夏休みが終わり、もうじき2学期。新学期に心躍らせる児童や生徒がいる一方で、学校に心が押しつぶされてしまう児童や生徒もいる。
8月下旬から9月上旬は“魔の時”
自殺総合対策推進センターは先ごろ《8月下旬、9月上旬に自殺者が多く、8月下旬に自殺者数のピークが見られる》と発表。教育関係者や保護者などに危機感を訴えた。
2006年から'15年までの10年間の数字を見ると、8月下旬から9月上旬にかけてが“魔の時”で、小中高生計275人が自ら命を絶った。
「学校が嫌いなのであれば積極的に逃げるべき。命を絶っては元も子もないですから」
そう訴えるのは、不登校児を持つ親の相談を受ける『寄り添いを考える会』代表の廣田悠大さん(23)。自身も中学時代、いじめで不登校になった経験がある。
「居場所さえあれば子どもは死なずにすむと思います。自分がいる場所がないと思った瞬間に、子どもは死んでしまいたくなるからです」
新学期の朝、重たい心を引きずる子どもに'15年、鎌倉図書館がツイッターで、こう呼びかけた。
《もうすぐ二学期。学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい。マンガもライトノベルもあるよ。一日いても誰も何も言わないよ。9月から学校へ行くくらいなら死んじゃおうと思ったら、逃げ場所に図書館も思い出してね》
結果、10万に及ぶリツイート。ところが同市の教育委員会では、学校に行かなくてもいいと受け取られかねないと削除が検討されたという。好意的な意見に削除は免れたが、
「通常の業務の中で、図書館には避難場所という役割もあるということをお伝えしただけ。継続的に呼びかけていくつもりはありません」
と、同館の青木達哉館長。
'17年には上野動物園が、ツイッターでこう呼びかけた。
《学校に行きたくないと思い悩んでいるみなさんへ アメリカバクは敵から逃げる時は、一目散に水の中へ飛び込みます。逃げる時に誰かの許可はいりません。脇目も振らず逃げて下さい。もし逃げ場所がなければ、動物園にいらっしゃい(後略)》
その真意を同園担当者は、
「当時の担当者が動物にたとえ、逃げることが大切だと伝えたということです。今後も呼びかけていくかどうか、現時点では何ともいえません」
と、案外そっけない。
しかし前出・廣田さんは、
「公共施設が逃げ場になると知っていれば、そこに行くことができる。それぞれの事情はあるでしょうが、できれば積極的に発信していただきたい。図書館や動物園などが駆け込み寺になるんだと知っているだけでも、全然違います」
と期待を寄せる。
学校に行かなくても子どもはちゃんと育つ
「フィンランドでは不登校の子どもたちの居場所が図書館。そこにソーシャルワーカーを配置しサポートしていくんです。日本でも公的な施設に、そういうオプションをつけることで居場所になればいい」
そう話すのは、学校外で子どもを多様な学びや遊びとつなげるプロジェクト『多様な学びプロジェクト』代表の生駒知里さん(40)だ。当初の勢いを失った公共施設の消極姿勢に理解を示し、
「日本の社会全体が、学校以外の選択肢をオーケーとしてないと思うんです。公にオーケーと言うと、叩かれてしまう雰囲気があるため発信をためらう。ポツポツと出てきてはいますが、まだ少数派です」
生駒さんは小6の長男を筆頭に6人の子どもを育てているが、
「上3人は不登校です。次男と三男は週に1~3日ほど行ったりするので、わが家ではハイブリッドスクーラーと呼んでいます」
と明るく受け止める。
最初は子どもの不登校に悩み、夫婦仲も悪化したという。
「同じように悩んでいる親や子どもたちを支援できないかと思い始めました」
昨春から始めたのが、自宅以外で気軽に子どもが立ち寄れる場所を作る事業=『多様な学びプロジェクト』だ。
「園庭を開放している保育園やフリースクール、工作クラブなど、大人が出入りする場所にステッカーを貼ってもらっています。神奈川県川崎市内を中心に30か所あります」
そして、もうひとつ。
「プロフェッショナルな先生に来ていただいて、体験しながら学ぶ場を作っています。農園での収穫体験やアート作品作り、スマホアプリのプログラミングを学んだり。自宅で基礎学習の時間を取れば、楽しく地域で学ぶ方法はいくらでもあるんです。うちのように学校に行かなくても子どもはちゃんと育つんです」
趣旨に賛同しステッカーを貼っている川崎市内の工作クラブの店主(67)は、
「多様化している世の中ですので、いろいろな学びがあっていいと思うんです。学校や家庭以外の選択肢が子どもに与えられるべきだと思います」
と参加する喜びを語った。
子どもの居場所作りを
全国で今、不登校の子どもたちを受け入れるフリースクールは約500校。ゲーム機やエレキギターを置くところもあり、子どもが興味を持つことを自由に学べる場として機能しているという。
フリースクール全国ネットワーク事務局長、松島裕之さん(35)は、
「学校がコース料理だとすれば、それ以外はバイキングのようなもの。必要なものを自分でチョイスしていく。フリースクールでも、学習塾でも、自宅でもいいんです」
と選択肢の重要性を伝え、
「文部科学省も、不登校が問題行動ではないことや、子どもの学校復帰だけを目標とするのではなく、社会的自立をさせることも目標とすると通知を出しています。学校に行くことだけが、子どもの育ち方ではないですから」
と、多様性のある社会の実現に期待する。
東京・三鷹図書館は8月21日から9月16日まで、子どもの自殺が多くなる時期に企画展示『つらい気持ちを抱えているきみへ』を、三鷹市内の全図書館と井の頭コミュニティ・センター図書室で行う。今年で3回目の実施だ。
「読んだら心が軽くなる本だけでなく相談先や市内での居場所がわかるリーフレットを展示します。ひとりで悩みを抱えて死にたいと思うくらいなら学校なんか行かなくていい。相談できる場所があるんだよって知ってほしい。当図書館は、今後も継続的に発信し、子どもたちを支えていきたいと考えています」(担当者)
社会の至る所に居場所ができれば、不登校の子どもを受け入れる器は大きくなる。
警察庁の調べでは昨年1年間で自殺した小中高生は357人。居場所があれば救えた命はきっと少なくない。