笑顔で運ばれた熱々の鉄板には、牛肉100%の大きなまんまるハンバーグ。スタッフが華麗に切り分けると、赤い断面から肉汁がじゅわ〜。ソースがかけられると、煙とかぐわしい香りが立ち込めるーー。『げんこつハンバーグ』は、『炭焼きレストランさわやか』の最強メニューだ。
「げんこつは250gなんですが、200gの『おにぎりハンバーグ』も合わせると、お客様の約8割が注文しますね。デミグラスソースもありますが、9割がオニオンソースです」
とは富田玲社長。全31店舗はすべて静岡県にある。
大物芸能人も絶賛し人気が拡大
「大変心苦しいんですが、今年のゴールデンウイークの御殿場店では、8時間待ちとなりました」
15年ほど前、女優・長澤まさみがテレビで紹介して以来、県外からの客が急増。ツイッターやインスタグラムでの“さわやか自慢”が、さらなる客を呼び込み続けている。開店2時間前に駐車場が埋まってしまうこともある。芸能人の来店も頻繁だ。
他県からの出店ラブコールは日々殺到しているが、すべて断っている。なぜだろうか?
「創業の精神を大切にしているからです」
創業者の富田重之会長はサラリーマンをしていた26歳のときに結核を患う。
「医師から“もう仕事はできない”と宣告され、10年間、人生で最もいい時期を病床で過ごしました」
やり場のなさから“自分がこんなに苦しんでるのは親のせいだ”と恨み続ける日々。だが病状が改善するにつれ、気づく。
「世界でいちばん不幸だと思っていたけど、そんな自分を見ていちばんつらい思いをしていたのは親だ、と」
そして外に出てみると空の青さ、太陽の光の暖かさ、風の気持ちよさ……すべてが今までとは違って感じられた。
「“深い親の愛情”と“自然の恵み”によって自分は生かされているーー。猛烈に感動したそうです。そして、大好きな食を通してこの感動を、自分を育ててくれた静岡で、静岡の人たちに伝えたい。そんなさわやかな人間になりたいと、40歳で起業しました」
“天使からの手紙”に救われた
1977年に『コーヒーショップさわやか』1号店をオープン。げんこつハンバーグの原型(190g)が好評で、多忙な日々。店舗数も急激に増え、“10年後には70店舗”という目標を掲げる。日本中がバブルに沸いていたなか、1通の手紙が届く。
「“大好きだったお店をどうかもう1度作ってください”。拡大路線によるサービス低下の指摘でした」
その手紙を“天使からの手紙”と名づけ、創業の精神に立ち返ったという。
「げんこつ、おにぎりが誕生したのもこのころ。げんこつはいたずらをした子に“こらっ”と落とす父親の愛、おにぎりは母親の愛情料理を意味しています」
ハンバーグ専用の自社工場を建て、あらゆる段階で徹底チェックした牛肉は、全店舗に毎日配送されている。よって、物流面でも県外出店は難しいという。
「安全とおいしさを徹底追求しています。食は生命を支える原点だからです。店舗数や売り上げで1番になろうなんて思っていません。東日本大震災後、福島の仮設住宅で暮らす若者が“さわやかのげんこつハンバーグを食べると勇気が出ます。明日から頑張れます!”と言ってくれて。うれしかったですね。
来てくれたお客様がどこのレストランよりも楽しく元気になって“明日も頑張ろう!”と思えること。それがわれわれの役割だと思っています」
※表示価格はすべて税込みです