がいっしょくたになっていて、どんな女なのかちっとも見えてこない。

 さらに、広告代理店のイケメン営業王子・吉沢亮の登場で、波瑠のキャラクターは混乱を極める。

 自意識過剰で意味不明な行動をとったり、勝手な妄想でドツボにハマったり、揚句の果てには一緒に帰るバスの中で、吉沢の肩を借りて寝こけたり。ドジっ娘に不思議ちゃん、腹黒女が完全同居。

 あ、多重人格という設定なのかしら? 結婚したいのか、したくないのか、がっつり仕事をしたいのか、したくないのか。芯がもう少しはっきり見えてこないと、共感は決して起こらない。

 変人の言いなりで結婚を目指すも、婚活パーティーはイヤだと拒否。本気で結婚したいと願う女性を、結果的に馬鹿にしているような気もする。文字通り、生き延びるためだけの結婚なら、合理的に進めろや、と思う。波瑠ほどのスペックならどうにでもなるじゃん。

 真剣に結婚のためにサバイバルする女性の話を、この前、友人から聞いたばかりなので、このドラマの設定がちゃんちゃら甘っちょろく感じる。すごいよ。ガチで狙いを定めている女性は、計画的かつ力ずくで相手の外堀からじわじわと埋めていくからね。

 人のよさそうな温厚な人間をダシに使ったり、周囲の人間を巻き込んでまで、自分の幸せを勝ち取ろうとするからね。リアルサバイバルウェディング。そっちのほうがよっぽどドラマチックで、見守りたいと思っちゃう。


吉田潮(よしだ・うしお)◎コラムニスト 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。テレビ『新・フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターも務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)ほか多数。新刊『産まないことは「逃げ」ですか?』に登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/