古舘プロジェクト所属の鮫肌文殊、山名宏和、樋口卓治という3人の現役バリバリの放送作家が、日々の仕事の中で見聞きした今旬なタレントから裏方まで、TV業界の偉人、怪人、変人の皆さんを毎回1人ピックアップ。勝手に称えまくって表彰していきます。第54回は樋口卓治が担当します。

『カメラを止めるな!』

 今回、私が勝手に表彰するのは大ヒット映画『カメラを止めるな!』に関わったスタッフ&俳優さんたちである。

映画『カメラを止めるな!』公式HPより

 今、観客はゾンビのごとく、笑いと感動に感染し、次なる観客たちが映画を観るたびゾンビは増殖し続けている。

 私もゾンビの1人で、周りの人間に「とにかく観てみて! 観たら話そう!」と声をかけている。

 映画の中身もさることながら、観客が一体となった時、どんな気分だったかとか、映画を観てどんな気持ちになったか、波紋のように話したいことは膨らんでいく。

 映画を観終えて、「こんなことしたくてテレビの世界に飛び込んだんだよなー!」
という感覚が襲ってきた。

 昔、ちょくちょくディレクターと飲みながら映画の話をすることがあった。酔っ払いながらディレクターはスクリーンで観た興奮を語り、「タランティーノにやられた!」「スピルバーグすげー!」とハリウッドに真顔で嫉妬していた。この熱い想いは当時のVTRに溢れ出ていた。

 バジェットやスケールは違えど、面白い作品を作る気持ちやガッツに憧れていたのだ。この時、企画はパクっちゃいけないが、テンションはパクるべきだと教わった。

『カメラを止めるな!』に話を戻すと、作品として超面白い。まだ観てない人は絶対にビデオやスマホではなく映画館に行き、みんなで笑ったり感動したりすることを薦める。

 中身に触れると素直に楽しめなくなるので割愛するとして、今回、書きたかったのはノリの話だ。テレビやエンタメを作るのに大事なノリである。

 上田慎一郎監督がこの企画を思いついた時のノリ。緻密に脚本にした時のノリ、それをスタッフや役者が読んだ時のノリ、実際にこんなことできるのかと準備をした時のノリ、そしていざ撮影に突入した時のノリ。このノリがバトンのように繋がったことにこの映画の面白さはあると思う。

 上映後、上田監督のトークがあった。その時、「一度、ワンカメで撮ることを諦めようとしたことがあるんです」と言った。奇想天外なことを映像にするのは物凄く大変で、発案者の心が折れそうになったのだ。その時、上田監督はスタッフに「何言ってるんですか、諦めずにやりましょうよ!」と言われたという。想像だが、スタッフが脚本を読んだ時の感動が、このノリを作ったのだと思う。

 映画を撮り終え、試写するまでのノリが織りなすかけがえのない時間が羨ましい。それを体験したスタッフ、役者に嫉妬する。

 この映画に携わった人たちはこの後、このノリを胸にまたいい作品を作るだろう。この映画を観て感動した観客の中から新たなノリが生まれるかもしれない。

 そして我々、テレビに携わる人たちは、このノリをしかと受け止め超面白い番組を作っていくのがシェアすることだと思う。

 シェアは、感動に感化され、もっと感動する作品を作ることなのだ。

 どこかで、映画を観たお調子者のディレクターが、飲み屋で、「くそー、上田慎一郎、今に見てろ!」と素敵なくだを巻いていてくれないかな。

 ヒット作品は誰かを奮い立たせるパワーがある。

『カメラを止めるな!』に参加した役者のみなさん、ノリのいいスタッフと仕事をしてドンドンいい作品に出会ってください。


<プロフィール>
樋口卓治(ひぐち・たくじ)
古舘プロジェクト所属。『中居正広の金曜のスマイルたちへ』『ぴったんこカン・カン』『Qさま!!』『池上彰のニュースそうだったのか!!』『日本人のおなまえっ!』などのバラエティー番組を手がける。また小説『ボクの妻と結婚してください。』を上梓し、2016年に織田裕二主演で映画化された。著書に『もう一度、お父さんと呼んでくれ。』『続・ボクの妻と結婚してください。』。最新刊は『ファミリーラブストーリー』(講談社文庫)。