華やかな芸能界をはじめ、一般社会にも潜むたくさんの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」。持ち前の鋭い観察眼と深読み力に定評があるライターの仁科友里さんが、「ヤバジョ」の魅力をひもといていきます。

紗栄子

第4回 紗栄子

 若い方はご存知ないかもしれませんが、女性週刊誌に毎週のように松田聖子の名前が踊っていた時代がありました。

 松田聖子といえば昭和を代表する国民的アイドルですが、女性の生き方を大きく変えた存在であるという見方をされることもあります。トップアイドル・郷ひろみとは結婚間近と騒がれましたが、破局会見の涙も乾かぬうちに、人気俳優・神田正輝と婚約。結婚しても引退せず、夫と幼い子どもを日本に残してアメリカ進出までしてしまう。アメリカで知り合った白人男性と不倫(のちにこの男性は暴露本を出版しています)、近藤真彦とのニューヨークでの密会を写真週刊誌に撮られたりしました。

 家庭を顧みず仕事をし、不倫までする。マスコミは言語道断とばかりに、聖子を猛バッシングしますが、意外なことに女性からの人気は衰えなかったのです。

「もし夫が女房子どもを置いて、アメリカ進出といったら、“それでこそ男だ”とほめられたはず。女が同じことをすると叩くのは、女性差別だ」

「オトコがしたいこと(不倫)は、オンナだってしたいんだ」

 といった具合に、女性のオピニオンリーダーたちが、一斉に聖子を擁護したのです。

 ある女性論客は、聖子のすごさを「少女の頃に憧れていたスターと本当に寝たところ」と書きました(聖子はデビュー前から郷ひろみのファンだったそうです)。確かに、憧れのスターと交際できるとは強運ですが、見方を変えるとそうでもないという気もするのです。

 聖子もひろみもトップスターです。’80年代と言えば、歌番組全盛の時代ですから、チャートの上位にいる二人が顔を合わせることが多くてもおかしくありません。女子部門と男子部門のトップがくっつくのは、フツウではないでしょうか。

 なので、北海道日本ハムファイターズ(当時)のダルビッシュ有選手とタレント・紗栄子が交際3か月で結婚と妊娠を発表した時、私はなんていい話なんだろうと思ったのです。ダルビッシュ選手は高校時代から活躍を期待されるピッチャーでしたが、それに比べると、紗栄子は芸能人とはいえ、知名度は高いとは言えません。そんな紗栄子がダルビッシュのような大物と結婚するなんて、夢のある話ではありませんか。

紗栄子バッシングの幕開け

 しかし、どうも世の中はそう解釈しなかったようで、紗栄子バッシングが始まります。作家の岩井志麻子センセイは『5時に夢中!』(MXテレビ)で紗栄子を「種どろぼう」と名付けましたが、これは世間の気持ちを代弁したものかもしれません。「ダルビッシュの優秀な遺伝子を手に入れたことで、自分の地位を安泰にしている」と言いたかったのでしょう。ダルビッシュと結婚するため、無理やり妊娠に持ち込んだという、紗栄子を「ヤバい女」扱いする記事もちょくちょく週刊誌で見かけました。

 2児をもうけたものの、紗栄子は離婚をし、アンチは溜飲を下げました。しかし、離婚から3年後にスタートトゥデイ社長の前澤友作氏が紗栄子との交際を宣言します。前澤氏と言えば総資産3000億円超えともいわれるザ・セレブ。紗栄子は「カネに対する嗅覚がすごい」と、またしてもヤバい女扱いされていましたが、これは完全なやっかみでしょう。カップルというのは双方に交際の意思がなければ成立しないもの。富豪の心をつかむ何かをきっちり紗栄子が提供しているからこそ、交際が成り立っているのです。

 やっぱり紗栄子はヤバい女なんかじゃない。今、その思いを強くしています。紗栄子との関係を清算した前澤氏は、現在は女優の剛力彩芽と交際していますが、このカップルは世間の冷ややかな視線にもめげず、交際アピールに余念がありません。

 前澤氏は清純派女優と交際できて舞い上がっている、剛力はカネのチカラに丸めこまれたと見る人もいるようですが、私はそうは思いません。一代であれだけの財をなした前澤氏と、生き馬の目を抜く芸能界に長くいる剛力が、そんな近視眼的なことをするとは思えないのです。

 プロ野球球団を欲しいと公言している前澤氏ですが、球団が果たす企業の宣伝効果というのは、とても大きいそうです。大企業が球団を持つ理由もそこにあるのでしょう。新興勢力である前澤氏は知名度の点では、大企業にまだ及ばない部分があります。剛力との交際をSNSに上げればマスコミが食いつくことは目に見えていますから、無料の宣伝で知名度アップと見ることもできるでしょう。剛力にしても、交際を定着化させることで、結婚の外堀を埋めていると見ることもできます。交際アピールは、双方にメリットがあるのです。

前澤氏が剛力との交際で失ったもの

 しかし、前澤氏は剛力との交際で失ったものもあります。それは自身の神秘性です。世の中は「勝てば官軍」ですから、前澤氏のように成功した人は人格も優れているから、事業が成功したと考えがちです。しかし、バッシングに耐え切れなくなったのか、前澤氏は「一度もお会いしたことのない人達が、僕がSNSに投降した画像や言葉を好き勝手に使い、テレビなどの公共放送で言いたい放題言っているようで、誠にご苦労様です」と皮肉まじりのツイートをしていました。知りもしない人にケチをつけられて不愉快なことは想像に難くないのですが、わざわざ反論するあたり、ちょっと粘着質というか、子どもっぽい一面があるようにも感じられます。周囲にいるのはイエスマンばかりで、いつもほめられているのかもしれません。

 紗栄子と交際時は紗栄子がサンドバッグになって叩かれることで、カリスマ実業家・前澤氏のイメージを守っていたから、前澤氏の神秘性が保たれていたのかもしれません。ヤバい女どころか、なんて懐の深い女でしょう。

 前澤氏と剛力の交際が世間を騒がせる中、紗栄子は豪雨被害にあった岡山県を訪問し、ボランティア活動をしたことを報告しました。前澤氏と交際中もボランティアをしていましたが、破局後も続けていることから考えると、自分の主義の1つなのでしょう。

 これまでの紗栄子を振り返ってみると、常に自分の意志を持って行動しているように感じられます。オオモノであろうと好きならモノにし、それが原因で叩かれても言い訳もしません。金持ちと付き合ってもキャラ変更をすることもありません。別れる時にもモメません。To doリストにチェックマークを入れるかのように、やりたいことを次々自分でかなえていく手腕は、もしかしたら松田聖子より上かもしれません。

 紗栄子をヤバいと感じる人は、人目を気にしすぎたり、自分が決めた序列やルールに縛られていないか、考えてみてもいいかもしれません。


<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に答えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。他に、男性向け恋愛本『確実にモテる世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」。