“食べても麺が減らない”“むしろ増えている”。そんなふうにネットをざわつかせているうどんをご存じだろうか? 福岡・佐賀に18店舗を構える『釜揚げ 牧のうどん』だ。“マッキー”の愛称で親しまれ、うどん大国・福岡を代表するお店のひとつ。
ゆで上がりに40分!?
創業は1973年、畑中製麺所の新規事業として始まった。
「福岡のうどんは、麺にコシがなくやわらかいのが特徴。ウチは湯がいたうどんを水で締めずに提供しています。だから麺がだしをどんどん吸い込んでいく。ゆっくり食べていると麺が増えているように見えます」
と、笑うのは畑中俊弘社長。独自の上質でやわらかな麺だからこそ、なせるマジック! ゆで加減は軟めん(40分)、中めん(35分)、硬めん(10分)から選ぶことができる。ゆで上がるまで、そんなに時間がかかるの!?
「注文から30分も待ってもらうわけにはいかない。そのためお客さんの数に関係なく、常に一定量のうどんをゆでています。ゆでて60分を過ぎたうどんは、“超軟めん”としてお持ち帰り用にパッケージしています。やわらかいうどんが根づいたこの地だからこそ可能な商売。ほかのエリアでまねしたら廃棄だらけで、すぐ倒産でしょうね(笑)」
いつでも好みのやわらかさ。スープがしみ込んだ麺は、さらにモッチモチに。
「スープは利尻昆布やかつお節をベースに作っています。だし用の利尻昆布の国内総消費量の約7%は、牧のうどんのだしで使われているほど(笑)。ウチのスープは、昆布が命。このだしがあるからこそ、肉やキムチといった人気トッピングを入れたときにもおいしく融和するんです」
スープは毎日2回、本店で作られ、各店舗に輸送される。一括で調理するため品質のバラつきはない。
「配送中に風味やうまみが損なわれてしまうため、本店から90分圏内の立地じゃないと出店できない」
従業員にやさしい“超ホワイト企業”
スープにこだわるからこそ門外不出の牧のうどん。本店のある糸島市を中心に、福岡・佐賀のみの展開だが、その味を求める者は後を絶たない。7年連続で売り上げは増加しているうえ、売上総利益の6割を人件費に充てている。儲けをしっかりとスタッフに還元する優良企業でもある。
「本店のランチタイムは1時間で200食も出ますから、従業員は大変です。頑張って働いて、結果も伴っているのだから、毎年の昇給やボーナスアップは当然。いいものを作るためには、いいスタッフとモノが必要ですから」
60歳以下のスタッフは無期雇用、希望者は法的条件さえクリアしていれば誰でも正規雇用にしている。60歳を過ぎても再雇用。社員旅行では子ども分の費用まで負担するなど、うどんのようなホワイトっぷりだ。
「牧のうどんは、そこにあるものをいかし続けてきて大きくなりました。製麺所というバックボーン、やわらかな麺に親しみのある土地柄、天然素材をベースにしたスープ。すでにあるものをどうやったらいかせるか考えた結果が、他店との差別化につながりました」
無理に多角化しなくても、成長できる姿がある。従業員にお金を使うことも、まさしく今あるものをいかすことにほかならない。
「いつまでこの人件費と材料費を負担できるか不安ですが(笑)、この哲学で大きくなった。いい意味で、変わらない牧のうどんでありたいですね」
※表示価格はすべて税込みです