事故現場のビルには車の赤い塗料がまだ残っていた

 神奈川県茅ヶ崎市の国道1号の交差点で、90歳(当時)のA子さんが運転する乗用車が突っ込み、1人が死亡、3人が重軽傷を負った交通事故。

 昼下がりの交差点が悲鳴に包まれた5月28日から約2か月が経過したが、現場近くの壁には今も、A子さんが運転していた赤い車の塗料が残り、事故の激しさを伝えている。

 そして、事故直後の多さではないが、今も花が手向けられている。

ボケてはいないが足が悪い

 事故直後は、左右をよく確認して信号を渡る人が見かけられたが、のど元過ぎれば何とやらの常で、

「元どおり戻りましたね。事故前と特に変わっていません」

 と地元のタクシー運転手。 

 事故を起こした赤い車は、地元で医院を開業していたA子さんの夫の形見で、ほかにも普段使いの軽自動車も所有。近所では「車が好きなおばあちゃん」として知られていた。

 事故は被害者の人生を奪うと同時に、A子さんの周囲の人間関係も変えてしまった。

 家族ぐるみで50年来の付き合いがある男性は、

「入院したと聞きましたが、それっきり。本人も(同居している開業医の)息子さんにも(事故後)会っていません。こちらから連絡するのも……」

 A子さんの知人男性(60代)は、

「この間、息子さんに会ったときに、“お母さんはどうしてるの?”って聞いたんですよ。そうしたら“その話はしないでくれ”と断られました」

 と、今も過敏になっている加害者家族の様子を伝えた。

 90歳のA子さんの普段の様子は、

「歩いてゴミ出しはしていましたけど、足元がおぼつかないような年相応の歩き方でした」(近所に住む70代男性)

「ボケていないことは100%。あいさつもしますし、電話で用件を伝えればしっかり伝言されている」(前出・知人男性)

「以前はワンちゃんの散歩とかしていましたけど、よろよろでした。ワンちゃんに引っ張られている、そんな印象でした」(近所に住む70代女性)

 と、おぼつかない様子もちらほら。

 事故直前、話をしたという女性(84)は、

「A子さんの家の近くにある郵便局でお会いしたんです。そのときに“私はここまで歩くのがやっとなの。足が悪くて”と言っていました」

 亡くなったB子さん(当時57)は、茅ヶ崎市の単身者向けアパートで、3年以上前からひとり暮らしをしていた。

「亡くなってすぐ、女性の弟さんが“お騒がせしています”とあいさつに見えました。荷物はまだ部屋の中で、引っ越しも行われておらず、家賃も支払われているようです」

 とアパートの住人が話す。

 A子さんの息子を訪ねると「具合が悪いので、自宅療養しています。今は退院したばかりです」と母親の近況を伝える。A子さんは事故2日後に釈放され、在宅で捜査が進められているが、

「(裁判は)これからです。(被害者への)謝罪は今、弁護士さんと話し合っているところです」

 父親から受け継いだ医院は、事故後しばらくしてから再開しているという。

 高齢ドライバーによる暴走、逆走事故が後を絶たない。あのとき、免許証を自主返納しておけば……。

 運転者にも家族にも早めの決断が求められる。